Ⅱ
スタンド オン アワー グラウンド
・俺
「広い……」
「広いな……」
「うんうん、これが地上だね」
ザザーン……
ザザーン……
嗚呼、海とはなんて広大なのだろう。どこまで行っても争いは無い。海は平和だよ。まさに海は広いな大きいな。
「初めて、来た」
「俺もここまで綺麗な海は仕事で一度しか見た事ねえな。沖縄だけど」
「オキナワ?」
「俺のいた国のいっちばん南にある……そうだな、地域でいいな。まだ宇宙に出ることが叶わなかった生命体のコロニー的な物でもいい。そこは海が綺麗でな。ま、目の前の方が上だけど」
まさにエメラルドグリーン。テレビで見たポリネシアの海なんかよりも数段上だ。更に視界の右側の奥には巨大な氷河。左側の奥には火山が見える。風向き的と地形の関係でこちらへは絶対に火山灰が来ないそう。まさに大自然だ。
俺たちがいるのは惑星ルファの宇宙港。その近くにあるビーチで湾になっている。
この星はリゾートとして有名で多くの人が遊びに来るのだけど、この海を見たらそれも納得だ。多分半年は滞在するからどれだけ海に入れるかな?
「私は昔、スオームコロニーに移動する時に船の乗り換えで一度来たことがあるのだけど、その時から全く変わっていないね。宇宙港は少し大きくなっているけれど」
ビーチから真後ろを向くと空港のような施設がある。ここ惑星ルファには宇宙港はいくつもあるが俺たちが降りたのはその中でも最大のもの。広さはよく分からんレベル。
一大リゾート地なだけあって自家用宇宙船で訪れる人も多くその保管のために土地がかなり必要なのだとか。
この星にあるものは?と聞かれたら海と山と港、と答えるのが正解みたいなものだ。しかも港そのものが自然に配慮されたものだから余計タチが悪い。環境保護活動やってる人達は大喜びなんだろうな。便利になってさらに自然も保護されるから。
「ねえリュウ。これから何するの?」
「船はオッサンたちに一回預けて、呼ばれるまで待機だ。だから今日のうちにやるべき事は仮の宿を見つけることだな」
「でもここは観光地だよ?そう簡単には見つからないんじゃないかな?良ければー、確実に空いてるとこ教えたげるけど?」
アンジュはニヤニヤしながらなんか言ってきてるが、あんな色狂いは無視無視。はぁ、初めてあった時は本当に真面目そうなOLっぽい人だったのになんでだ?激務の反動か?
「うーん、こっからならこのホテルが良いかな。行くぞメーデン」
俺はデバイスに表示させたマップを見てちょうどいい所を探す。
「うん」
「あ、ちょっと置いてかないでよ。一応私もクルーなんでしょ」
「脱がなきゃまともな医官のクルーなんだけど」
ほんと、脱がなきゃな。
デバイスに表示したマップを見ながらしばらく歩くと左手にマンションみたいな建物が見えてきた。敷地への入口には「サンティ・オンホテル」とある。
「評価も高め、海も近く宇宙港も近いからなんかあってもすぐ行けるな」
「うん、でも空いてる?人気そうだよ」
「そんときは他に探そうぜ。飛び込みでも受け付けてるからいきなり断られるってのは無さそうだし」
そこまで高すぎずボロすぎずのホテルって案外いい土地に有りながら空いてるんだよね。今までの仕事の経験上な。
「はい。……長期滞在の四人部屋でしたら空いております。申し訳ありませんが、一人、二人部屋は満室となっております」
な、空いてただろ?でも四人部屋以外空いてないというのは予想外。
「どうする?アンジュとメーデンはここで泊まって俺だけ別のとこでもいいが?」
オレとメーデンならば気をつければいいだけだから何とかなるが、そこにアンジュが加わるならば話は変わってくる。
「私も気にしないさ。それに今までも船で一緒に過ごしただろう……って何度もしたような?」
「わかったよ。じゃあそういうことで。四人部屋をとりあえず一ヶ月で」
「かしこまりました。代金などは後ほど請求書をお持ちします。ではこちらが鍵です」
「ありがとう」
今どき珍しい金属鍵を渡され番号を見ると七階か。景色はよさそうだな。
エレベーターに乗り、俺たちが滞在する部屋へと向かう。部屋の配置的に街側と海側があるが、どうなんだろう?
「リュウ、海側」
メーデンが指さした部屋のドアが俺たちの部屋だった。すぐに開けると、部屋に入った途端目に入ってくるオーシャンビュー。海側の壁そのものがガラス張りで、晴れた海がとてもよく見える。
「すごい……!」
「おおー、これはなかなかすごいね」
「これならここで正解だったな。後で海にも行ってみるか」
部屋の間取り的には玄関入ってリビング、隣に寝室だ。そのどちらもオーシャンビューだが、寝室の方は光の入り方を調節するとかで遮光も出来るそうだ。
「遠く、遠くまで……!」
メーデンが珍しくはしゃいでるな。目をキラキラさせて窓に張り付いている。まるでトランペットを眺める少年だな。
「さてと、船から引っ張り出せた荷物は後でオッサンたちの知り合いがここまで持ってきてくれるそうだ。さっき連絡入れたからな」
「君の言うアイアン君とかのことかい?」
「そうだな。あとは私物類……っとそうだ。アンジュの私物買わなきゃな。ほぼ着の身着のままだろ?」
「そうだね。軍の船の中ならある程度変えられたけど、私の私物はこれだけだ」
彼女が身に纏うのは黒のズボンに白のシャツ、さらに白衣だけ。あと靴とかあるけどそっちは一回置いておく。
「じゃあひとまずアンジュは服だな。あとスーツケース……こんなのを一つか二つ買ってきて欲しい」
俺はデバイスに画像を出しながら二人に頼む。
「わかったよ。リュウはどうするんだい?」
「このまま一回オッサンたちの方顔出す。向こうとの顔合わせも兼ねてな」
「わかったよ。じゃあ集合は夕食どきかな?」
今の時間とこれから掛かる時間を何となく暗算し、俺は頷く。
「それじゃあ行ってくるよ。行こうか、メーデンちゃん」
「うん」
俺は手を振って見送り、しばらくしてから下に降りて海に向かう。何をするって?少なくともナンパじゃないな。メーデンに何言われるかわからんし。
「お、いたいた」
俺は海の家みたいな建物の前で酒を飲んでいるオッサンに近づく。
「来たな。よし、ならば向かうか」
「おう。ところでなんでここを待ち合わせ場所に?」
「そりゃあ……美味い酒があるからだが?」
「そうか……」
確かにデカい瓶があるが。オッサンが酒を入れたコップを差し出してきたから一口貰う。
「おお、美味い。ここの特産か?」
「そうだ。果実と目の前の海の水を蒸留してから発酵させて作んだ」
へぇー、海の水を。帰りに買って夜飲むか。
それからオッサンの運転する車に乗せられ、海沿いをしばらく行くと、ビーチと繁華街を抜け、大きな建物が見えてくる。煙突は無いが、まるで工場のようだ。でもやけに人が居るな。何か観光出来るものがあるのか?
「あれが俺の知り合いがやってる第11造船所だ。観光地とも近いからそれを利用して船の博物館なんてのも運営している」
「博物館か。でも船を扱うなら両方とも上の方がいいんじゃないか?」
「造船は本来上だな。特に戦艦級以上のデカい船の造船に限っていえばそうだな。あとは大気圏突入能力を持たない船も含む」
「駆逐級から重巡級は違うのか?」
宇宙船なんてバカでかいの最初から宇宙空間で作った方がいいと思うんだが。
「戦艦級を使うのは主に軍だ。軍の船は完成すればすぐに基地へ持っていかれるが、地上で作ったら上まで持ち上げるコストがかかる。まあ他の大きさの船も同じなんだが、地上だと艤装がやりやすいってのがある」
「艤装を?それこそ上じゃないのか?」
「装甲板はそうなんだが、砲や装甲板なんかは正確な部品固定が求められるから浮遊する上より重力のある地上の方がやりやすいのさ」
正確な部品固定ね。確かに星に近づいて重力で艤装がすっぽ抜けましたじゃ笑えないな。部品それぞれの重量とかしっかりと力を掛けられる分やりやすいのかもな。でも気密性とかチェックするなら宇宙空間の方がいい気もするけど。
「よし着いたぞ」
車が止まったのは博物館を通り過ぎた奥の工場みたいな場所。目の前にはかなりでかい倉庫がある。
オッサンと俺はそのまま中に入ると、色々と資材が置かれていて、ラベルには装甲板と書いてあった。そしてそれを台車で運んでいる人であったり、奥で集まってなんか話してる集団。
「おーい、来たぞー」
「うん?おお、久しぶりだな!」
そしてオッサンの声に振り向いたのはその集団の長っぽい人。黒のタンクトップに短パンで絶対工場には居ちゃいけないタイプの人だ。快活そうな人で、海が近い場所らしく綺麗に焼けている。けど、ここは宇宙世界。元々あんな肌色の可能性が……
「これがお前さんの言っていたあの船のオーナーか?」
「そうだ。そしてフレームの次の持ち主さ」
「とうとうあいつも道具として使われるのか。たまに見てやってた身として感慨深いもんだな……っと俺はカナズチ。こいつとは腐れ縁よ」
「どうも、俺はリュウ。傭兵だ。あなたがここの造船所の?」
「そうだな。立場的には親方だが、外向きにはこの造船所のオーナーでもある。そしてお前さんの船を作る技術者だ」
「そうか。なら、よろしく頼む。オッサンの話だとすごい腕って聞いてるぜ」
「当たり前よ。ここで造船所構えてるんだ。それなりの腕はあると自負してるぜ」
俺たちがこうして話している間にもオッサンの指示で作業が始められていた。クレーンでさっきの装甲板を運んだり、色々なパーツを運んだりだ。
それから俺とカナズチさんはこれからの予定について話した。今から俺が貰い受けるフレームを見に行くが、完成までの大まかなスケジュールだな。
「フレームに装甲板貼り付けるのに最大で三週間。そこから内装とかをある程度組んで、エンジンを積み込むまでで二ヶ月。そこから残りの装甲板と武装含めた艤装を施して計半年か」
「お前さんらがこっちに向かってる最中に色々と聞けたからな。こっちの準備も出来た」
実は一週間ほど前にオッサンから船の装甲板とかについて聞かれた。
装甲板にも色々あって、レーザーなどの光学兵器に強い加工がされたもの。陽電子砲などのビーム兵器に強い加工がされたもの。ミサイルや小惑星破片なんかの実弾兵器や物体に強い加工がされたもの。大きく分けるとこの三つだ。他にも単純に分厚さを増やしたものやリアクティブアーマー化されたものなんかがあるそうだ。
まあ結局積層構造の特化せずにバランスよく作られた装甲板にしたけどな。万が一の交換にも対応出来るように色んなところで売られている人気のモデルを使用する。
「それにしても随分と下まで降りるんだな」
地球でも近年エレベーターはかなり技術進化して、かなりの速度で上下できるようになっている。
今乗っているエレベーターもそれなりの速度なはずなのだけどもう一分は乗っている。
「そろそろだ」
そんな話をしていたらすぐに着いた。業務用エレベーターを降りると、そこはかなり広く奥が見えない。イメージするなら東京地下の首都圏調整池だな。正式名称は俺も忘れたわ。
「これがお前さんの船、そのフレームだ。さっきはああ言ったが、既に装甲板貼り付け始めてる。が、特に問題無いだろ?」
彼はタブレットに画像を映す。でもすぐに見れるからチラ見しかしない。
「もちろんだ。仕事が早くて助かる」
「軍相手じゃこうはいかねえがな。あいつら、ちゃんと対価は払うから特に文句ねえんだが何分建造中は常に担当者配置して監視しやがる。そういう面では融通の効く傭兵相手は気楽なもんよ」
「監視ねえ、やっぱ技術漏洩を気にしてか?」
「そうだな。ま、使う技術は変わらねえから監視も何もねえんだがな。船作るって言っても所詮量産品だ。試験型ってのを手がけたこともあったが頓挫して、それからずっと軍は自分の基地で試験は済ませるようになっている」
量産品なのに機密を守るように隠す……なんかあると疑われてもおかしくは無いな。
「さてと、改めてこいつがそのフレームだ」
俺たちはそのフレームが置かれている場所のコンソールに向かい、画面を見る。そこにらカメラによる映像と設計図のようなものが映されていた。
上から見た図で、まるで第二次世界大戦頃の戦艦のような形をしていた。
「全長570メートル、宇宙船というよりは海上船によく見られる逆台形をしていて元々軍の特殊艦艇として開発されていたが、軍の高官サマの好みに合わなくてな。結局フレームだけで終わった。だが軍用だからフレームとしての強度なんかは普通の船以上。そのせいで変に解体するのも勿体なくてな。俺らもここに放置する他なかった」
確かに他の方向から見た図は地球の船と似ている。それに端の方に消し忘れたのか、万一これを解体処理する時に掛かる費用まで表示されている。あー、相場はわからんけど少なくともこれが高いってことは分かる。
それから、俺はカナヅチさんに船のフレームについて説明を受けていた。
フレームは当然ながら鉄ではなくて特殊合金、元軍用なのでやたらと金が掛かった質のいいもの。ただ、フレームに装甲板を張った場合、構造の問題で何層も張らないと十分な防御効果が得られないという欠点がある……これもはや欠陥だよな。
「この船体形状の関係でな……だが装甲板に関しては安心してくれ。これを作った当時と今じゃ技術に差がある。ちゃんと今なら装甲板を重ね張りしなくても十分な防御効果は得られるぞ。おっとそうだ。とりあえず簡易的な見積もりを先に伝えておこう。後で書類渡すが、全て合わせて2600万メルってとこだな」
「おお、ほぼ新品なのにそんなに安くなるのか」
「エンジンと基礎プログラムは持ち込みで
さらにフレームはこっちから提供する……となると随分安くなるな。仮に一から造船すると、エンジンが一番高くつくんだ」
「やっぱ機関部か。うちのエンジンはどうなんだ?」
「ありゃあ随分いい物だ。ちゃんと調整してやる。ジャンからも頼まれたからな」
「なら安心だ。頼んだ」
俺は中学とかで使った万力みたいな形をした装甲板を張り付ける機械の作業を眺めながら答える。
多分装甲板が全部張り付けられたら見た目は完全に戦艦だろう。そして宇宙船だから本物の宇宙戦艦だな。まあ戦艦級って括りがあるから違うかもしれないけど。
「ねえリュウ、どこに行くの?」
「ちょっとな。暇だし遠出だ」
翌日。服を調達したアンジュ含めた俺たちはレンタカーで街から離れたら山の方に来ていた。荷物はそれなりに多め。一目で泊まりがけとわかる量だ。
「へえ、運転出来たんだ」
「扱いは旧世紀のものと変わらないから。まあ運転システムが大量にある中から似ているの見つけるの疲れたけど」
右がアクセル、左がブレーキの地球によくあるものだ。
この車はいわゆるジ○プと呼ばれたものに近い。ガソリンでは無く電気で動くからかなり静か。
車を運転するのに宇宙世界では運転には免許は要らない。俺が船の操縦者だからだな。そもそも船の操縦にも免許は無く、睡眠学習、または厳格な講習の受講が義務付けられていることくらいだ。俺の場合アステールに睡眠学習させられたから知識がなくても運転出来るようなものだが。
「それにしても、ここまで発展したとしても整備は最低限で自然を楽しめるもんだな」
「半有機素材で作られた施設だからね。道なんかも発展させたとはいえ、最低限の施設を残して飲み込むも自然に任せているそうだよ。それで作られた自然もこの星では売りなんだから」
へぇー、半有機素材か。それに発展を利用して新たに作った自然。自然との調和ってやつかな?でも地球とは違うな。
発展させたものの中に管理された自然ではなくて、管理なんてない自然の中に最低限の設備を作り、最低限の整備だけで全てを自然に任せるタイプの調和。星丸々一つをリゾートに使えるだけの宇宙進出を果たしているからこその贅沢だな。
「アンジュ、半有機素材って?」
「自然に還るものと還らないものを合わせたものだよ。複数層の構造で、建物が自然に飲み込まれたとしても残ってしまう人工物が最低限になるようにされている。二対八か一対九くらいの割合でほとんどが自然に還るんだ」
「便利だね」
「でも自然に還るものは性質上脆いんだ。だからこそ自然に飲み込まれても還ってしまうのだけどね。最近は割合を変えてるって話も聞くけどね。必要な部分が飲み込まれて補修が大変だって聞いたね」
やっぱ大自然ってすげえな。こっちが工夫したらその分だけ取り込んでいくんだ。狭い地域の小さな変化でも星規模にまで広げると大きなものとなる。
「飲み込まれる前提か……」
知的生命体はそこまで傲慢になれるのか。それにはある種の感銘すら受ける。
「ったく、ここまで来れば、いや生命体ってのはどこまで行くのかね」
「どういうことだい?」
「俺ら知的生命体……俺の星では人と言ったが、人はあくまでも自然に蹂躙される側さ。たとえ木を伐採し、堤防を作っても自然はいつか俺らの住処を壊していく……それは自然の摂理だ」
「そうだね。私たちの命を奪うのは自然そのものだね」
「俺ら知的生命体は自然に抗える物を作る。そうして自らの生活を形作っていくわけだ」
「リュウ、うまくわからない」
メーデンはいまいち分かっていない様子。まあ無理もないか。
「そうだな……」
メーデンにどう教えればいいんだろう。結構抽象的だから難しいな。
「例えば道を作るにはどうする?車が走れる道を」
「? 舗装するよ」
「そうだな。ならばその舗装された道の下には元の土があるよな?」
「うん」
「すると、いつかは舗装された道を破ってその土から植物が生えてくる。そうしてその道は自然に破壊されていくわけだ」
「あ、わかったかも。自然を切り開いて道だけじゃなくて建物も作っていくってこと?」
「まあそうだな」
俺はそう答えつつハンドルを切って、さらに山の中へ入っていくように目的地へと向かっていく。
「だけど、この星は生命体が上にいると見せかけている」
「見せかけている?どう見ても自然が上じゃないのかい?」
「実際はその通りだ。というか知的生命体が自然に勝てることは有り得ない。例外は無いからな。だがこの星は俺らの立場が自然に対しほんの一部だけ優位に立とうとすることで自然を管理していると見せかけているのさ」
「……なるほどね」
「お、わかったか」
「確かに君の言いたいことが少しはわかったよ。私たちはどこまで行くのか。これ以上行けばまさに傲慢だね」
「プロパガンダも使いよう。『私たちは自然に建物が飲み込まれてもその建物は自然に影響は与えません。いざ自然に優しい社会を』まあそんな感じで言っておけば自然保護団体は大喜び。税金団体とかにも発展した街の一部と遠くに豊かな自然を映した映像でも見しとけば大喜び。どうせこの辺りに住んでる奴しかわからんよ。外に向けて発信された情報だとこの星は豊かな自然と発展した街並み、共存だ。さらに自然には影響を与えない建物での街づくり。ある意味では管理出来てるよな」
「そうだね。使い方にでは制御も出来る。自然に手を出す傲慢の極みだ」
「ま、自然ってのは金の成る木だ。消費しても金を生み出すし、消費せず見た目を活かしても金を生む。ショッピング、パフォーマンス、どう扱おうと金になる。そこには結局利権しか絡まない。最終的には人の命だって消耗品で、必要無くなれば消すし、場合によっては代わりに消されてしまう。順序の違いでしかないよ。お、ほら見えてきたぞ」
左手には谷があって対岸に大きな滝が。目的地はその先だが、あれがあるということはあと一時間も経たずに到着するだろう。
「帰りには寄りたいな。あれ、メーデンは?」
「ふふっ、寝ちゃってるよ。確かに退屈な話だったかもね」
それに疲れてるのかもな。中身はともかく、見た目はまだ幼い少女。体力的にも厳しいものはあるだろう。ここ数週間色々あってまともに休めたのはそこまで無いからな。
起こさないように出来るだけ静かに運転しようか。
それから少し。俺たちは山の中のコテージに到着した。木製の平屋で、綺麗だから建てられてからまだ数年っぽいな。
「すごい……!」
メーデンは目をキラキラさせている。そうだよな。こういう所に泊まるのは初めてだよな。写真でしか見たこと無かっただろうし、行きたがってもいた。せめて落ち着いた今は連れてきてあげたかったのだ。
……思い出すのだろうか。
ここからは目の前に大きな湖があって、その向こうには氷河とそれを有する山脈が。奥の山はエベレストクラスか。
まるでヒマラヤなのだ。
彼女も憧れていたよ。
「リュウ、あの山、行ってみたい!」
メーデンも一番高い山を指さしてはしゃぐ。そこ、アンジュまでなんでウキウキになってるんだ。荷物はどうした。
「はは、メーデン。山ってのはな登るのもいいが、見るのも良いんだぞ。正直あの山まで行ける自信が無い」
「そっか……」
「ま、時間があれば行ってみよう。道くらいは調べりゃでるだろ」
パアァ!
おお、メーデンの顔がものすごい笑顔に。ははっ、こりゃあ何としても行くしかないな。
……登らない方向で。
メーデンが景色を眺める中、俺とアンジュは荷物をコテージの中に運ぶ。まあスーツケース二つと食材だけなんだけどな。デカい車乗ってきたのに持ってきたのはこれだけだ。実は宿泊するコテージにバーベキューセットなんかが一通り揃っているみたいで、それを使おうって話になったのだ。
「それじゃあ早速始めるかい?お腹はペコペコだよ」
「なら始めるか。おーいメーデン!始めるぞ」
あっちをキョロキョロ、こっちをキョロキョロとまるでお上りさんなメーデンを呼び戻す。
俺は一度運び込んだ肉や野菜の入ったクーラーボックスを担いで、外に出ると続いてコテージからワゴンのようなバーベキューグリルを引っ張ってアンジュが出てきた。
「かなりいい物だよ。美味しく出来そうだ」
「肉を美味くするのは機械じゃなくて人の腕だよ」
アイアンくんでは出来ない……細かな味の変化とかな。
俺は買ってきた炭をバーベキューグリルに入れて火をつける。街で炭が売っていたのは助かった。何に使うのかと思っていたけど、どうやらリゾート関連で使うらしい。
「これはなんだい?この黒いの」
ああ、さすがにアンジュは知らないか。コロニーの中で炭なんて使っちゃダメだろうし。
「炭だ。木とかを燃やすと作ることが出来る。古くは燃料として使われたんだ」
「へぇ、旧世紀のものか」
「旧世紀でも随分と古い頃だ。俺が生きていた頃には古代生物の死骸が変化した石油……化石燃料を使っていた。もちろん、炭も使われる所では使われていたぞ」
アンジュと話しながら俺は肉を網に乗せていく。既にメーデンは少し涎を垂らしてじっと見ている。
「燃料……粒子加速エンジンは無かったのかい」
ははっ、今の人々にとっては粒子加速エンジンが一般的なエネルギー源だからな。アンジュもそういうか。
「もちろん。空想上の存在だ。後にその原型はあったみたいだけどな。せいぜい核が限界だった」
「核……なるほど、史上最悪の発明品と記録されているよ。兵器として使われているが……前に話した旧世紀の人間は何も言わなかったけどね」
「言語が通じないんだからな。こっちから何言ってもわからんよ。ただ、開発された当時は未来のエネルギーだった……っと、焼けたぞ」
「ありがと」
わかりやすく待ちきれなさそうなメーデンのさらに小さく切ったスペアリブを乗せる。
俺も焼きあがった骨付きソーセージにタレを付けて頬張る。
「あっつ!!」
「あはは、そりゃそうだよ。出来たてだよ?」
「自分で焼いたのに忘れてた……」
舌も火傷したし……でもメーデンが美味そうで何より。
さてと次はマンガ肉ーっと。
ちなみに今回俺たちが食っているのは大半が人工肉だが、いくらかは本物の肉を使っている。このマンガ肉もその一つで、どういう生物が元なのかはわからないが、見た目はそのまんまで、ロマンだけで買ってきた。お値段なんと2万メル。ただ、それに見合う大きさがある。
そのまま焼いて味付けは塩と胡椒……みたいなやつ。さすが宇宙世界、塩はともかく胡椒は近いものしか見つからなかった。とにかく、これで完成だ。
「リュウ、ずるい」
「さっき聞いたとき要らないって言ったじゃないか」
「むう、あの時とは別」
はは……まあさすがにこれ一つを俺だけで食うのは多いしな。
俺はナイフで骨から削ぎ落とすように肉を切り分けていく。もちろん、骨には残しておく。かぶりつくためにな。
「うわぁ……!」
彼女の目の前には結果として大量の肉の山。俺とアンジュが焼いては乗せ、焼いては乗せと積んでいるからだ。そこに俺の肉。メーデンが目をキラキラさせるのも無理はない。
「じゃあ俺も……あむっ」
両手で骨を掴んで、肉に思い切りかぶりつく。味付けは塩と胡椒で、肉汁が一番の味付けだ。
しっかりと噛みごたえがありながら筋張っている訳ではなく、高級なステーキのような旨みと油の甘みがある。
男の子の夢のマンガ肉。本物はこういうものなんだな。
「ああ……こうして食べるの夢だった……」
こうして、美しい景色と共に、夢の時間は過ぎてゆくのだった。
★★★★★★★★★★★★
さっきと同じように3話ずつ投稿やってくよ!
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