来た
ユッキー社長の予言は翌年に不幸にも的中します。例のコースに彗星がまたも突然出現したのです。
「今回はNASAも早かったですね」
「否定するだけ無駄って判断でしょ」
今回の地球側の動きは早かった。ユッキー社長は地球全権代表になり、ECO代表にも復帰しています。出現からおよそ半年で到着するはずです。
「また神戸ですか?」
「ジュシュルの言葉が正しければね」
地球側は歓迎ムード一色に染まっていますが、
「ユッキー社長、来るのはジュシュルでしょうか」
そしたらコトリ副社長が、
「来てみないとわからへんよ。ジュシュルの可能性もあるけど、アダブやディスカルの可能性もある。他にも・・・」
「他の可能性もあるのですか」
「可能性だけやで。反ジュシュル派の地球亡命の可能性もあるやんか。アラの時のように」
近づいてくる宇宙船ですが、
「ユッキー、やばいで」
「やはり船の限界か、時空トンネルを抜けた時の損傷だろうね」
そうなんです。彗星が尾を曳き始めたのです。ミサキも覚えていますが、アラの時がそうでした。あの時は九本の壮大な尾を曳き、オーストラリアのグレートサンディ砂漠に墜落しています。
「故障ですか」
「可能性は高いよ」
ユッキー社長はECO代表として宇宙船の故障の可能性を発表し、各国に救援体制の準備を要請します。
「ユッキー社長、女神の力でなんとかならないのですか」
「出来るのならやってるよ。今は祈るしかないよ。望みはエランのダメージ・コントロール・システム。あれはかなり優秀みたいで、アラの船もなんとか地球まで引っ張って来れたぐらいだから」
地球着陸のリスクが高い点から地球周回軌道上での救助も検討されましたが、到底無理の結論になっています。言葉の壁もありますが、双方の宇宙船の規格の相違、それより何より大きさの違いが致命的です。
エランの宇宙船は百人単位が乗り組めますが、地球の宇宙船はせいぜい一人か二人しか救助できません。だからと言って百隻以上の宇宙船を飛ばして救助を行うなど、地球の宇宙能力では夢のまた夢状態です。宇宙ステーションを活用しても、せいぜい十人程度になります。
「ミサキちゃん。焦る気持ちはわかるけど、地球の力、女神の力でも、宇宙船が着陸してくれないと手の出しようがないのよ」
「でも尾が二本に・・・」
「心配しているのは私も同じ、コトリだってそうよ。でもあの男たちなら、必ず着陸させてみせるよ。それを信じよう」
宇宙船が故障し、最悪墜落の危険性が公表されたことにより、世論が変わらないか心配していましたが、逆に、
『エランの宇宙船を救え』
この声が大きくなっています。おそらく六年前に良いイメージを残していた効果だと思っています。世界各地で無事着陸を祈る行事や集会が行われています。
「ユッキー社長、うちも祈るぐらいしませんか」
「それならコトリを呼んできて」
ミサキも初めて見ましたが、エレギオン式の祭祀を執り行いました。荘厳かつ心に響くようなものです。これをきっちり二時間。
「朝夕の祭祀だよ。千年ぶりかな」
「そやな、途中からキリスト教式に切り替えたし」
そしてついに尾が三本になります。もうミサキの胸は張り裂けそうです。ディスカルは乗ってるの、まだ無事なの、なんとか生きて着陸して。生きてさえいれば、この癒しの女神の命に代えても必ず治してみせる。
「ミサキちゃん。尾が増えたのは良い兆候とは言わへんけど、必ずしも悪いことばっかりやないで。あれはダメージ・コントロール・システムが確実に作動している証拠でもあるんや」
「そうかもしれませんが・・・」
「待たなアカン時は、じっと待つんや。そして動く時には躊躇わずに動く。とりあえず地上の救援体制の再確認やっといてくれる」
各国に問い合わせての準備状況の再確認です。これはどこも前向きに取り組んでいることに感謝しています。
「ユッキー社長、エランからの連絡は?」
「まだ遠いよ。こっちはスマホだから、地球周回軌道ぐらいに近づかないと無理だよ」
「ではNASDAに、いやNASAに、バイコミュールはどうなんですか」
「エランも言葉が通じないところに連絡は取らないよ」
あんまりミサキがエランからの連絡の有無を確認するものだから、ユッキー社長は顔を合せると、
「まだだよ。少し休んだらどう」
「休んでなんかいられませんよ。宇宙船の中では必死の作業が行われているのです」
ああこんな事なら一緒にエランに行けば良かった。あの時のミサキには勇気がなかった。食い物がなによ、ビールが無いのが何よ。本当に愛する人を追いかけるのが女神じゃないの。それで地球離陸で空中分解しようが、時空トンネルで遭難しようが、エランに墜落しようが些細なことじゃないの。
もう心配と、後悔とイライラが鎮め様もありません。そしたらコトリ副社長が手を取って、
「リラックス、リラックス」
これは癒しの力。それもなんて力強くて優しい。苛立ち切っていたミサキの心が落ち着いていきます。
「コトリ副社長にも出来るのですね」
「そりゃ、そうや。誰が作ったと思てるんよ」
「でも待つのは辛いですね」
コトリ副社長は微笑みながら、
「ミサキちゃんもエエ恋してるやない。コトリもアダブやったら今度は逃さへん。ユッキーだってジュシュルなら受け入れるよ。それぐらい本気だよ」
「はい」
「物事には動く時と、待つ時があって、待つ時にはじっとパワーを蓄えとくんや。それをいざ本番で爆発させなアカン。ここで気使いすぎて疲れ果ててしもたら、後悔するで。だいじょうぶ、必ず着陸する。すべてはそこから始まる。そこまで待つんや」
やはり経験の差は桁違いです。でもこれで、ちょっと落ち着きました。
「コトリ副社長も後悔してますか」
「どうやろ。結ばれる時は結ばれるし、結ばれへん時はどんなに足掻いても結ばれへん。あの時に行った方が良かったかどうかは、どっちも出来へんから、あんまり後悔せんことにしてる。それより、再び巡って来たチャンスにコトリは燃えるで」
そうだ、二度目のチャンスが来たんだ。結ばれる宿命であれば、あの船にはディスカルが乗っていて、無事に地球に降り立つはず。
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