6 てんてんはねるはおかしなボール!?
あのあと、本当に大変だった。
月湖ちゃんやパトリスちゃんのこと、クラスメイトになった子からいろいろ聞かれて、なんとか誤解はとけたけど、それでもボクも変わった子みたいにまだ見られてる。
まあ、悪い気分じゃないけど……普通のつまらない自分より、ウワサのほうの変わった自分のほうが、個性的でいいし。
ボクは特になんの特技も変わったところもないから、ウワサでくらい変な目だつ子でいさせてほしい。
正直、大胆な月湖ちゃんやクールなパトリスちゃん、うらやましいんだよな。
「すいません、空閑直陽さんってここのクラスですか?」
そんなことを考えてた休み時間、教室の扉が開いて、声がした。自分の名前が耳に入って、びっくりする。
ボク、なにかしたっけ? 怖いんだけど……。
「空閑って誰だ」
「ほらさっきの、とんでも二人組にはさまれてた子だよ」
「とんでも二人組っていうか、三人組じゃん」
ひ、ひええ。目だちたいとは思ったけど、こんな急に目だってもこまるよう。
思わずちぢこまってると、ボクの名前を呼んだ人がクラスメイトに案内されて、こっちにきた。
え、高等部の制服?
「やっほー、直陽ちゃん」
「あ、か、花袋!?」
そこにいたのは、高等部のダブルボタンのブレザーを着こなして、きちんと髪を整えた花袋がいた。
休みに会ったときとだいぶ印象が違う。かっこいい。お母さんの前で見せた猫かぶりとにた感じだ。
「花袋もこの学校だったの?」
「うん。いやー、私もびっくりだよ。直陽ちゃんが凶暴なクラスメイト二人をてなずけたってウワサを聞いてきたんだけど」
「違うよっ! そんなことしてないよ!」
ウワサというのはおそろしい。いくらでも尾ひれがつく。
「なんだ違うんだー、おもしろいと思ったのにい」
「ボクはただ巻きこまれただけだし……」
「ずいぶん冷たいことを言うじゃないか直陽! オレとキサマは友だちになっただろう!」
そう言いながら、月湖ちゃんがずいっとわってはいる。
い、いたんだ···。
「あ、この子がその凶暴なクラスメイトの子?」
「凶暴ではないが、オレこそが直陽の友だち。一年C組の湖上月湖だ! 覚えておくといいことがあるぞ」
「そっか。よろしくー。私とも友だちになる?」
「いいぞ! キサマの名を教えろ!」
高等部の子と普通に話す月湖ちゃんとボクのことをみんなが見る。
なんか、すごいむずむずする。とりあえずこの場を離れよう。
「ご、ごめん、ボク、トイレ!」
二人にそう謝って、そそくさその場を抜ける。
とりあえず休み時間はトイレで時間をつぶそう。せっかくきてくれた花袋には悪いけど……。
急ぎ足で廊下を歩いて、さっき先生が言ってたトイレの場所に向かおうとする。
「……ん?」
あまり人気のない南階段にまできたとき、階段でうずくまってる人影を発見する。
え、大丈夫かな……。体調が悪いとか?
そう思って近づいてみると、そこにいたのは、白に近い金髪の目だつパトリスちゃんだった。
「ぐうぐう」
寝てるだけだった。なんだ……びっくりした。
「パトリスちゃん、そろそろ十分休み終わるよ?」
「んう、あと十分」
「いやそれじゃ遅れるよ!?」
「やーだー、もう帰りたい」
……この子、まさか。うすうす思ってたけど。
クールというか、ただの超マイペースな子だ!!
花袋もけっこうマイペースだけど、花袋の行動的なマイペースと違って、多分この子はのんびりタイプのマイペース。
こういう子はなかなか動かない。
「だってどうせあとレクリエーションと入学式だけじゃん……」
「いやめっちゃ大事だよ!? ここでさぼったらクラスの子と仲よくなれなくなるよ!?」
「べつにー……。仲よくなりたいと思わないし」
「けど、入学式出ないと先生から叱られるよ?」
「あー、それはやだな……」
ようやくパトリスちゃんはやる気になったのか、あくびをしながら立ちあがる。
顔が綺麗だから、あくびをする姿さえ絵になる。うらやましい。
「それじゃ、行こっか」
「……ちょっと待って」
「え?」
どうしたの? まさかやっぱり行きたくないとか言うんじゃ……。
「……うーん」
「どうしたの?」
「いや……
階段の下を見ながら、パトリスちゃんは難しい顔をする。
なんだろう、と下をのぞいてみると。
てんっ、てんてん、てん……。
「あれ?」
そこにあったのは、体育の授業で使うバスケットボール。なんかきたない。
それが学校にあることは別におかしくはないんだけど、どうして体育館から離れた階段に?
しかも、誰もいないのにてんてんと音をたてながらはねている。
ポルターガイストってやつ?
「なんだろあれ……」
「さがって」
「へ?」
パトリスちゃんがボクの前に出て、ボールを睨みつける。
え? どういうこと?
『パトリス! あいつアサンブラージュだ!!』
急に聞こえてきたのは、レイニーににた声。
けどレイニーよりすこし感情がこもってる。
ま、まさか。
「……わかってるよ」
パトリスちゃんはスマホをポケットから取り出して、起動する。
スマホを自分の顔の前にかまえて、つぶやいた。
「BSAI、リリーススタート」
『認識クリア!
そのBSAIのかけ声と同時に、ホログラムがぶわっとパトリスちゃんの周りに出る。それらは形を変えて、黄色のリリーススーツになっていく。
パトリスちゃんはスーツを身にまとって、なれたように名のった。
「カナリーカナリア、参上だよ」
パトリスちゃんは、バランサーだった。
「え、ええ···え!? パトリスちゃ……」
「……あれ、直陽……もしかして、きみもバランサー?」
「えっ、なんでわかったの!?」
「いや、バランサーじゃない人の前でリリースしたら、その人の記憶がぼかされて、バランサーの正体がわからなくなるはずだから」
そうなんだ……またもやハイテクな。まあ、個人情報は大事だからね。
「じゃあ直陽もはやくリリースしたほうがいいよ、あれ、アサンブラージュだし」
「えーっと……スマホ、教室に忘れちゃって……」
「それぐらいの距離だったら……ここでもリリースできると思う。BSAIに呼びかけて――」
そう話してたとき。
「キイイイイー!!」
「うわっ!?」
ボールが急に大きくとびはねて、ないはずの口を大きく開け、こっちに向かっておそいかかってきた。敵は待ってくれないのだ。
ボクは手で顔をおおって身を守るけど、パトリスちゃんはなんともない顔で、ボールをパンチして弾きとばす。
バアン!!
「ふうん……なかなかやるみたいじゃん」
『気をつけろ。コイツ、多分一体だけじゃない。というか、操ってる本体が別にいる』
「本体が別に!?」
驚く。ということは、前のとは違って、強くてやっかいなんだろう。
そんなやつ相手に勝てるのかな···。
「つまり、このアサンブラージュになったボールが他にもあるってことね……」
そう言って、パトリスちゃんはにやりと笑う。
「手応えありそうじゃん」
……キャラ、変わってない?
『あー、すまん。コイツ、戦いになるとすごいテンションがあがるんだ』
リリーススーツの中の、パトリスちゃんのBSAIが申し訳なさそうに言う。
「とりあえず直陽もリリースして。そこで声をBSAIにかけるだけで大丈夫だから」
「う、うん……BSAI、リリーススタート!」
本当かな、とすこし不安に思いながら、前レイニーに教わったとおり声をあげる。
すると、どこからか前と同じようにホログラムが出て、するりとリリースできてしまった。
「お、おおー……」
『空閑サマ。スマートフォンを置いていくとは感心しません』
「しかたないじゃん、トイレ行く予定だったんだもん」
あいかわらず冷たいレイニーに言葉を返す。
「とにかく、ボールのアサンブラージュを倒しながら本体を探そう」
「そうだね···にしても、このボールって何個あるんだろ」
「何個あっても全部ぶっとばせばいいだけ」
パトリスちゃんはそう言って階段のほうをまた見る。
なんと階段から、何個もボールがはねてきた。てんてんという音が、どんどん! とやかましい音になる。
「楽しくなってきたね、それじゃいくよっ!! はははっ!!」
休み時間が終わるチャイムの音と同時に、パトリスちゃんはとびだす。
くらいついてくるボールを、言葉どおり全部とばしてなぐってさばく。戦いなれしてるのか、すごく手際がいい。
でも……なんだろう、この違和感。
「パトリスちゃん! 本体ってどこだと思う!?」
とりあえず階段を降りながらボールに攻撃をする。でも、行く先が決まってなきゃどうにも動けない。
「こいつらはボールだから、多分体育館に本体がいるんじゃない!? 決めつけだけど!」
「体育館!?」
それじゃ、入学式がめちゃくちゃになっちゃう。
いや、校舎にアサンブラージュが出てる時点で危ない状況なんだけども。
「思いあたるところも他にないし、とりあえず行ってみよう! あと、この調子じゃ多分――」
「うわあああ!!」
階段を降りたとき、廊下から悲鳴が聞こえた。
そっちを見ると、男子生徒がはねるボールを前に座りこんでる。
「か、
「え、誰それ?」
「ボクの幼なじみのおにいちゃん!」
昔はよく一緒に遊んでたけど、最近は顔をあわせることもほとんどなくなってたから、どこの学校に行ったかも知らなかった。
まさか同じ学校だったとは。
「たすっ、ける!」
助走をつけて、全力で走る。
風博にいを襲おうとするボールに、勢いそのままにかかとおとしをかました。
「ギイイイイ···!!」
「大丈夫!?」
「ば……バランサー!? ありがとう……」
「近くの教室の人に、教室から出ないでって言って! アサンブラージュがいっぱい出てる!」
そう言うと、風博にいは少し考えてから返答する。
「それなら放送を使ったほうがはやいと思う。俺は放送委員だし、放送室の鍵はいつも入口に置きっぱなしになってるから、すぐに放送をかけられる」
「そっか」
さすが風博にい。こういうときでも頭の回転がはやい。
「じゃあ、お願い!」
「わかった!」
風博にいとは逆方向に走り、ボクとパトリスちゃんは体育館に向かう。
「やばい、ボールがどんどん増えてるっ」
「どけどけ!! おまえらにかまってるひまっ……ねーんだよお!!」
なんとか二人でボールを倒すけど、いかんせん数が多い。多すぎる。
これ、他の教室とか、高等部のほうとか大丈夫なの?
花袋も戦ってるとは思うけど……。
教室からも、異変に気づいたみんなが廊下に出だす。
けど、みんなが廊下に出れば出るほど、ボールはそっちを狙うし、こっちとしても戦いづらい。
「バランサー! 助けて! こっちにきた!」
「うわっ、くるなー!!」
「なんだこれ!?」
みんながわあわあと騒ぎだす。どうしよう。ボクらだって万能じゃないのに……。
「全員伏せろーーー!!」
そのとき、大きな声があたりに響いた。みんな反射的に廊下に伏せる。
すると、人影がひとつ、大きなジャンプをした。
「スタンプ・インパクトー!!」
ダンッ!!
その影が着地すると、とんでもない勢いの衝撃がくる。
けど、その衝撃は、ボールだけを狙って当たった。
なぜなら、その人もバランサーだから。
「す、すごい……いっぱいいた敵がもう……」
「オレのスキルは広い範囲にもきくからな。まあ、このアサンブラージュたちがそんなに強くなかったから、一発でなんとかなったんだが」
そう言いながらこっちへきたのは、紫のボディをした、スマートなシルエットのバランサー。
「遅れてすまん! ヘリオトロープフォックス、参戦だ!」
そう名のった相手を見ていると、レイニーがつぶやく。
『空閑サマ。すごい偶然ですね』
「え?」
『彼女、ヘリオトロープフォックスは湖上月湖ですよ』
「……え、えええっ!?」
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