ヒーロータイムはこの仲間と!

花成花蕗

ヒーロータイムのはじまり

1 ボクの日常、いたってフツー!?

はあ!? と思わず声が出そうになった。頭の中はかんかんに熱くなってる。

手に持つゲーム機から聞こえるのは、無責任な『ゲームオーバー』の音。

ボクがさっきまで操作してたキャラはどのボタンを押しても動かず、ただ暗い背景をうしろに倒れたままだ。

「ううう~……せっかくここまできたのにぃ!」

ボクは腹をたてて、ついゲーム機を放りなげてしまう。

ベッドの上だから、壊れはしなかったけど。

「ちぇっ、やーめた」

ひとりごとを言いながらごろんとベッドの上で転がる。

さっきまで読んでた雑誌を取って、また読み返すことにした。

「はあ……休みもずっと続くとさすがにひまだなあ」

長かった小学校生活六年間も終わって、今は春休み。

まじめな子はきたるべき中学での勉強に向けて予習復習をこなしてるんだろうけど、ボクはそんなの、まっぴらごめんだ。

ひまはひまだけど、机に向かって教科書にかじりつきたい訳じゃあない。

「ひまな春休みだけど、実は怪盗のあとをつぐことになるとかはないし、学校に立てこもり犯はこないし」

前に図書室で読んだ小説を思いだしながら、雑誌をめくる。

雑誌に写るのは、ロボットのような見た目をした、たとえるなら特撮に出てくるようなヒーローのような姿の人。

一見シンプルながらも、ネオンカラーの装飾やきらりと光る金属板が、その姿をかっこよく見せる。

「……いいなあ」

ボクには届きっこない存在。

つまりは、雲の上の存在ってやつだ。

直陽なおはる、直陽!」

「ふあいっ!?」

どんどんと部屋の扉が叩かれて、驚きのあまり変な声が出ちゃう。お母さんの声だ。

「どうしたのさ、ボクになんか用?」

「あいかわらずその喋り方どうにかならないの? かわいい女の子なんだから、そんな気取ったおかしい喋り方にあわないよ。それに、『ボク』なんて」

「いいじゃんか。どんな喋り方しようがボクの自由だろ」

「……ま、いいわ。直陽、これから今日の夜ご飯の材料と、あなたのおやつ買いに行くけど、着いてく?」

「着いてく!」

おやつの言葉につられて、ばっと起きあがる。これは早く準備しなくちゃ。

「それじゃ待っててよ。すぐ着がえちゃうから」

「はーい」

お母さんが階段を降りる音を聞きながら、ボク、空閑そらしず直陽は、クロゼットを開くのだった。

今日起きるとんでもないことなんか、考えもせずに。


ショッピングモールは、そこそこ混んでた。

春休み中は家に子どもがいるから、ご飯を作るお父さんお母さんは大変だろうな。

そう考えながら、板チョコをカゴに入れる。もちろん味はビターだ。

「お」

明日のぶんも買っておこうとおかしコーナーを見ていたら、そこにはさっき雑誌で見た、ロボット姿の人が袋にプリントされたウエハースがあった。カードがついてくるらしい。

「すごいなあ……」

ロボット姿、いや性格にはリリーススーツに身をつつんだヒーローをじっと見る。見たところで、ボクがなれる訳はないんだけど。

彼ら彼女らは、バランサーと呼ばれるヒーローだ。世界のバランスを守る、だからバランサー。毎日、敵と戦う正義のヒーロー。

十数年前に世界に突然現れた敵、ブリコラージュは、目的も素性も明かすことなく、機械などの無機物を怪人にして、人を襲いだした。

それに対抗して各国のすごい人たちが作りあげたのが、リリーススーツ。

それを装着した人の能力を解放するっていう、すごいパワードスーツなんだ。

その人たちが戦ってる間、特別な人工知能、つまりはAIがその怪人をもとの機械に戻すためにワクチンを作る。

言っちゃえば、バランサーがやってることは時間かせぎなんだけど……それでも、怪人と戦う姿はすごくかっこいいし(動画サイトで何回か見たけど、本当にすごいの!)、誰かを守って、正体を明かさずさっそうと去るところとか、もうたまらない!

ボクもバランサーになりたい、って何回も思ったけど、バランサーには特別な人しかなれないとか、なるためにはすごく難しい試験をクリアしなきゃだめとか、いろんなウワサがある。

まあ、わかりやすく言えば、ボクには無理だってことだ。

サンタさんに毎回、なれるようにお願いしても、届いたのはバランサーのおもちゃ。そのたびに悔しかったけど、今はもう諦めちゃった。

なりたいって気持ちがなくなった訳じゃないけど、現実的に無理だから。

「けどこういうの見ると、昔のこと思いだすな」

ぼんやりとそのウエハースを見る。たしかこのバランサーは、最近有名になってきた、ハイドランジアキャットって名前の人だったよな。こっちはウルトラマリンパンサー。

「すごいな、商品になるなんて」

そうやって見ていると、肩に、どんとなにかが当たる。

思わず顔をあげると、そこにはだぼついた白いパーカーを着た人がいた。

かぶったフードからのぞく目が光って、それにどきりとする。

「あっ、ごめんね。ぶつかっちゃったみたい」

「い、いや、大丈夫です。ボクがぼーっとしてたのが悪いんで」

ついどもってしまう。最近あんまり人と喋ってないからだ。

「……それ、見てたの?」

「あ、はい」

棚に並んでいるウエハースをその人が指さす。

「かっこいいですよね、バランサーの人。『正義のために一直線!』って、有名なバランサーさんのセリフですけど、本当にそのとおりで」

「そうだね。けど」

「え?」

その人は手に持っているスマホをいじりながら言う。

なんでかわからないけど、また心臓が大きく動いた。

「自分から正義を名乗るやつに、ろくなやつはいないよ。世界には、正義も悪もないんだから」

「……そ、それってどういう――」

「じゃあ」

「あっ」

言葉の意味を聞こうとしたけど、その人はすたすたとすぐにどこかへ行ってしまった。

なんだったんだろう……。

そう考えてると、はっとする。そうだ、お母さん待たせてるじゃん! 早くおかし選んで行かないと!

ボクはウエハースを掴んでカゴに入れたあと、猛ダッシュでお母さんのところへ行った。

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