第8話 いざ行かん、リザードの住処へ-1

 日が地平線から出始めた頃、『赤の鋭岩』を目指してダグは森の中を歩いていた。バラルに話を聞いてから3日が経過していた。その3日である程度の家の建て直しと、ハーピアが留守番するために顔を極力隠して食料を買い込んでいた。

ようやく準備を終えるとぼろ家には愛馬のシャバックを娘のハーピアに任せて、単身で蜥蜴リザード族の住処に向かっていた。



(歩きだと意外に距離があるな)



 足下に道などなく、草をかき分けて進んでいく。

獣道とすら呼ぶことすら出来ない道を『住処』を目指す。途中、雑草がない少しだけ開けた大木の根元を見つけると休憩がてらダグはそこで腰を降ろす。そして腰につけた水筒を口にしながら、背負った荷物から1冊の薄い書物を取り出す。



(この書物を王宮の図書館で見つけたときには、本当に驚いた)



 古くシミが付いた1冊の書物、そこには『30-37日誌』と表紙に書かれていた。それは数十年前に書かれていたのか、所々文字が擦れて読めなくなっていたが、ダグは何度も反芻するようにについて注目する。




 ――レンロック王国が建国して30と3年。相も変わらず魔モノたちにより領民が脅かされ続けている。魔モノどもを討伐しようとしても徒労に終わることが多すぎた。我々が討伐隊を送り込もうにも、魔モノどもが暴れた地域に着いた頃には姿を消していたからだ。

討伐隊を送っても、まったく別の地域で魔モノどもが討伐隊を挑発するように暴れるからだ。魔モノが単純に暴れているのに、我々がその対応に追いついていないのが現状である。だが別の見方をすれば、異種の魔モノどもが密かに連携しているのではないかと思える節があるのだ。個々に暴れているならば、どこかでその魔モノどもを殲滅できたという戦果は上げられていてもおかしくはない。だがその戦果が上げられていないことをみると、これはどこかから指揮を執っている個体、あるいは群れがあるのではないかという説も浮上してくる。


 まるで我らの王の如く、指揮を行うほどの知能がある魔モノが居るとなれば非常に興味深いものだ。 43.9.12―― 



 (『ニコラ・グルロックが書す』か。俺でも知ってる名宰相だな。今は建国から81年だから結構昔の話だが……)



 ダグは将軍であったときからずっと疑問であったのだ。

何故、昔から――恐らく建国以来から魔モノの存在については頭痛の種であったはず。なのに現在に至るまで討伐が大々的に成功したという話は聞かなかったのだ。現在では隣国と摩擦があるせいで、国内に兵を送るのは難しいという側面があったのは確かであった。だが動乱の時代もあれば平穏な時代もあったはず。なのに国土の半分も魔モノたちに取られたままなのは腑に落ちなかったのだ。さらにダグは数ページ捲ると、その記載された項に顎に手を当てて考える。




 ――信じられない。聞き間違い、あるいは夢かもしれないが西の果ての地の森であの蜥蜴リザードたちが私たちと同じ言葉を話しているを聞いてしまった。魔モノどもにそのような知能があったならば、我らの討伐隊の裏を掻くことなど確かに容易であったはず。

ああ、あんな2本脚のケモノどもに――



 人の言語を話している魔モノの存在が記載されていたのだ。

その記載があったために、ダグはその真相を探るべくこの地域へと隠遁したのだ。もし、”言葉”が通じるならば交渉の余地も出てくる。




(……ついでに俺の長年の疑問も解けるかもな。ん?)




 赤岩はまだ遠い。獣道すら見つからぬ人里離れた土地。だが、木々の合間にちらちらと人影が動いているのが見える。それも男が3人、しかも見たところこの地域の人間とは少し違った顔つきであるように見えた。

男たちは”暴れる大袋”を押さえつけながら、後ろを気にして身を隠しながら駆けていた。嫌な予感めいたものを感じたダグは赤岩には向かわずにその3人を追跡する。



「あっ!」



 余程大暴れしたのか男が”袋”を地面へと落下する。

その大袋の口からオレンジの鱗に覆われた腕が飛び出してくる。その腕はこれから住処に行こうとしていた蜥蜴リザード族のものであった。

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