第6話 狩人バラルと孫のルゥ
たき火の傍には木の串に刺した魚が数匹並ぶ。
ダグはハーピアを木陰に休ませて、自身は少し離れた場所で魚の焼き具合を確かめる。そして魚の皮が斑にぷくぷくと膨らみ、焼き色が付いた頃には辺りには独特の香ばしい香りが広がっていた。
「あっちちっ!」
焼き上がった魚をダグは串を持ってたき火から離すと、小走りでハーピアの元へとそれを持って行く。
ハーピアは嬉しそうに魚を受け取ると、息で冷ましながら頬張る。熱そうに頬張るハーピアを見ながらダグもまたハーピアの隣へと腰を降ろすと魚に口をつける。
「……うんっ、美味しい。調味料を掛けてないけど結構いけるな」
たっぷりと脂ののった魚の白身が口の中で広がる。調味料を一切つけていないものの、魚本来の甘みと香りだけで十分な程のおいしさであった。
「あつっ、あつっ!」
ハーピアはまだ熱かったのか口から魚を離したのを見て、内心笑いながらじっとハーピアを見ていたダグであったが突然膝を上げて中腰になる。
そして左手で串を持って魚を食べながら、右手は腰のナイフへと伸びていく。ダグは自分たちに近寄ってくる気配を背中で感じていた。こんな辺境の地に近づいて来る人間など、通常ならば考えにくい。『ニコがもう暗殺者でも放ったのか』と考えたが、予想をしていたよりも早すぎる。
「おいおい、あんたら何をしてるんだ……? 見かけない顔だが」
のそりと片手に鉈を持った壮年の男が木の陰から現れる。背には弓、腰には矢が数本木製のカゴに入っている。そして片と肘、膝には毛皮で出来た当てをしており、ひげ面で怪訝そうな顔でダグを見つめていた。
ダグはハーピアを庇うように身体の向きを変えると、そのひげ面の男を警戒しながら声を上げる。
「……昨日、ここに移り住んだ者だ。野党の類いじゃない! そっちは何者なんだ!?」
「……ほう? いやいやワシも怪しいモンじゃない。ワシはここいらで狩人をやってるバラル・ハンターだ。こんな人がいない土地で良い匂いが漂ってきたから、見に来たんだ」
ダグはバラルと名乗るその男を見ながらしばし考えるが、特に怪しそうな所は見受けられなかった。
逆にバラルが本当に近くの村の住民というならば、ダグの方が怪しまれてしまう。覚悟を決めてバラルの方に姿を現すと、ナイフから手を離して無防備を装う。
「俺はダグ・レ……ダグ・ブラッドレイだ。そこの木の陰に居るのは娘のハーピア・ブラッドレイ。いや、てっきり野党でも出たかと」
ダグは念のため、偽名を名乗る。
バラルが真であれ偽であれ、そのままの名前を言ってしまえば王の血を引く者だと感づかれる可能性が高かったからだ。無用なトラブルを避けたいという考えがまずあったからだ。
「ふむ? なんでこんな辺境の所に来たのかね。しかもわざわざ、こんな人の居ない、村から離れた場所に?」
「……実は娘の療養でしてね。あまり肺が良くないもので……。 流行病だ何だと噂されてたら居場所がなくなってしまうので、人が居ないここに移ってきたんです」
「ふむ、それは確かに大変だ。ワシにもあの子ぐらいの孫が居るもんで気持ちはわかるよ。だが、ここに移り住むのは余り勧めんな。なんたってあの魔モノが――
バラルは木々の合間から遠く霞んで見える”赤く染まった”鋭岩を指さしながら喋り続けるのであった。
その合間に木陰からハーピアに近づく小さなと影。その影は弓矢を手に持ち、虹色の羽帽子が特徴的な少年、よくよく見れば目の前の壮年の男と似通っている顔立ちであった。そして魚を持ったまま硬直していたハーピアの肩を後ろから指でつつくのであった。
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