#77 ネーム獲得

死合しあい開始ッ!」

一人は白髪をした巨大な鉈を持った細身で低身長の男。

もう一人は、同じく巨大な斧を持った赤髪の巨漢な男。


二人は円形のフィ―ルド上を武器を構えながら、ジリジリとゆっくり間合いを詰める。

白髪の方は片手で重そうに持ちながら攻め寄る。

赤髪は両手で斧を構えながら両者スキを探しているようだった。


「…………」


私は、のんびりと二人を観察する。

他の観客はどちらが勝つのか気になって仕方がないようだが、

どっちが勝とうが殆ど興味が無い私にとってはぼ―っと二人を見ていることしか出来ない。

しいて思うことがあるのならば、斧使いの方が強そうだということだけだ。


鉈使いの方はレアちゃんと同じ雷属性だろう。

斧使いはイオちゃんと同じ火属性だ。

髪色が彼女達と同じだからだ。


そんな事を考えていると、筋肉質の斧使いの方が先に動き出した。


「焼き尽くせ! 《フレイムアックス》ッ!」


斧使いの方はそう詠唱すると、巨大な斧はオレンジ色の炎に纏われる。

物凄い熱を出しており、観客席に座っている私からも、わずかな熱さを感じた。


そして――そのまま鉈使いに向かって両手で持っているソレを物凄い速さで振り下ろした。


「う、嘘でしょ? いかにも重そうな巨大な斧をあの速さで……!?」


思っていた数倍は速かった斧使いの攻撃に私は驚いた。


――ズガ―ン!


瞬間、恐ろしい程の轟音がした直後――地面から砂埃すなぼこりが舞う。


「おおっ! 見たか? さっきの一撃!」


と、獣耳の少女はいかにも楽しそうに私にそう語りかける。


「ええ。でも、砂埃が舞ったっていうことは……」

「ああ。あの細身の鉈使いは直前にかわしたのだ」


砂埃が消え、二人の姿が視界に映る。

地面にはひびが入っていた。

獣耳の少女の予測通り、白髪の男は斧使いの攻撃を躱したのだ。


「あんなにも素早い攻撃を躱すなんて……」


今更だが、この決勝戦はとてもハイレベルな戦闘だということを知る。

しかし、どうして二人はあんなにも必死で殺し合っているの?

それも模擬用の武器でもない、本物で……。


負けたら死ぬのに。どうして?

そんなにもが欲しいのかしら。相手を殺してまで?

そんな疑問を振り払うかのように、戦闘は続行する。


「――驚いた……。名もなき斧使いよ。その斧のスピ―ドとパワ―。相当鍛錬たんれんされたのだろう」


白髪の男は重そうな鉈を構えながら、赤髪の男にそう言った。


「驚いたのは俺の方だ。さっきの一撃を躱した人間はお前が初めてだぞ――ッ!」

「それは光栄こうえいだ。では、戦闘を続けようか……ッ!」


そう言うと、鉈使いは魔法を詠唱する。


「そうはさせるかよッ!」


斧使いは詠唱をさせまいと鉈使いに攻撃をするも、鉈で弾かれる。


だが、それも気に留めることもなく、猛攻を仕掛けた。

ブォン、ブォンと、オレンジ色に纏われた斧を物凄い速さで振り回していく。

ただ感情的に振り回しているのではない、冷静に相手のスキを探りながら斧を叩き込んでいるのだ。


鉈使いは斧の攻撃を鉈で弾きつつも、詠唱を止めることはない。


やがて――


「唸れ! 《ライジング》!」


詠唱が完了した白髪の鉈使いは一瞬鉈が発光したかと思うと、

空中から雷を出現させ――斧使いに向かって垂直に打ち出す……ッ!


――ズド―ン!


これは決着あっただろうか……と思っていると。


「《フレイムウォ―ル》……ッ!」


赤髪の斧使いは両手で持っていた斧を右手だけで扱い、

鉈を受け流しつつ、左手で降りかかる雷を炎の壁で防いでいた。


「凄まじい戦いだな! 斧の奴、片手でも斧を扱えたのか!」


獣耳の少女はテンションが上がったのか耳をピンと張り、尻尾をツンと上に向けていた。


「そうね。でもそのせいでバランスを崩しているように見えるわ」


そう――赤髪の斧使いは器用にも迫りくる鉈の連撃を斧で受け流していたが、

体を安定させるので精一杯のように見えた。

今でも雷を左手で防いだままだ。


「おやおや、もうそろそろ限界のようだ。チェックメイトだ」

「ぐぅ……ッ!」


やがて、赤髪の斧使いはバランスを崩し……。

その影響で魔力のコントロ―ルも出来なくなったのか、炎の壁も消え――、

雷は斧使いに直撃した。


「あがっ……」


斧使いはフラフラとよろめき……。


――バタン


地面に倒れ込んだ。


「勝者! 鉈使い!」


どこからか審判が現れ、鉈使いの右手を掴み上げる。


――ワァァアアアアアア!


歓声。


「おい! 鉈の方が勝っちまったぞ! ワシ達の予想は外れたな! ふははっ」


私の隣にいた獣の少女はこっちを見てニコッと笑っている。


「まあね」

「よく考えれば、どちらも決勝まで上がっていたのだから鉈使いも強かった筈なんだがな」

「…………」

「でもワシらは細身の鉈使いよりも、筋肉質の斧使いの方がが強いという“印象”だけで決めてしまったワケだ。あはははっ」


印象……ねぇ。

確かにそうかもしれない。赤髪で筋肉質の斧使い

赤髪の方は血の色で危険な色を連想れんそうさせるし、白髪の方よりも目立った。

筋肉質というのも力持ちだとか、頼りになることを想像できてしまう。

最後に、鉈よりも斧の方が生活していてよく見るから斧の方が強いという印象を受けた。


なるほど。印象というのは面白いものだ。

……なら、私の印象はどうなのだろうか?


などと考えていると。


「おい、始まるぞ」

「え? 何が?」

「…………お前、どこから来たんだ? 

 あの鉈使いが《ネ―ム持ち》になる瞬間をだよ。というかお前もそうだろうが」


《ネ―ム持ち》って一体何……?


「《ネ―ム持ち》……?」

「あれを見ろ」


と、少女は地面にいる人を指差す。

私は下を見ると、気がついたら死んだ斧使いの死体が消えていた。

誰かが回収したのだろう。


……さっきの鉈使いの男が円形のフィ―ルドの中央で、

司会者からなにやら謎の黒い箱を受け取っている。


「いよいよお待ちかねの“景品”を渡す時が来ました!」


と、司会者の男は言い、


「さあ、その箱をお開けください! “ソレ”は貴方の物です!」


そう続けた。


――ワァァアアアアアアアア!!


さっき戦闘が終わった時よりも大きい歓声。

えっ。何? 何が始まるというの?

? 賞金じゃなくて?


「フハハハハッ! ついに、この箱を開ける時が来た……ッ!」


よほど嬉しいことが起きるのか、さっき戦闘中に喋っていた時とはまるで性格が違うようだった。

そして、鉈使いの男は慎重に黒い箱を開ける……。


――ギィィ……。


「私が名前を手にする時が来たんだ――ッ!」


......ネ―ム《ギュンタ―》を獲得。――アクティベ―ト完了。

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