第34話 予告と悪夢

収穫の成果


海洋スライムの核 21個 金貨21枚

ギガンフレット 3匹 ヒレ6個。金貨3×6=18枚

合計39枚。


「あまりいい値段にはならないわね。」

アンジェリーナは明細書を確認して言った。


「そうですね、ダンジョンと違い死の危険があるにもかかわらず成果があまり良くないです。」

志帆が神山を見ながらいう。


「志帆、神山がどうかしたの?」

目線に気づいてアンジェリーナは志帆にたずねる。


「実はギガンフレットの毒針が神山さんのふくらはぎに刺さったんです。森さんが突撃したせいで。」

志帆は森をジト目で見る。


「わざとじゃない。悪かったと思うけど。ごめん...。」

珍しく素直に謝る。


「別にいいわよ。今回は結果的だけど、なんともなかったのだし。あなたみたいな突撃役が必要な時もあるわ。」

あれ?神山が森に優しい。


こんなことってあるか?


「神山、ちゃんと解毒したか?」

ああー、真斗それはやめたほうがいいぞ。


「どういう意味よ。」

「神山って森にそんなに優しかったっけ?」

「そ、そんなことないわよ。」

少し顔が赤い神山。


「あのね、静はツンデレなのよ。いまデレのところが出たの。」

鈴が真斗に耳元で言った。


「何よ、ツンデレって。私はそんなんじゃないわ。珍しく森が反省したからああ言ったのよ。悪い?」

神山、怒り方が完全にツンデレキャラになってるぞ


「静、青春しているわね。」

「アンジェリーナさんまで。」

海に日が落ちるのを見ながら俺たちは笑った。


ーーーー


警告

北太平洋浮島と南太平洋浮島で緊張が高まっています。

20時間後に浮島間戦争の可能性有り。

直ちに退避することを推奨。


夜、ログハウスの布団の中。


俺以外のメンバーはみんなぐっすりだ。

ログハウスには寝室がなく、男女混合で寝ることになったのだが、俺はスキルステータスに表示されたこのメッセージが気になって眠れずにいた。


浮遊都市はオートモードで世界中自由に動いているが、俺が浮島についてからは俺がいる北太平洋浮島の方へと、進行方向を変えている。


俺は昨日飛行機の中でみた悪夢を思い出していた。


20時間後と言えば、ちょうど俺たちが飛行機に乗る予定の飛行機が出発する時間だ。


明日の予定はバーベキューを浜辺でしながら海水浴。

そして片付けした後帰宅だ。


今まで浮遊都市のシステムが俺にメッセージを表示することなんてなかった。

探索者同士の争いが最近増えていると聞いた。


国同士の戦争こそ起きていないが、ダンジョン内で一つのクランがフロアを占拠したことが原因でクラン同士の小競り合いが起きたことはある。

インドのダンジョンと中国のダンジョンでの出来事だ。


どちらも超大手ギルドによって攻められて占拠状態は解除されたらしいが、それがきっかけでダンジョンによってはクラン同士の争いが活発だ。


世界中のダンジョンによってはフロア占拠したクランに何かの特典をつけて、クラン同士の戦いを推奨するとこさえあるのだ。


もしかしたら、そんな感じで浮島同時の戦争もあり得るのではないか。

浮島スキルの支配人同士が、何かの意見や方針に食い違いがあって対立関係にある。

浮島を一つ潰せば、それだけもう一つの浮島への各国の依存度は増す。そうすればより多くの人が来てスキルのレベルを上げることができる。より多くの富が独占できる。


そう言えば、もしも支配人が死んだらどうなるのだろうか。ダンジョンに寿命があるとすれば、どう考えてもダンジョンの方が長い。浮島でも浮遊都市でもそうだ。


俺はスキルステータスを開き、ヘルプを探す。


≪浮遊都市スキルを持つ者が復活の見込みなく完全に亡くなった場合、浮遊都市はリセットされ、世界で新たに生まれてくる子供にランダムに浮遊都市スキルが付与されます。これには例外があります。≫


ならもしも、浮遊都市が何者かに破壊されればどうなる?

俺はスキルを失うのか?


≪浮遊都市のコアが完全に破壊された場合、浮遊都市スキルを持つ者は死にます。これには例外はありません。≫


浮遊都市が破壊されたら、俺は死ぬ。

浮遊都市はきっとそう簡単には破壊されることはない。


だけど、自分の命が他の何かで失われる可能性を知った時、俺は背中が凍った。


「チャン、何しているの?眠れないの?」

珍しく、何もしていないのにアンジェリーナが布団から出てきた。


「アンジェリーナ、起こしてごめん。ちょっと考え事はあってな。」

「別に私寝てないわ。私はちょっと新たな理論を思いついて、それを実験したくてワクワクして眠れなかっただけ。ポーションの作り方の新しい理論のアイディアを思いついたのよ。」

寝てなかったのか、そして相変わらずの実験好きだな。


「それで、どんな悩みなの?」

「あー、ちょっとな。俺も変なことを想像していただけだ。」


アンジェリーナは自分の胸を押さえながら言う。

「もしかしてちょっとあっち系のいやらしいこと?私はいつでもいいわよ?」

「違うわい。」

確かに今日のアンジェリーナの寝巻きはいつもの格好と違って、レースをふんだんに使った白色のネグリジェで、魅力大だ。


「残念。それで、本当はどんな悩みなの?」

さっきのはアンジェリーナなりの気遣いの冗談だったようだ。


「昨日の飛行機で悪夢を見たんだ。乗っている飛行機が墜落する夢。


起きて何もなかったし、悪夢を見るなんて人間よくあることだからそんなに気にしなかったんだけど、実は今日スキルステータスを開くとスキルメッセージに気になることが書いていたんだ。


約20時間後に、俺たちが今いるこの浮島と南太平洋浮島が戦争するって。


戦争開始時間と俺たちの乗る飛行機がちょうど重なっているのが気になって。

アンジェリーナは馬鹿らしいと思うかもしれないけど、もしかしたら悪夢と同じことが起きるのかもと思うとな。」


俺のもう一つの死ぬ条件についてはアンジェリーナには言わなかった。


「なるほどね。チャンのスキルは特別だから確かにそれは気になるわね。」

アンジェリーナは手を顎に当てて何かを考え始める。


「悪夢と同じことが起こるとは正直私も考えてはいないけれど。でも本当に戦争が起きるなら明日の飛行機には乗らないほうがいいわね。


私の理論ではスキルというのはこの変異したこの世界にとても深く関わっているの。そのスキルが何か警告するなら、何か大きな変化でもない限りその警告内容は必然的に起きることだと思っていいと思うわ。


何が原因なんて、スキルを持つのが人間である限り無数にあるし、解き明かすことも、解決する手立てもないわ。人間は現象と違って理論も理屈もないもの。


本当はその戦争が起きないような対策を考えるべきだけど、私たちには無理だわ。」


アンジェリーナが大きなため息を吐く。


「チャン、戦争が起きる可能性が高い以上、チャンの悪夢のような事態にはなる可能性が絶対にないわけではないわ。だから明日の飛行機乗るのをやめときましょう。


もし乗り遅れても私はみんなを連れて転移ができる。

だから帰りの飛行機なんて気分の問題でその気になればなくてもいいのよ。


厳密には私のスキルが漏れてしまう可能性もあるかもしれないけど、安心が買えるなら安いものだわ。


作戦だけど、チャンのことをみんなに知られるわけにはいかないから、足を引っ張って後片付けが間に合わないようにする。


飛行機の時間まで余裕があるから、それでももしかしたら間に合う可能性があるけれど、予定を早めるのと違って予定を遅らせるのははいくらでも方法はあるわ。


チャン、私に任せて!!。」

アンジェリーナはとても良い笑顔で俺に行った。




ーーーーーー



起きると午前10時だった。

俺以外の全員が既に起きているようで、端っこに布団が畳まれて重ねられている。


大部屋の寝室を出ると、ゆりちゃんがおそらくアンジェリーナが転移でギルドホームから持ってきただろ具材を運んでいるところだ。


「あ、お兄さん。おはようございます。今日の一番のお寝坊さんはお兄さんでしたね。」

少し大きめの段ボールを抱えながら言うゆりちゃん。


「おはようゆりちゃん、その段ボール持とうか?」

「いえ、大丈夫ですよ。私普段から剣道で鍛えているのでこれくらいは軽いものです。」

ゆりちゃんが力持ちなのはよく知っている。いつも持っている日本刀。あの日本刀は案外重たいのだ。それを軽々振ることができる時点できっとかなりの筋肉量が腕についているだろう。

俺はどちらかと言うと、段ボールの中身をぶちまけるのが不安なのだが、ぽあぽあゆりちゃんにはそれが伝わらないらしい。


急にログハウスに転移してきたアンジェリーナ。その手には段ボールが抱えられている。

「ああ、チャン。起きたのね。その寝巻きと寝癖。さっさと直してきなさい。」


アンジェリーナがゆりちゃんが段ボールを抱えてる姿と俺がその段ボールを持とうとする姿を見てアンジェリーナは状況を理解したらしく。


「チャン、ゆりちゃんなら大丈夫よ。あの段ボールの中身は野菜だから。もしも落としてもたいして影響はないわ。」

「そうか、なら安心だな。」

俺は安心してゆりちゃんに任せることにした。


「それ、どう言う意味ですか?お兄さんは優しさで荷物を運ぶのを手伝ってくれようとしたのではないんですかぁー!。」

急に吠えるゆりちゃん。


「違うに決まってるじゃない。だから段ボールを二つに分けて、落としたらダメなものと落としてもそんなに影響のないやつに分けてるのよ。」

アンジェリーナ暴露


「そんなぁ、ひどいですよ、アンジェリーナさん...わぁぁ!」

言っている側から何もないところで滑って転ぶゆりちゃん。


俺とアンジェリーナは慌てて段ボールの中に入っていた、バーベキュー用に切ってビニール袋に入れられた野菜を段ボールの中に入れる。


「ほら、こけたでしょ?ゆりちゃんは肝心な時はしっかりしているけど、何もない時はこうやってやらかすことが多いのよ。」

「うっ...たまたまです!!」

何か言いたいのに、実際にこけてしまったので何も言えなくて口を膨らますゆりちゃん。

「はいはい。チャン、ここはいいから早く着替えてきて。中に水着を着るの忘れずにね。」

アンジェリーナ、こういう時は完全にお姉さんという感じだ。


俺はアンジェリーナに言われるままに、もう一度大部屋の寝室に戻った。


布団を重なっているみんなの布団と同じようにして重ねる。

そして昨日はお披露目することなく、役目を終えたトランクス型の水着を着る。


お披露目って、男が言うのもおかしいな。


俺は一人でボケて一人で突っ込んだ。

上半身裸でバーベキューもちょっとおかしいのでTシャツも羽織る。


そしてある程度荷物を整理する。


そう言えば、予定を遅らせるためにいろいろするんだっけ。

しまった。整理は余計だったな。


ちらりとアンジェリーナの荷物を見ると、昨日寝るときに着ていたネグリジェがそのまま無造作に置かれていて、全然荷物の整理をしていない。


なんと言うか、さすがアンジェリーナだな。細部まで抜かりはない。

だけど、今からせっかく片付けた荷物を引っ張り出すのも変だな。


俺は整理した荷物はもうそのままにしておく事にした。


大部屋を出ると今度は真斗が荷物を運んでいた。

「おお、やっと起きてきたか。その様子なら、すぐに動けそうだな。」


真斗が生き生きしている。きっとサッカー部で何度かバーベキューをしたことがるのだろう。


「今から火を起こすから、ちょっと手伝ってくれよ。一人でするのはちょっとさすがに手間だからさ。後、その荷物も持って。」


俺は真斗に言われるままに、炭が入った段ボールを持った。


「いや、バーベキューなんて一年ぶりだな。去年は中学校の時メンバーでバーベキューだったっけ?」


真斗は去年のバーベキューの話をする。


「俺、そのバーベキュ行ってないんだが。」

去年は俺は高校に行けずに完全引きこもりだったので、そんな青春なイベントには行っていない。


「そうだっけ?森とか神山も一緒にいたから、すっかり松ちゃんも一緒に行った気になってた。もしかして気に障った?」


「いや、全然。誘われたのは覚えているし、別になんとも。」

さすがに誘われずにこんなのもあったんだよ。みたいなことを言われたらイラっとするが、あの時は変に鬱になっていた時期だ。むしろ行かなくてよかった。


「じゃ、今年は去年の分も楽しもう!早く火を起こそうぜ。」


外にでて、少し歩くとドラム缶を半分に切って作られたバーベキューセットが2つ置かれていた。


ドラム缶の中には炭を置くための金網。ドラム缶の側面は空気が入りやすいように大きな穴が開いている。


「真斗、これくらい松ぼっくりがあればいいか?」

森が、レジ袋一杯の松ぼっくりを持ってくる。きっと今年発芽せずにそのまま残っていた松ぼっくり。

ログハウスの近くに小さな松の林があったので、きっとそこから取ってきたのだろう。


「それくらいあれば大丈夫だ。なら最初に松ぼっくりをバーベキュー台に入れて、その上に炭、なるべく風が通るように隙間を開けてな。それが終わったら松ぼっくりにガスバーナーで火をつけてくれ。今日は少し風があるから、簡単に火がつくと思う。」


俺は軍手を二重にして森が持ってきた松ぼっくりを半分入れる。そうしたら、森が炭を入れていく。


もう一つのバーベキュー台は真斗と一ノ瀬が準備をしている。


「真斗、先にガスバーナ使うぞ。」

森がそう言って、ガスバーナで松ぼっくりを燃やす。


少し火がつくのが遅かったが、一度燃えだすと松ぼっくりはよく燃える。

この調子なら炭にもすぐに火が移るだろう。


「ガスバーナを貸してくれ。お?いい感じに燃えてるな。」

真斗がガスバーナを取りに来たついでに俺たちのバーベキュー台の様子を見る。


どうやら合格のようだ。


「しばらくは団扇で風を送って、火を炭に行き渡らせたらいいから。」


俺は炭がしっかりと燃えるまで、団扇で必死に半分にされたドラム缶の中に風を送った。

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