第16話 まだだ!まだ終わらせんよ!


「ぶっふぁっ」

「どうしたマードック」


 俺がミライに不戦敗した際のペナルティを説明するとミライはリスナーや組合にいた事情を知らない野次馬、そしてKING'Sのメンバーに対して助けを求めた。


「いや、参加しなくて良かったと思ってさ」

「俺はマヨイ君からマヨイ君のスペックについて少し聞いているが、マードックは何か知っているのか?」


 ミライのリスナーは当然ミライの味方だ。

 組合にいたプレイヤーも見た目だけはそこそこ可愛い女性プレイヤーからの頼みということもあってコロっと騙されてしまった。

 ミライは俺を含めたKING'Sのメンバーも味方として参戦すると思っていたようだが、今回の件は彼女が責任を持って終わらせなければならない。


「彼、元配信者だ。それも超有名人」

「マヨイなんて名前の配信者なんていたか?」

「彼、アイ&ショウのショウだよ」

「はぁ!?」


 アイ&ショウは3年前まで活動していたプロゲーマーに挑戦する、もしくは挑戦を受けるという内容で人気のあった2人組の配信者だ。

 小学生の子ども相手にゲストとして呼ばれたプロゲーマーと互角の勝負をしていた事で当初はヤラセ疑惑もあったらしい。

 しかし、そんな噂をするリスナーは放送回数を経るごとに減っていったという。この2人はヤラセだと非難していたプロゲーマーをゲストとして招待し、彼らの得意分野でボコボコにしたのが原因だと言われている。

 俺がプロゲーマーになった2年前には既に配信者を引退してしまっていたが、彼らと対戦経験のあるプロゲーマーの先輩方は『奴らと戦って心が折れなければひとつ上のステージに上がれるぞ』とコントラストのなくなった目で笑っていた。


「もう引退したんじゃなかったか?」

「アイ&ショウのアカウントでマヨイが配信してる」

「はぁ!?」

「ほんとだ、マジで配信してんじゃん」

「活動時期が被ってないから生で見るの初めてだわ」

「アイちゃんもこのゲームにいるらしいな。実は俺かなり前にアイちゃんに負けてるんだわ。引退されちゃって勝ち逃げされちまってたけどリベンジしてぇなぁ」


 お前らはアレに挑めるのか。

 『いったん引退記念配信』というタイトルでチーミングしたプロゲーマーと名の知れたアマチュアゲーマーの計58人を相手にしたFPSで完勝するような化け物だぞ。

 いや、ここはMMOだ。学生の彼らよりレベリングに費やせる時間の多い俺らの方が有利なはず……


「そろそろ始まるな」

「そろそろ終わるの間違いじゃね?」

「ミライのこと大嫌いだけど、アイ&ショウを復活させたという功績だけは褒めてやりてぇ」

「「わかる」」

「そんで定期的に練習試合して欲しい

「「わかる」」」


 いや、俺はわかりたくない。

 こんなプラス志向のチーム、そのリーダーが俺で本当にいいのか分からなくなってきた。

 VRなのに胃が痛い……



◆◇◆◇◆◇◆◇



【だから今回はマヨイが正義!】

【仲間が嫌な思いするとキレるの相変わらず過ぎる】

【あー、あったな。そんなこと】

【ミライの配信観てきた。胸糞】

【見た目とノリの軽さだけが取り柄だからな】

【実力もそれなりにあるでしょ】


「何言ってんの? 容姿も実力もアイの圧勝じゃん」


 ミライのプレイスタイルはタンクに近いカウンター型らしいが、ショウとクレアちゃんを相手にしてリスナーの手を借りるようなレベルのプレイヤーだ。


【息をするように惚気るのやめろ】

【これ小学生の時からずっとだぞ】

【アイちゃん、ほんとに付き合ってないの?】

【アイ:まだ付き合ってませんよ】

【まだの部分強調してるだろww】


「カウントダウンあと10秒!」


【ん?開始まで残り5秒だぞ】

【アイ:決闘終了までのカウントダウン】

【それは草】

【5秒で勝てるの?】


「(広域探索)魔力弾(×かける754)」

「な、何よこれぇ!」

「(攻撃威力調整)魔力弾(×2)」


[レベルが上がりました]

[称号:鏖殺する者を獲得しました]


【なぁにこれぇ?】

【マジでフルボッコじゃん】

【最後5秒で終わらせるために調整したな】

【きっちり5秒ww】

【最後にミライ残したのわざとか】


「ゲームって楽しいよね!」


【い つ も の】

【高校生になってクソガキムーブやめろw】

【アイ:瞬殺じゃつまんないよ】

【誰か止めてやれよ】

【唯一の良心が止める気ないから無理】


 僕が唖然としているミライとミライのリスナーに近くと何やら「チート野朗」とか「通報してやる」という声が聞こえてきた。

 彼らを先導しているのはミライだ。


【ダイナミック自殺行為】

【ショウにそれは禁句】

【アイ:そっち行ってもいい?】

【おい、誰かアイを止めろ】

【どこにいるか分からん】


「はははっ! アイ、ダメだよ。これは僕の玩具おもちゃだ。いくらアイでもあげないよ?」


【いい笑顔】

【マジ基地スマイル】

【でも決闘これで終わりだよな】

【さすがに再戦はしないだろ】

【したくないの間違いでは?】


「ミライとミライの仲間の皆さん、今回の契約の内容は覚えてますか? では命令権を使いますね。先ほどと全く同じ条件で僕が負けるか飽きるまで決闘して貰います!もちろん、皆さんが負ける度に命令権の回数は加算されていくので頑張ってくださいね!」


【鬼も目を覆うレベル】

【悪魔も苦笑いするわ】

【外道というか修羅だよね】

【やっぱりオコなの?】

【え、エンドレス公開処刑?】


「なんか決闘で相手を倒しても経験値が入るみたいなんだよね。今から移動するの面倒くさいからアイたちが来るまでレベリングしようかなって」


【アイ:エリアボス倒したら行くわ】

【縛りプレイ希望】

【瞬殺禁止】

【ショウのいいとこ見てみたい♪】


「縛り面倒くさいからミライ以外のモブは瞬殺していい?」


【アイ:ミライの左にいるリーゼント、その横のローブの女、その後にいる小柄な男と大柄な禿、ミライの右後方にいる茶髪の女】

【どゆこと?】

【ミライ側なんか仲間割れしてんな】

【まさか】

【あー、分かった】


「了解、彼らも残せばいいんだね……」


 彼らが昨日のミライの配信で暁とクレアちゃんを笑い者にした下手人らしい。そこまで気が回らなかったから本当にアイは頼りになる。


──────────

第1話と第2話を改稿しました。

内容的にはほぼ同じですが矛盾している設定を修正したり、プロット段階では存在していた伏線を一部無かったことにしました。


また、読みやすいよう段落や文字数も調整しました。既読済みの方もよろしければ読んでください。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る