11 進藤家VS黒淵家 ———異世界5———決着1
協力者達が一般市民を安全な場所へ避難させているのを良いことに、侵攻軍はやりたい放題攻めまくった。
家が燃えようが、人に被害がでようがお構いなしだった。
東京という様々なものが入り組んだ過密地帯はほとほと守りがたい場所であると実感した位だ。
首相命令で警察や自衛隊が出動し住民たちの避難が迅速に進められていた。黒淵らの攻撃は四家から派遣された者達によって犠牲者を出さずに任務を全うできた。
戦況は彼らに有利に働いた。彼の異名『鬼神大元帥』の名は伊達ではなかったのだ。
人類史上、かつて世界を震撼させた男の名を知らぬ者はいないのだ。
ある人曰く「昔ね、それはそれは強い軍人さんがこの国にいたのよ。何てったって、刀で戦車を斬っちゃったのよ」
ある元軍人の妻曰く「アメリカやイギリスはね、その人がいるかぎり勝てないって言ってたのよ。
私の知り合いにアメリカの元軍人さんがいてね。『アイツが戦場に現れたら何も考えず逃げ延びることだけを考えろ』って上官が言ってたって聞いたわ」
ある元軍人曰く「あの方がいたら、世界は絶対に違う道を歩んでいた。わしらの世代は皆そう言っておるよ」
それがこの世界の常識であった。
呂布・本多忠勝と同等かそれ以上の伝説を持つ男を眼の前に、黒淵の人間は戦うことができなかった。
重為も懸命に戦ったがその実力は雲泥の差があった。ものの数合やりあったのみで、銀光一閃斬り伏せられた。
主将死亡の後はやり易かった。烏合の衆と化した連中は無力となりあっという間に制圧された。
「俺達は戻るが何かあったら知らせろ。即行来てやんよ」
そう残してこちらに戻ってきた、という次第。
「それで、アイツは大事な者を助けに行ったんだな?」
龍彦が確認すれば安徳はそうだと言い、龍爪を持っていったことについても肯定した答えが返ってくると、彼は含み笑いした。
「なら心配要らないな」
安徳は首を傾げた。何をどう感じ取ったら龍二のことは心配要らないという結論に達するのだろうか。
「何、アイツにゃ心強ーい守護霊様が付いているからよ。何かありゃそいつらがアイツをしっかりと守ってくれるさ」
そして、龍彦はその場であぐらを掻いた。
「アイツが戻って来るまで、ここで待ってようぜ」
分厚い鉄扉を蹴破って入った部屋の第一印象は、一言で言えば〝闇〟がふさわしいと思う。一面を漆黒で塗り潰された部屋は、いるだけで吐き気だが何だかで気分を著しく害する。蝋燭の弱々しい灯火は今にも呑み込まれそうだ。
その部屋の奥のやけに目立つ白基調の椅子に、その男は座っていた。
「待ってだぜぇ」
ねちっこい口調で師径は立ち上がった。側に添えかけてあった槍に手をやる。
「待っててくれって頼んだ覚えはねぇよクソ野郎」
怒髪をたて龍二は龍爪を強く握り締め構える。
「達子のお礼参り・・・・・・覚悟はできてんだろうな?」
一歩一歩怒りのこもった歩き方をする彼を師径は嘲笑った。
「ハハハハ! バカが何を言いやがる! 貴様ごときに殺られるわけねぇだろっ!」
額を押さえ笑いまくる彼を、龍二は蒼き眼で見据えている。
「テメェは死ぬんだよ。愛する奴の手にかかってな!」
師径は鋭い眼付きで誰かに命を下した。
だが何も起きなかった。
「何をしている! さっさと殺れ! 女ぁ!」
何の行動も起こさない〝人形〟に怒鳴り散らす師径。
だが彼女は、そんな彼の神経を逆撫でるように叫んだ。
「断るわ! 私は貴方の道具じゃない!!」
「な、に?」
予想外の言葉に、師径はたじろいだ。
「私は貴方のおもちゃじゃないっ! もう、彼を騙したくない!」
ありとあらゆる思いを彼女は師径にぶつけた。その師径は、眼を尖らせ手を顔の前にやった。
激怒していた。
「使えない人形に用はない。消えろっ!」
そのまま手を払った。美琴は覚悟を決め眼をつむる。
しかし何も起こらなかった。
怪訝に思った師径は、同じ行動を何度も繰り返したが、結果は同じだった。
「バカな・・・・・・何故消えない!?」
狼狽する彼を、龍二の高笑いがそれを嘲る。
「テメェは何バカなこと言ってやがんだ?こいつは『神戸美琴』っつう、正真正銘神戸達子の〝双子の妹〟だぜ。俺が頼んでお前の言う人形の振りをしてもらったんだよバーカ。それに、テメェのくだらねぇ傀儡だったら、会って即行殺したがな」
「ふざけるな! そいつは俺の炎で作った───」
「双子だって言ってるじゃねぇかぐだぐだうっせぇぞ。弱い奴ほどよく吠えるとはよく言ったものだな」
龍二の言動にブチ切れた師径は、雄叫びをあげて突進してきた。
「紅龍、美琴を頼む」
龍二の身体から飛び出た紅龍は、サッと美琴を保護するとすぐに戦闘区域外に避難した。
「何のつもりだ龍二!!」
「テメェなんて蒼炎だけで十分ってことだよボケ!」
二人の攻撃は正確に相手の急所を突く形をなしている。共に槍の使い方は一流の域に達している二人。一瞬のスキが命運を左右することを二人は知っていた。
そのうち、蒼炎を宿した龍爪を薙ぎ払う師径の槍は所々ヒビが入り始めていた。
「せいや!」
気合いの声を放ち龍爪を振り下ろした。耐えきれず師径の槍は粉々に砕け散った。師径はそれを投げ捨てると、魔炎龍と融合して邪炎を射放つ。龍二は巧みにそれを避ける。
「だ、大丈夫かな? 龍二君」
戦闘区域外でオロオロしながら心配する美琴に、紅龍は心配ないと答えた。
「俺の主様はあぁ見えて相当頑丈な作りをしてるからな。そう簡単にくたばりゃしねぇさ」
「でもぉ」
『平気平気。弟君二号はあんな奴なんかに負けないんだから』
「へっ?」
突然声が聞こえて振り向いてみれば、そこに宙に浮いている半透明の女性と男性がいた。
「!!!!!????」
美琴は声にならぬ悲鳴をあげた。
『ありゃ? 何で驚くの?』
「自分の姿を見てからものを言え馬鹿者」
紅龍が冷静にツッコミを入れた。
「な、なななななな」
美琴の頭は大混乱していて、言葉がなかなか出てこなかった。紅龍は美琴を落ち着かせる為深呼吸させた。
『あ、私進藤沙奈江。龍二の姉やってまーす。で、これが私の相棒の龍王』
『やあ』
龍王は軽く手を挙げた。
これはどうもと美琴は頭を下げて自己紹介をした。何故か彼女は沙奈江に撫でられた。
「今は取り敢えず達子の救出が先だ」
紅龍が促すと美琴は首を縦に振り、師径にバレないようにコッソリと行動することにした。
「お前らも手伝え」
『はいはーい♪』
『おう』
そんなことも知らず、師径は本能のまま龍二を殺しにかかっていた。師径の全身を、魔炎龍の闇の炎が取り巻きその存在を嫌が応にも相手に分からせた。
戦いながら師径が片手をあげた。
すると、床から無数の手が現れ次にはゾンビのごとく人のような生物がそこに姿を表した。
「あーマジかー最悪」
龍二はげんなりした。
腐った身体、生々しい傷跡と血の流れた後、白眼、人語ではない言葉を話すそれらは、まさにゲームとか某ハリウッド映画さながらのゾンビそのものだった。それらにはまだ幼い子や老人も含まれていた。
「いけ好かないな」
龍二は師径への攻撃を諦めた。左眼で動く屍の攻撃を的確に読み、彼らの首を撥ねた。
「・・・・・・・・・」
龍二はこだわりを止めた。五大龍最狂の紅龍の灼熱の業火と、四聖青龍の蒼炎。この二つを時には使い分け、時には複合させてゾンビ共を灰燼とした。
「俺のことを忘れるなよな!」
絶対的優位の状況に優越感に浸りながら、師径は新たに用意した槍で攻撃を仕掛けてきた。
龍二は苦々しく思い、龍爪で受け止めた。
挟撃される形となった龍二。
「こなくそ!」
同時に攻めてくる複数の相手をするのに龍二はあまり慣れていない。
精神の疲労はかなりのものだった。
「どうした! さっきまでの勢いはどこ行った!」
「(・・・・・・あーうっせぇ)」
どうでもよくなっていた。眼がだんだんと虚ろになりかけていた。
集中力が切れ始めていた。その中で彼は無意識のうちに空いている手でゾンビ達に対処していた。
朦朧とした彼を師径は見逃さなかった。
「もらったぁ!!」
突進し、右手を龍二の腹近くにかざした。右手には既に邪炎の塊が形成されていた。
(あっ、やべっ───)
彼は邪炎をモロに喰らい、壁に飛ばされた。
爆音に驚き美琴が部振り向くと、そこには信じられない光景が広がっていた。
遠くの壁から土煙が上り、窪みと人影が見える。人影はぐったりとしていた。そして、健在を誇示しているのは誰でもない、師径だった。
「く、くくく・・・・・・クハハハハハハ!! 遂にっ! 遂に倒したぞ! 龍二の野郎をぶっ殺したぞっ!!」
狂喜する師径。その一方で、美琴は口元を覆って震えていた。
「龍二君っ!!」
彼に駆け寄ろうとする美琴を紅龍が引き止める。
「離して! 離してよ!」
「落ち着け美琴」
喚く彼女のの耳元で沙奈江が囁いた。
『大丈夫だよ美琴ちゃん。弟君二号はまだ死んでないもん』
「ふぇ?」
と間の抜けた声をあげた時だった。
師径は積年の怨みを晴らしたことで顔をこれみよがしに歪めていた。
「へへへ。ありったけの恨み辛みをぶちこんだ邪炎だ。後は奴を操って───」
「調子に乗るでないわ小僧が」
そんな彼の空気をブッ壊す低くドスの効いた声と共に、土煙を吹き飛ばし紫の焔が師径目掛けて迫ってきた。
師径は何とか避けることができた。
「誰だ!」
師径が叫ぶ。そこから現れたのは龍二である。
だが何かが違っていた。
「わしの主が随分と世話になったのぅ。このわしが直々に礼をしてやろうぞ」
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