第17話 葬い

「もう僕、帰るけど。」と一星くんに言われて、「私も」と私は慌てて言う。私は死んだ男の絵をバッグに入れ、一星くんと一緒に教室を出た。


「ご飯でも一緒に行く?」と一星くんに聞かれ、私は面食らった。急に誘われて、どう対応していいのか分からなかった。


「ごめんなさい。私、これから、用事が……。」と私が言葉をにごすと、


「あ、そう。じゃあまた。」と一星くんは大してがっかりした様子をみせずに微笑する。


「あの、また、今度っ」と私は声がひっくりそうになりながら口ごもり、「あの、また…。今度、ご飯に一緒に行ってもいい?」と懇願こんがんするように言い直した。


 ぶはっと一星くんが吹き出した。「柏木さんって面白いね。」と一星くんが笑う側で、私はなぜ笑われているのか分からず、耳まで熱くなる。


「うん、今度、一緒にご飯食べに行こう。」と一星くんは言うと、笑顔で手を振って別れた。


 胸がドキドキしていた。はやる気持ちを抑えながら、早足で歩く。近くのコンビニへ行ってライターを買った。安全に物を燃やせるところはどこか考えて、私は河原へ行くことにした。陽が沈んだばかりでまだ暗くなる前の、光の加減が美しい時間帯だった。暗くなった後に、河原を一人で歩くのは危ない。私は走って河原へ向かった。


 川から少し離れた石のゴロゴロした地面に、私は死んだ男の絵を置く。風で飛ばないように石を上に置いた。紙の端の方に、ライターで火をつけると、すぐに絵は燃え上がった。黒い紙の切れ端が風に舞い、煙が上に立ち上る。私は煙を目で追いながら空を見上げた。上を向いたまま目を閉じて、深呼吸をすると、目から静かに涙が伝い落ちた。悲しくなんてなかった。息を大きく吸って吐くたびに、胸が暖かくなり、体が軽くなる感覚がする。ふつふつと力が湧いてくるのが分かった。


 葬儀の参列を終えた後のようなおごそかな気持ちで、私は家までの道を歩く。死者を弔うことで、残された者は前へ進めるようになる。なんの宗教に属していない私のような人間でさえ、祈るという行為で救われるのだと知った。

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