信用
ネイアとブルドーを含めた半数の進軍メンバーはダンジョンを出る為に帰っていった。
それでも、グラドラスにオルトス、それにアリスに火竜の伊吹が加わった事でそこまで戦力は削れなかった。
しかし、いざ隠し通路を降りようとした時に問題が起きたのだ。
「悪いが火竜の伊吹だっけか?あんた達は信用できるのか?」
ガラットが火竜の伊吹を疑いの目で見る。
すると他の進軍メンバーからも同様の視線がいくつも飛んでいく。
だが、メリダは落ち着いた様子で喋り出した。
「信じて欲しいって言ってもしょうがないよね。南側の冒険者のしかもトップランクのクランが裏切ったんだがら……。なんならあたしらを先頭に持っていってもいいよ」
「……なるほど。背中を預けるか……。良いだろう。後ろであんたらの動きを拝見させてもらうぜ」
ガラットがそう言ってメリダの近くに来て見下ろすと、ミナスティリアが慌てて間に入った。
「ちょっと待ちなさい。確かに巨人の右腕がした事は許せない。けれどそれを他のクランにぶつけるのは間違ってるわ」
「別にぶつけてるわけじゃない。こっちは命張ってんだからこれぐらいの言い分は通るだろ?あいつらだってああ言ってんだ。やらして見定めるだけだぜ」
「だけど囮みたいなやり方は流石に……」
「じゃあ、また裏切る可能性がある連中を俺達の中に入れんのか?」
ミナスティリアはガラットに言われて黙ってしまい、そんな二人のやり取りを周りの連中は何も言うことができず、不安そうに見つめていた。
やれやれ。
ガラットの気持ちもわかるんだがな……。
俺はグラドラスを見てどうにかしろと目で訴えると、溜め息を吐きながら二人の方に歩いていく。
「こうしたらどうだい?僕とキリクにアリスが火竜の伊吹と共に進軍より離れて前に出る。もし火竜の伊吹がふざけた事をすれば僕が消し炭にするよ。けれど僕がやられたら君達で一斉に離れた場所から最大級の魔法を撃ち込めばいいさ。まあ、僕がやられる事は絶対ないけどね」
グラドラスがニヤニヤそう言うと皆んな賢聖様なら大丈夫だなと頷く。
しかし、そんな中、ファルネリアだけは疑問を投げてきた。
「待って、もし力がないキリクが人質になったらどうするの?」
ファルネリアが心配そうな顔で聞いてくるが、グラドラスは眼鏡をくいっと上げる。
「気にせずやればいい」
「なっ、キリクはそれで良いの⁉︎」
グラドラスの言葉にファルネリアが驚愕した顔で俺を見てきたが、俺はゆっくりと頷いてやる。
「宝具解放でもして賢聖殿ごと盛大にやってくれ。ただ、俺は火竜の伊吹と短い時間だが一緒に行動をした。だから俺はこいつらが裏切る事はないと信じてる」
俺がそう言ってメリダや火竜の伊吹のメンバーを見ると力強く頷いてくる。
するとミナスティリアがメリダの方に歩いてきた。
「私も信用するわ。だからこそあなたの働きをしっかり見せてもらうわよ」
「任せてよ。それに先にあたし達が出るって事は巨人の右腕を先に見つけれるわけだから斬り込む最初の権利はもらえんだよね?」
「ふふふ、残念だけどそれは取り合いよね」
ミナスティリアはガラット達を見ると不敵な笑みを浮かべる。
「悪いな。あいつらをぶった斬るのは火竜の伊吹でも白鷲の翼でもねえ。俺達、不滅の牙だぜ」
「だそうよ」
「ふふふ、なら勝負ね」
「ああ」
三人はそう言うと不敵な笑みを浮かべるが、そこにはもうお互いのわだかまりは見られなかった。
「どうやら、上手くいったみたいだね」
グラドラスがドヤ顔をしながら声を掛けてくる。
「ああ、お前のおかげだ」
「ふっ、僕の自己犠牲の賜物だね。ところでこの先に何があると思う?」
「ノリスの爺さんの興味を惹くものじゃないか?」
「やはり、そう思うよね」
「じゃなければ、サリエラ達が離れる事はないだろう」
俺はあの時の泣いているサリエラを思い出す。
あいつが引っかかることはないだろうし、後衛よりの風の乙女が前に出る事はない。
「おそらくノリスの爺さんが暴走して何かあったんだろうよ」
俺はそう言いながらグラドラスと一緒に階段を慎重に降りていき、辺りを見回しすぐに考えが正しかった事を理解した。
何故なら降りた先の片方の壁には魔族文字と絵が刻まれていたからだ。
「これは凄いな」
俺はそう呟きながらグラドラスを見ると、俺の言葉は聞こえてないらしく壁に刻まれた文字と絵に夢中になっていた。
こいつはノリスの爺さん以上に探究心があるんだったな。
しかし、何が書いてあるんだ?
俺が壁を調べようとするとメリダ達が慌てて階段を降りてきた。
「二人共、あたし達より先に行かないでよ」
「仲良くしてるのを邪魔すると悪いと思ってな。それより面白いのを見つけたぞ」
俺がそう言うとメリダ達や更に後ろから降りてきた進軍メンバーを興味深そうに壁を見始めた。
そんな中、グラドラスが興奮した顔で叫ぶ。
「これは正史かもしれないぞ‼︎」
「正史?南側の魔王のか?」
「ああ、もしかしたら魔王の目的がわかるかもしれない‼︎」
グラドラスが狂気じみた顔で俺の肩を掴み、激しく揺さぶる。
だが、周りの連中は俺が酷い事をされていると言うのに助けることもせず、壁を夢中で見始めたのだった。
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