第14話 ご機嫌損ねを撃退
翌日。
月イチで訪ねて来る度、私に質問されているご機嫌損ねがとても嫌そうにやって来た。
何も教えてくれないので、知りたいことがあればこちらから聞くしかないのだから仕方がない。
自己判断やカーマインに聞いて実行すれば、何かあった時にこちらのせいにされそうだと思ったので常に言質を取っている。
証人は護衛。私の専属だが雇用主はアウグスティンなので、見たまま聞いたままを話すはず。
買収も普通にあるらしいが、中継ぎの王と王太子どちらを優先するかは微妙なところ。
けれどアウグスティンは私に対して不利な行動はとれないので、何とかなるだろうという考え。
「この三ヶ月の間、殿下はわたくしに会いに来られませんでしたね」
自分の正当性を通す為に必要な確認なので、これ以上顔を顰めないで欲しい。単純に見るに堪えない。
それと国の為に迎えた他国の王女に対する扱いがなってない。人としても国の代表としてもアウト。
側妃を冷遇したり放置しても許されるのは夫であり、文官ではない。実際は結構違うらしいが。
「そうですね」
返事も適当。
在室しているカーマインと侍女のカレン、開けた扉にいる護衛は無表情を保っているが、ひやひやしている感じが伝わってくる。
彼らは教育不足でも常識はある。男尊女卑な国だが、王太子の妃は側妃でも別扱い。
高位貴族とは言え次男では、私の方がかなり身分は上。せめて次期当主に指名されないと話にならない。
「側妃として与えられている予算は、大まかな明細さえ出せば好きに使ってもいいのですよね?」
「そうです。明細の提出はこちらに常駐しているカーマインへどうぞ」
「わかりました。でしたらあなたはもうこちらへは来なくて結構ですよ」
「はっ?」
驚きで目が見開かれている。この国では美男子扱いらしいが、私はこの顔をそもそも美男子とは思えない。
今の表情もただただ見苦しい。傲慢な性格が顔に出過ぎな気がする。
『以前から思っていましたが、生まれが他国の王女であり、現在王太子の側妃である私に対し、いち文官ごときがその態度は失礼ですよ』
「何を! 私は時間を割いてわざわざあなたの機嫌を伺いに来ているのですよ! 一度も殿下のお渡りを受けていない癖に!」
帝国語ですごんでみたら、怒鳴り返された。
渡りというのは夜の訪れを指す言葉。未成年に手を出すのは非常識なのだから、渡りがないのは当たり前。
あったらあったで問題。それを言うってどうなの。やっぱりハイトブルクはロリコンなの?
『ですから、それが不要だと言ったのです。貴方のそれはご機嫌伺いではなくご機嫌損ねです』
後ろに控えてるカーマインから、何かを堪えているような気配がする。
王太子との関係を考えて止めに入りたいのかも知れないが、関係性は元から無いので諦めて欲しい。
その様なことを考えているうちに、顔を真っ赤にしたご機嫌損ねが応接室から飛び出して行った。
さようなら。二度と会いたくない。お詫びもなければ退室の挨拶もなし。人としても文官としても最低だわ。
護衛は彼を追いかけて行った。
彼にはもう興味がないので振り返ってカーマインの様子を伺うと、顔を俯けて震えていた。
顔が赤くなっているのがわかるが、表情が見えないのでどういう感情での震えなのかがわからない。
「ぷっ、ふっふっふ」
笑いかよ。耐えてたんだね。
「カーマイン、今後の話がしたいのだけれど」
「は、はい。何でございましょう。いい気味でした。いつもと違う表情が愉快で、吹き出すのを我慢するのに必死になってしまいました」
いい気味って。はっきり言っちゃっていいのか。カレンが慌てているよ。
相手はハイトブルクのかつての側近候補兼親友で、今も侯爵令息。次期宰相とも言われていた人物。
ハイトブルクと以前ほど接触はないが、私との連絡係に指名するのだから繋がりが途絶えた訳ではない。
今後を考えるなら良い関係性を築いている方が得だとは思う。
「あれで文官では、人様の前に出られる水準に達しているとは思えませんわ。殿下はわざとわたくしを怒らせたかったのかしら?」
「殿下の真意はわかりかねますが、我が国では色々とありまして……」
真意についてはゴシップ好きが推測を教えてくれている。ゴシップ関係なので信頼度は高い。
「知っていますよ」
「そうですか。一応、文官としての序列なら私の方が上なのですが」
「礼儀がない時点で、文官は諦めた方がよろしいのではなくて? しかもわたくしとの連絡係に起用するとは、馬鹿にされているのかしら?」
困ったように言ってみた。
ハイトブルクを連れて来ないのは有難かったが、本人が不快だったから面倒だなと思ってはいた。
「正直に申しますと、ここにいる使用人は全て左遷されていたのです」
「あら、皆さんそれなりに仕事をされるのにどうして?」
自己研鑽に励んでいるので予想は出来たが、私にはっきり言うとは思わなかった。
私がどういう人たちか探っていたように、あちらも私がどういう人間かを探っていたのだろう。
「力不足で申し訳ありません。いつも辛抱強く待って下さっているのには、気付いていました」
「あら。わたくしとしたことが」
隠していたが気付かれていたよう。精一杯仕えてくれているのはわかるが、レベルは低いと言わざるを得ない。
事実として、本気を出した時の魔法の国の魔力なしの人たちの方が余程レベルが高い。
「我々は王太子殿下の命で、件の男爵令嬢の専属になっていました。殿下にご令嬢をローザリンデ様から守るように言われましたので、ささやかですが害をなしたのですよ」
知ってるよ。
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