美しくも青くもなく
「ちなみに、ヘイゼル。先に訊いとくけどさ。その……
「少し
「……なんて?」
「
結果が凄いのはわかったけど、その手段が何やらサッパリわからん。
怪訝な顔した俺を見て、ヘイゼルは考え込む。
「ジャパニーズのメンタリティでは、受け入れられませんか。たしかに起動確率には、
「いや、なにが……」
説明も単語も聴き覚えのないものばかりだったけど、“日本人には受け入れられない”ってところで理解した。
「もしかして、核兵器か?」
「はい」
それは……ダメだろ。核アレルギーとか以前にさ。しかも起動確率に問題って、イギリスの兵器はどうなってんだ。
俺はこちらと同じく首傾げ気味だったティカ隊長に尋ねる。
「その聖国とやらには、聖教会の関係者だけじゃなくて民間人もいるんだろ?」
「いるな。聖教徒以外が混じっているかどうかは不明だがな。聖国の人口は十八万を超えるくらい、聖都と呼ばれる首都だけで一万弱だったはずだ」
十八万以上って、意外と多いな。でも、それで動員兵力が二万っていうのも異常な数字だ。戦時徴兵なのかもしれんけど、人口の一割を超えてる。
「殺したいのは、敵だけだ。ある程度の周辺被害が出るのはしょうがないにしても、広範囲を長期的に汚染する兵器は避けたい」
「それは理解しています。もう少し現実的で穏当な手段を用いましょう」
……ホントか? その手段、本当に穏当か?
思わず懐疑的な視線で見てしまう俺に、英国の闇を具現化したような漆黒のゴスロリメイドは小首を傾げて笑う。
「
◇ ◇
コムラン聖国、聖都アイロディア。
新教皇ロワンの命により招集された聖騎士団の精鋭四百名は、大聖堂の前庭に完全武装で整列したまま出発の合図を待っていた。
騎士団長ハーグウェルは、傍らの副官に声を掛ける。
「どうなってる。出発予定から
「魔導師によれば、転送先の魔法陣に不具合が起きているとか」
昨夜すでに侵攻先の商都を制圧・確保したとの連絡はあった。送り込まれた先遣隊は、潜入と破壊工作に長けた強襲僧兵の猛者が二十余名だ。半獣相手に遅れを取るとは考えられない。
「ロワン猊下はどうしている」
「魔導師どもに怒鳴り散らしていました。運ばれた魔法陣に問題があったのだろうと」
ハーグウェルは部下たちに聞こえないよう、静かに溜め息を吐く。
「訊きたかったのは、そういう話ではない」
「わかっております。
副官というのは、騎士団長の補佐として騎士団の行動を円滑に行うためお膳立てをするのが役目だ。
臨戦態勢の兵を半刻も無為に待たせるなど、作戦遂行を司る者として論外だと理解している。
「……なるほど。何もないわけだな」
「はい。こちらの魔導師を怒鳴って解決する筈もありません。問題が発生しているのは転送先の魔法陣なのですから。しかも、兵たちに聞こえる位置で進軍に問題があると触れ回るような真似を」
ハーグウェルは暗澹たる気持ちで頷く。
これが亡くなられた前教皇マイア猊下であれば、蛮族の地へと兵を送り制圧する前に、まずは政治的な根回しを考えておられただろう。経済的な地歩を得て民心を確保し、教会の橋頭堡を築いて盤石の態勢となって、それでも必要ならば出兵。しかも相手の犠牲は最低限に、最大限の効果を発揮させようと心を砕いておられた。
蛮族の地を制圧したところで、被害が大きいと友好関係が結べない。さらに血が流れ、さらに憎しみが積み重なる。地歩とカネと人員が失われ、血塗れの泥沼だけが残る。
「あの男はマイア猊下の下で、いったい何を学んだのだ」
「ロワン
魔法陣に張り付いていた魔導師たちがバタバタと走り回った後、ようやく出立を知らせる鐘が鳴った。
無意味な整列で兵たちの戦意は緩み切っており、逆に身体は強張っていた。ここから臨戦態勢に戻すには、転送先で
「最前列に盾兵、右翼に槍兵、左翼後方に騎兵だ。転送後、すぐに……」
「団長殿! 転送魔法陣、なにか出現します!」
部下たちに檄を飛ばしていたハーグウェルは、副官の声に振り返る。
魔導師たちが囲んでいる転送魔法陣は、まだ魔力注入を始めたばかりで準備は整っていない。中央の紋様が紅く光っているのは、対になった魔法陣から転送が行われる
ハーグウェルがとっさに考えたのは、何らかの問題が起きて先遣隊が帰還してきた可能性だった。だが魔法陣の紅い光が収まったとき、そこに現れたのは奇妙な四角い代物。
「……なに、を……!」
教皇ロワンの怒鳴り声は、凄まじい音に掻き消された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます