喰い合う理不尽

「“共食い部隊”って……サーエルバンの帰路かえりに殺したのが、それか?」

「はい。確認のため、いくつか死体を回収しましたが……ほとんどが獣人でした」


 ヘイゼルは、それでも気を遣って単に“獣人”と言ったが、あの小柄で俊敏な感じ。ネコ獣人じゃないかと思う。

 草色偽装カモフラで突っ込んできた彼らは銃弾に倒れ、抱えてきた魔導爆裂球で爆散した。それは結果的にサラセン装輪装甲車の足回りを破壊し使用不能にしたのだけれども。

 その戦果に、命を賭けるほどの意味はあったのか。しかも、亜人殲滅を標榜する人間の都合のために。


 ティカ隊長もエルミも、何か言いたげな顔で俺を見る。

 ……というよりも、何か言いたげな俺を不可解に思っている顔だな。


「ミーチャが言いたいことはわかるが、どうにもならんぞ。殺しに来た以上、死ぬ覚悟くらいしている。そこで迷えば、お前たちが死んでいた」


 それは、無論わかってる。自分が甘っちょろいのも理解している。

 それでも、どうにかできないのかくらいは確認したい。


「……ヘイゼル、そいつらを解放する方法はないのか」

「難しいと思います」

「不可能じゃないんだな?」


 ヘイゼルはDSDのストレージから首輪を出す。獣人猟兵の死体と一緒に収納したものらしい。犬の首輪によく似ているが、いくつか小さな魔珠が嵌め込まれている。


「心を縛る魔道具ですね。教会では“隷従の首飾り”と呼ぶらしいですが、これを装着されると絶対服従の状態になります」

「じゃあ、剥ぎ取りさえすれば隷属状態からは解放できる?」

「……ええ。ですが、DSDのストレージ機能で行うとしたら、戦闘中は無理です。できれば接触して……せめて静止状態でないと」


 死体からなら剥げるが、突っ込んでくる猟兵からは無理と。それはつまり、ほぼ不可能ってことだな。戦闘後には死んでる。猟兵か俺たちか、その両方かが。


「困難なのは、手段だけじゃないぞミーチャ」


 ティカ隊長が、ウンザリした顔で言う。


「むしろ問題なのはな、こちらが危険を冒してまで共食い部隊を奪還すると、彼らが強迫材料として有効だと思われることだ」


 肉の盾として役に立つ、あるいは人間爆弾として有効とわかったら、敵は確実に“共食い部隊”の数を増やしてくる。むしろ亜人の被害が拡大するというのがティカ隊長の考えだ。

 たぶん間違ってはいない。


「でも、まあ……それはそれだ。もし可能性があるんなら、あたしもできるだけのことはする」

「もちろんウチもニャ!」

「他の兵士と上手く分断できれば、さらってくることもできるにゃ」


 凄腕斥候のスーリャは、二体一なら無傷で制圧できると言う。問題は、彼女の斥候部隊が四人で、敵猟兵が十三人ってとこだ。


「安全を考えれば、ナシだな。仲間にできるかどうかもわからない相手のために、仲間を危険には晒せない」

「矛盾してないか、ミーチャ? どのみち危険なしに奪還はできないんだぞ?」

「わかってるよ。だから困ってる」

「いいえ。ひとつだけ、最低限の犠牲で済む方法があります」


 ヘイゼルが思案顔で言う。彼女が取得した記憶や情報から答えを出したんだろう。


「方法って、どんなのニャ?」

「簡単ですよエルミちゃん。術者を殺せば良いんです」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る