ファスト・スナイプス

「襲撃には事前対処できたのか?」

「ああ。スーリャが発見してくれたからな」


 人的被害ゼロでの撃退に成功したティカ隊長に、俺は状況を確認する。

 スーリャというのは、エーデルバーデンでも活躍してくれたネコ獣人の凄腕斥候だ。たしかに彼女なら、徒党を組んで移動してくる敵など簡単に察知しそうだ。


「すまん、失敗だった。エルフの射手に銃を預けていけばよかった」

「どうだろうな。あたしにはよくわからんが、エルフの本領は弓だろう? 防衛線で見せてもらった精度と威力は見事なものだったぞ」


 防衛戦用の武器は、区画ごとに配布してあるんだっけ。手槍に小楯に短弓、防衛拠点の集会所には剣や長弓も備えてあるそうな。

 町の周囲を固めた外壁の上で、俺は配置に着いていたドワーフの爺ちゃんたちに声を掛ける。


「おう爺ちゃんたち、大変なときに留守して悪かったな」

「いいや、大したことはなかったぞ?」

「ああ。エルフの弓が、そらもう冴え渡ってな。大変どころか、戦いにもならんかった」


 ドヤ顔でいくぶん盛ってる感はあるものの、みんな怪我どころか疲れた様子もない。


「大丈夫だったのか?」

「ミーチャの調達してくれた“こんくりーと”のお陰じゃな。攻撃魔法をぶつけられたが、面白いくらいにビクとももせんかったな。ほれ」


 爺ちゃんの指すところを見ると、胸壁の一部に焦げ跡があった。袖で拭うと目立たなくなる程度で、壁面そのものに損傷はない。


「大した仕事ぶりだな」


 俺が褒めると、外構工事を担当した施工チームは控えめに胸を張った。


「腐り出す前に死体を回収したいんだけどな。あいつが鬱陶しい」


 長弓を持ったエルフたちと話していたティカ隊長が、俺を振り返って町の西側を指す。ヘイゼルが作った溜め池の先、距離は四百メートル近いので俺の視力では何のことやらわからん。


「まだ敵がいるのか?」

「監視の兵だな。気配は消してるが、隠れるのはあまり上手くない」


 答えたのはエルフ射手のリーダーだったイーハだ。いまは弓手だけどな。仕留められないかと訊いてみたが、いくぶんイラッとした感じで笑う。


「どんだけ怯えてるんだか、こちらが弓を見せるたび木陰に隠れて出てこなくなる」

「それはそうだ。エルフの長弓だけで、四十以上は射殺いころしたからな」


 ヘイゼルを呼んで、狙撃可能か尋ねる。


「問題ありません。リー・エンフィールド小銃を出しましょう」

「おそらく魔導防壁を付与した盾を持ってるぞ」


 ティカ隊長の言葉に、ヘイゼルは少し考えて笑った。


問題ありませんイッダズン・マター


 彼女が取り出したボーイズ対戦車ライフルの威容に、周囲の人間はギョッと振り返る。いままでこいつの発砲シーンを見たことあるのは……ゲミュートリッヒではティカ隊長くらいか。

 全長は一・六メートル近く、重量も十五、六キロはある。二脚架バイポッドを開いて胸壁に乗せると、ヘイゼルは溜め池の先に狙いを定める。銃床ストック下部にあるアシストグリップを左手で持ち、腕組みする感じの独特の構え方になる。


「みなさん、耳を塞いでください」

「おーい、デカい音出るから、耳押さえとけ」


 俺の警告で、近くにいる住人たちはみんな耳を押さえる。

 轟音が一発。少し間を空けながら追加に四発。ヘイゼルにしては珍しく、多めに撃ったな。どうせ着弾地点が視認できない俺は、なんとなく眺めているだけだったけれども。かなりデカい木がゆっくりと傾いてゆくのが見えた。


「「「ええぇ……」」」


 ポカーンと口を開けたままの俺たちを振り返って、ゴスロリメイドは輝く笑みを浮かべた。


これぞ英国ディス・イズ・ブリテン♪」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る