夢のBカップ

有間 洋

第1話 夢のBカップ 

  胸がぺったんこのぎりぎりAカップの私。そんな私が、突然、夢のBカップになった。

 それは、出産したからである。おっぱいがたくさん出たからである。看護婦さんに「これはよく出そうなおっぱいだね」と言われ、そうなのか、とくらいに思っていたけれど、出るわ出るわ

ピューピュー出る。おっぱいがたまるから胸が張って大きくなり、この時期の私はBカップなのだった。

 私の母は母乳が出ない人だったので、この変化に驚いていた。一応、ミルクも用意していたが、母乳で育つ子は、哺乳瓶のミルクは拒否する。乳首にしか食いつかない。

 母乳の飲み方にも個性がある。

 長女の場合、飲む速度がものすごく早い。「そんなに急いで飲まなくても誰もとらないよ」と言ってあげたくなるくらいすごいピッチで飲む。そして、飲みすぎて、マーライオンのようにぴゅう~とリバースする。布団も私のパジャマもリバースした母乳でびっしょりになる。だから、長女に母乳を飲ませる時は、リバースに備えて、バスタオルを用意して、戦闘態勢を整えてから母乳を飲ませていた。

 長女は、夜中に何度も起きる。そして母乳を飲む。何とか寝かしたと思ったら、ぶりぶりぶり~と音がする。うんちである。眠い中起き上がっておむつを替える。そして、また母乳を飲ます

 その繰り返しで、最初の2か月ほどは夜はろくに眠れなかった。

 それに対して、長男は母乳を飲ますと自然に寝てくれたので、長女に比べると楽だった。夜中のぶりぶりぶり~もなくて、飲み方も、長女のように慌てて急いで飲んだりはせず、ゆっくりごくごく飲む。だから、長男はリバースすることはなかった。

 ただ、歯が生え始めた時期、長男は、母乳を飲むとき、乳首をかむことがあった。長女の時には1度もなかったことだ。その痛さといったら、思わず大声で「いた~い」と叫んでしまうほどだ。私の大きな叫び声に長男は泣き出す。ごめんごめん、あなたが悪いんじゃないんだよ。と抱きながら、痛みに耐えて母乳を与えた。

 何とか、かまれないよう対策を考えて、乳首のまわりに、絆創膏をぐるりと張って、乳首の根本をかめないようにして、母乳をやった。今思っても涙ぐましい努力だ。

 2人ともごくごく飲んで、大きく育った。今やもう、大人である。

 娘がスマホのラインで文字をものすごい早い速度で打つのを見ると、母乳をものすごい速度で飲んでいたのを思い出す。

 私が人生で唯一Bカップだった頃のお話だ。


読んでいただきありがとうございました。

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