第四幕 猿山編
合戦の後、妖派に留まることに強い不安を抱いていた影狼は、鴉天狗の越後入国の報せを聞いたことをきっかけに妖派からの離脱を決意する。しかしそれを知った伊織により、影狼は小部屋に閉じ込められてしまう。ところが、そこへ思いがけない協力者が現れ――
激闘の末に甲斐からの脱出に成功した影狼は、ライとともに武蔵国の河越へ向かった。そこで二人を迎えてくれたのは羽貫衆の人たちだった。新たな居場所を得て安心する一方、影狼は恩人であるメランの親子のことも気にかかった。彼らが猿山へ調査に出かけていると聞いて、影狼たちも猿山へ向かうことになった。しかし影狼たちはそこで、未だ世に知られていないおぞましい事実を知ることになる。
☆登場人物・用語
【新登場人物】
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羽貫衆や笹暮の師。柘榴の父。殲鬼隊の隊長を務めていたが、侵蝕を理由に抹殺された。
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凩村に駐在していた謎の老人。妖木沙羅幻樹の世話をしていた。
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猿山に出没した人型の妖怪。猿のように四足で移動する。それなりに人語を話せる。
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奇兵。甲高い声を遠くまで響かせることができる。
【新用語】
・
甲斐国の妖派の拠点。宝永五大湖の一つ、河口湖がある。
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柘榴の居城。河口湖に面していて、奇兵宿舎、妖研究施設などが置かれている。
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羽貫衆の拠点。舟運により商都として栄えている。
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ヒュウが経営する舶来品店。知名度は商都河越でも随一。
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次世代の殲鬼隊の育成を目的としていた道場。師範は竜眼。主な門弟は羽貫衆や笹暮。
・
武蔵国にある山。猿が多く生息することからこの名が付いた。
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猿山の奥にある村。数年前から、村へ向かった者がことごとく消息不明となっている。
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柳斎が扱う長大な妖刀。三大妖怪覇蛇の尾から作られた。先端に向かうほど威力が増していく。
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栄作愛用の鉄砲。大口径ならではの威力と、様々な弾種に対応する機能性を併せ持つ。
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凩村を支配していた妖木。生物体を操る能力の他、強い幻覚作用も持つ。
・ワヒャー教
ヒューゴが信仰する宗教。メラン諸島では広く信仰されているらしい。
* * * 見どころ * * *
~髑髏ヶ崎館からの脱走~
「このまま妖派に居続けたら……自分が自分じゃなくなっていくような気がするんだ」
夥しい血が流れた伽羅倶利の合戦と、鴉天狗の越後入りは、影狼の心境に変化をもたらした。影狼は一番信頼のおける伊織に、妖派を抜けたいと告げるが、小部屋に閉じ込められてしまう。あくまで伊織は柘榴の忠実な部下であった。
影狼を小部屋から助け出したのは、一番信頼のおけない悪戯少女――來だった。そしてたった二人での逃走劇が始まる。
~伊織との死闘、そして別れ~
「最初っからオレとお前とでは、相容れなかったんだ……お前は人が傷付くことを嫌い、オレは人を斬ることでしか満たされない」
強敵を退け、やっとのことで髑髏ヶ崎館の脱出に成功した影狼と來。しかしそこへ、伊織が猛追をかける。奇兵の誇りを賭けた伊織と、未来を掴み取ろうともがく影狼の思いがぶつかり合う。
「伊織にも生きてて欲しいんだ。オレが絶対に、奇兵とは違う道を選べるようにしてやるから。後悔はさせないから」
必殺の抜刀術を見切られて敗北した伊織は、任務失敗の責を負って命を絶とうとする。戦に生きてきた伊織にとって、影狼の脱走を許した失態はそれほどに重かった。そこで影狼は、伊織に“戦う”以外でも助けられたこと、さらに自らの志を告げることで伊織を説得。
生きてさえいれば――その言葉を胸に、伊織はまた奇兵として生き続けることを決めた。
~羽貫衆との再会、語られる過去~
「なあ柳斎。オレたちが殲鬼隊になってたら、今より幸せになれたと思うか?」
妖派を抜けた影狼たちは、羽貫衆の元に身を寄せることになった。羽貫衆の屋敷は、次代の殲鬼隊を養成するための剣術道場――国士館の跡地に建てられたもので、道場もそのまま残っていた。かつてその道場には、羽貫衆のメンバーの他にも笹暮が通っていた。柳斎と栄作は、新たな同居人のために屋敷を整理している途中で、昔話に花を咲かせる。
~魔境の村~
「もう……薄々気付いていますよね。今回の調査が、これまでと違うということは」
恩人であるメランの親子は、猿山である調査をしていた。影狼は羽貫衆とともに、こっそり会いに向かったが、その山の奥には魔境と化した村があった。宝永山から離れたこの地域でなぜ侵蝕が進んでいるのか、可能性として浮かび上がったのは、朝幕の戦争に関わる、あまりにも大きな闇だった。
魔境の村の中で待ち受けていたのは、幻術を使う巨大な妖木と、謎の老人。一度は柳斎が妖木を両断したかに思えたが、老人がその実を食したことで覚醒。妖木沙羅幻樹は人の姿に変化した。その姿は、羽貫衆がよく知る人物のものだった。
「名は榊竜眼。オレたち羽貫衆が通っていた道場の師範だ。そして妖派筆頭――柘榴の父でもある」
そして、竜眼と門下生筆頭――笹暮との間に起こった悲しい出来事が明かされる。
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