27 マミ 街を歩く (2)

 

 

 

***

 

 

 パンツを思い切り露わにしてしまって周囲の視線を集めてしまったマミに、

「…すみません…」と、女の子の母親が、少し気まずそうに、

申し訳無さそうに、頭を下げて、「あ、いえ。」と、マミが、頬を真紅に

染めたまま、やや苦笑気味に、微笑む。

 

 「おねえちゃんありがとー。」と、振り向きながら笑顔で手を振って

母親と共に歩み去っていく女の子に、笑顔で手を振り、

また歩んでいくマミに、

クレイアが、「…神界の勇者が風船一個の為にわざわざ、ねえ…」と。

マミが、ふと、微笑んで、「…昔観たヒーロー映画でさ、それこそ惑星一個

まるごと破壊したり救ったり出来るヒーローが、子供の為に

風船捕まえるシーンが有ってさ…、…憧れたな…。」と、クレイアに。

その、マミを、思わずクレイアが見つめて、「…成程…。」と。

「…何?」と、心持ち首をかしげるマミに、

「別に。」と、クレイアが、淡々と。

 

 街を散策していると、様々な建物があるのが解る。中世から近世に掛けての

ヨーロッパに似た様式から、中東に似た様式、中には見た事も無い様な

全く独特の様式の建物も。

(…いろんな文化の共存、って事か…)と、何となくしみじみと、マミが微笑む。

 

魔法科学文明の発達したエルクヴェリアならではの光景と言うべきか、

のんびりと観光客を運んでいる魔法科学で造られた馬型ロボットの馬車の

5メートル上空を、

重力制御機能を持つ浮遊型トラックが安全操縦で追い越して行ったりもする。

 

 何時の間にか時間が過ぎてしまって、フィリスが、「…あの、わたし、

お夕食の準備が有るので先に戻りますね!。」と、一人家に帰ろうとして、

マリンが、「まあ別にいいじゃない!、食材は魔法保存庫で

鮮度保ってるんだし、今日はみんなでどこかで食べて帰っても!」と、

微笑み、

マミもフィリスに、「…フィリス、一人だけ帰るっていうのは

無しにしない?」と、微笑みつつ。

フィリスが、「…はい。」と、少しはにかむ様に頬を染める。

 

 いつしか、夕暮れ時に。

 

 小高い丘の公園から、6人で、

澄んだ夕日に照らされた街の光景を眺めている。

「…何て言うか雑多と言うか、統一感ってものは無いわねー、この街。」と、

わずかに苦笑気味なフレナに、

「でも、活気が有っていいなあって思うけど?」と、マリンが微笑み、

フレナが、「まあ、住むんだったらこういう街の方が楽しいかな、

とは思うんだけど。」と、微笑む。

 

 ふと、マミが、「…おれは、なんだか、この景色、きれいだな、って、

思う…。…そりゃ芸術の街、みたいな感じは無いけど、でも、

なんだか…。」と、しみじみと微笑んで、「…みんな、」と、

フレナの、ミーユの、クレイアの、フィリスの、マリンの、瞳に、

視線を投げ掛けて、背中に夕日を浴びながら、

「…おれには、家族がいない。地球の両親は、5年前に事故で死んでる。

兄弟はいない。もう、地球に戻る手段も、無いって言った方がいい。

…おれは、ここで生きていく。もうどこにも行かない。

…だから…、よろしく。」と、なんとなく真摯な瞳で。

 

 逆光に身をゆだねるマミに、

フレナが、「…こちらこそ、よろしく。」と。

ミーユが、「…よろしく、お願いします…!」と、深く頭を下げる。

クレイアが、「…よろしく。」と。

フィリスが「よろしくお願いします…!!」と、思い切り深く頭を下げる。

マリンが、「よろしく…!」と、マミの瞳を見据えて。

 

 夕食は魚メインという事で、鯛に似た高級魚のソテーと新鮮野菜の

炙り焼きのコースである。野菜の炙り焼きなんて美味いのか?、と、

思うかも知れないが、エルクヴェリアの野菜にはいやなクセが無くて

さわやかな旨みがあり、これを香ばしく焼くと旨みが一層引き立って、

食欲をかき立て、

魚のソテーと互いに味をこの上なく引き立て合ってくれるのである。

そして、マミを驚かせたのは、オードブルであった。

 

 「!!!っ、これって、お刺身―!!!?」思いっ切りびっくりしている

マミに、

「お刺身ですよ?」と、マリンが、少し悪戯っぽく微笑んで。

メインのソテーと同じ鯛に似た魚を綺麗に薄く切って、醤油に似た調味料と

薬味としてタマネギに似た野菜を擦りおろしたものが添えてある。

さすがに箸ではなくて金属臭の無い魔法銀のフォークで食べる様には

なっているが。

思わず食べてみて、「…何これ、うま過ぎる…。…こんなおいしい刺身

食べた事無い…。」と、マミが、茫然と。無論生臭さは全く無く、

心地良い弾力と新鮮な風味に、豆を長期発酵させた調味料と薬味の

適度な刺激が、完璧以上に調和している。

 

 と、ふと、「…あれ、でも、みんな、生の魚とか、

苦手だったりしないの…?」と、思わず心配するマミに、

フレナが、「最近お刺身って密かにブームなの。健康にも美容にも良くって

重たくなくておいしいって。」と、微笑み、

フィリスが、「最近、お刺身以外でも、東方諸島系のお料理って

人気なんですよ。地球の日本のお料理とかなり似てるって聞いてますし、

マミ様がよろこんで下さるなら毎日東方系にさせて頂きますから…!」と、

何だか意気込む様に。

 

 「毎日でなくていいよ。」と、少し苦笑気味にマミが、「…せっかく、

交易都市に来たんだから、いろんな種族のいろんな料理食べてみたいし、

まあでも、時々は、日本食も食べたいかな。」と、穏やかに微笑み、

「…はい。」と、少し恥ずかしそうに、フィリスが頬を染める。

 

 「…それにしても…」、と、ふと、しみじみと、マミが、「…また、

お刺身が食べられるなんて、思わなかった…」と、少し遠い目で。

ミーユが、「…やっぱり、日本の事、お心残り、ですか…?」と、

気遣う様に、切なそうに、たずねて、

「!、心配しなくていいよ…!」と、マミが、

マミなりにミーユを気遣う様に。

「……」思わずマミを見つめてしまうミーユを、

「……」フレナが、何気無く横目気味に、見つめている。

 

マミが刺身を食べたのは両親が生きていた頃以来の事である。

 

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