22 マミ 人間族世界連合大統領と会う

 

 

 

***

 

 

 戸惑っているマミの様子に、「…何か気になる点でもあったかな?」と、

ヴィクトルが。

「!、いえその、…おれが元いた世界だと、こういう場でビキニって事が

無いので…、何か戸惑っちゃって…」と、マミが、少し気まずそうに、

少し頬を染めて。

ヴィクトルが、微笑む。「…エルクヴェリアでは、ビキニアーマーは

女神ヴェリアの特別の加護を受けた優れた能力を持つ者の象徴だからな。

異世界からの転生者である君が戸惑うのは当然だが…、

文化の違いという事で慣れてもらうしかないだろうな。」

「…慣れる事にします。」と、マミが、

何となくやっぱり少しやりにくそうに。

 

 

 

 食事が済んだ一行は早速人間族の世界連合行政府に向かったのだが、

 

 「…和平会談と申されましてもな、」と、

小会議室の小さなテーブルに着いた、凛々しさを湛えた面差しの

褐色の肌の60代の男性が、世界連合大統領が、些か苦笑気味に

微笑む。「…ここまで竜族の皇帝陛下とマクガイヤー・コンツェルンの間で

交渉が進んでしまっては私が今更とやかく言う余地が無いでは

ないですか。」と、マリンが差し出したモバイルタブレットの画面に映る

交渉内容を確認しつつ、あらかじめ用意していた講和条約文書を

竜族皇帝へと差し出す。「…私の方の署名は済ませておるのですが、

如何ですかな?」

竜族皇帝が少しだけ眼差しを厳しくして手早く条約文書の内容を確認し、

ふと、無垢に微笑んで、「…ペンをお貸し頂けますか?」と。

隙の無い仕草で大統領がペンの柄を差し出し、皇帝が無造作に署名する。

 

 「…やれやれ、これで一安心ですな。重過ぎる肩の荷が

一つ下りました。」と、大統領が屈託無く微笑む。

 

 暫し、沈黙が過ぎり、

 

 「…あの、ひょっとしてもう和平会談終わりですか…?」と、マミが、

結構茫然と。

 

 ふと、大統領が、少し深く微笑む。「…我々人間族にとっても

竜族の方々にとっても戦争準備に伴う財政負担の問題が深刻化しつつ

ありますからな。講和は正しく喫緊の課題です。無論尊い命が失われる

からこそ戦争は忌むべきものなのですが、敢えて生命尊重というモラルを

抜きにして論じてみても、国家財政上の問題のみに限定してみても、

戦争準備に注ぎ込んで失われた莫大な予算がもしも経済活性化等に

活用されていたらと仮定した場合のシミュレート結果から観ても、

戦争準備の段階でデメリットが大き過ぎる事が実際明らかと

なりましたからな。これからは大急ぎで財政再建の為に

人間族と竜族の間で協力出来る分野ではむしろ積極的に協力を計らねば。

その点で皇帝陛下と見解が一致しておりますからな。

講和に手間暇かけておる場合ではないのですよ、勇者様。」

 

 「…大統領閣下が話の解る方で良かったです…」と、マミが、

ほっとした様に、しみじみと、微笑む。「…竜族の皇帝陛下も平和を大事に

される方で…、だから、こんな方々を戦争へ導く為に、洗脳波動でも

使うしかなかったんでしょうね、今回の黒幕は…。」と、

少し眼差しを厳しくして。

「…結局、黒幕の正体は解りませんか…?」と、大統領も眼差しを厳しくし、

「…ガッディスブレインでも手掛かりらしいものが掴めなくて…、

すみません…。」と、マミが、頭を下げる。

 

 「!!!、お詫びなどととんでもない!!、勇者様にはどれ程感謝しても

感謝し足りません!!。」と、大統領が。「…戦争をせずに済んだおかげで

どれ程の命が助かった事か。深く、御礼申し上げます。」大統領が

テーブルに頭が着きそうな程頭を下げる。

「お顔を上げて下さい大統領閣下!!」と、

マミが結構あわてて。「…おれは、そんな偉い奴じゃないです…。

転生前は30歳の男で底辺の労働者でしたし、今回の事も、

ただ可愛い女の子が好きで、女の子同士が殺し合ってる所見たくないって、

それで戦争止めようとしただけ、ですから…」と、少し伏し目がちに。

 

 ふと、何気無く、フレナが、「…でも、わたしには、何となく、

マミちゃんは本気で世界を救おうとしてる様に、観えたんだけど…」と。

 

 マミが、少し慌てた様に、「!!、おれはそんな立派な奴じゃ……」と、

言い掛けて、ふと、不審げな表情に。「…あれ、なんだろう…?、何か

記憶に引っ掛かってる…、ガッディスブレインじゃないな…、記憶に

何かが…、何だろう、思い出せない……」

 

 微妙に苦笑気味に、穏やかに、大統領が、「…何にしても勇者様、

もっとご自分を評価なさってもよろしいのではと私は思いますが。」と。

「…マミでいいですよ。」と、マミが微妙に苦笑気味に。

 

 マリンが、思わず、気遣う様な表情で、「…あの、マミさんて

地球の日本の方ですか?」と。

マミが思わず、「え!?、日本知ってるの!!?」と。

マリンが、「…エルクヴェリアでは年に十数人ぐらい異世界から

転移される方が居るんですけど、殆どは地球の方で毎年2、3人は

日本の方が来られるんです…。それで、日本ではブラック企業が

問題になってるって聞いて…、ひょっとしたらマミさんも、

ブラック企業で苦労されてたんじゃって…」

 

 マミが、ふと、苦い表情を面差しに過ぎらせて。「…ブラックとまでは

いかないけど…、社内の感じがギスギスしてて…、まあ良い感じじゃ

なかったかな。特別に苦労してたって訳でもないけど

まあ楽じゃなかったよ、確かに。」

マリンが、真摯な眼差しで、「…エルクヴェリアでは、労働者の方に

辛い思いをさせちゃいけないって、全惑星規模で500年前から

色々体制を整えてるし、マクガイヤーコンツェルンもいろんな角度から

取り組みは進めてます。それでも、エルクヴェリアにもブラック企業や

ブラック職場が存在しない訳じゃない。だから、そういうのを

無くす為にも、もっともっといろいろ動かなきゃいけない。

…わたし、企業経営者側の人間だから、それはずっと

心掛けてるんです…!」と。

 

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