第26話 矢と縄

「アナタ、馬鹿じゃない?未来の日本人を救う為に、家族や時代と別れたの?八歳のまだ小さい子が?お人好しにも程が有るわぁ!!」


「それが自分の使命だと思いました」


「オンサラマニョも馬鹿よ!きっと、拷問をうけて殺されたのよ。一族の宝を隠したからね。百足と蛇の伝説は、宝を探すヤマト軍と、反ヤマト軍の争いだったんだわぁ」


「……」


「ねえ、谷口。アナタ16年間この時代を過ごしたのよね?どう、思った?」


「素晴らしい文化の発展で驚きました。いやあー、最初は文字も読めなく大変でしたが――」


「そうじゃないわよ!!バッカッ!!今の時代の人間が、この宝を使ってまで、救う価値が有るかって事を聞いてんのよッ!んなの有るわけないでしょ!!日本が滅びる?自業自得だわぁ!滅んだらいいのよ、ザマァだわぁ」


「ジュエリさん……」


「私はこの力を手に入れてよく分かったわぁ。この国の人間がクズだってこと。表向きだけ良い顔して、裏で悪いことばかりしてる。政治家も、警察も、芸能人も、そして友達もッ!!大人や子供も全部よッ!!って、自分達の年金確保だけが大事で、私達若者の将来なんて、なーんも考えてないんでしょ?日本人は思いやりが有る?笑わせるわぁ!アナタの時代の人間は、思いやりも情も有ったのかも知れないけど、残念ながら今は消滅したわぁ。そんな人間絶滅したのよッ!!」


「谷口さん、通訳致します。姉は『団塊の世代』が言いたかったのです」


「ご丁寧にありがとうございます。ニュアンスで、だいたいの検討がついてましたが、やはりそうでしたか」


「谷口、一緒に日本を見捨てて逃げましょう。オンサラマニョは、もう亡くなっているんだし、義理を通す必要はないわぁ。これ以上アナタが自己犠牲を払う必要はないのよ」


「残念ながら逃げません。わたくしは戦います」


「谷口!!」


「わたくしはいくさが嫌いです。長引くいくさは、後世に遺恨という資産しか残しません。ですが、人生には戦いを避けられない場面が必ず有ります。わたくしは、剣を振るわない戦いをするつもりです」


「谷口……アンタもアンタの両親も、今の日本に国を奪われたんでしょ?だったら日本を見捨てても罰は当たらないわよ」


「違います。共存の道を歩んだんです。今もワダツミの文化や風習は沢山残っています。出雲も、越も、毛野も、歴史を重ね、今は一つの日本という国に成ったのです」


「そうだ!だったら、一度私達は日本を出て、そして滅んだ日本をこの宝で助けるってのはどう?私達が新しい日本を作るのよ、そして――」


「それはナイスアイディアでおざる」


「えっ?!」


「しまった!!」


「サルマーロさん!!」


 通路の死角に隠れていたのか、サルマーロとジローマロがゆっくり現れた。


「ヘイロー!ウキキ!話は聞いたでおざる。ジュエリン殿が正しいでおざるよ。この宝は我々がいただき、日本を――いや、新しい世界を支配する為に使うでおざる。ねえ、ジュエリン殿」


「サルマーロ……アンタどうやって……」


「〈猿呪縛さるしばり〉!!」


「キャァッ!!」


「ジュエリさん!!」


 ジローマロが手を手繰たぐり寄せるような仕草をした時、ジュエリは急に体を絞め、硬直した。


「な、何よコレ?か、身体が動かないわぁ……」


「金縛りにあったみたいだろ?俺は見えない縄を操る事が出来るんだ。さっき駐車場で、この縄をお前の体にこっそりくくりつけておいた。それを手繰ってココまで来たのさ」


「アンタ超能力者だったの?」


「ああ。この前は、その男を呪縛で動けなくしてたんだ。何故か途中でほどけたがな。コイツ、やっぱりGメンだったんだな」


「ハン!アンタ、普通に喋れたのね。ただの陰キャのブ男だと思ってたわぁ」


 その様子を黙って見ていた谷口の体に変化が起こった。

 体が朧気に霞んでゆく。

 だが……


「〈殺霊箭サチヤ〉!!」


「グッ!!」


「谷口ッ!!」

「谷口さん!!」


 サルマーロが叫ぶと、急に谷口の脇腹から鮮血が飛び出し、体の変化が止まった。

 谷口はそのまま片膝を付く。


「な、何が有ったの?!大丈夫、谷口!!」


 ジュエリが心配そうに叫んだ。


「妙な動きは、しない方が良いでおざるよ。ジュエリン殿とジュリヤ殿の命が危ないでおざるよ」


「サルマーロ!!アンタ、谷口に何かしたのッ?!」


 サルマーロは何の動作もしていなかった。

 ただ突っ立って叫んだだけだった。

 だが……


「マロは見えない矢を射る事が出来るでおざる。念じるだけでの矢を放てるのでおざる」


 サルマーロの顔が動画で見せる人懐っこい顔から、憎々しい顔に変貌した。


「アンタも超能力者なの?」


「なるほど……喫茶店で見えない弾を放ったのは、貴方ですね」


 谷口が脇腹を押さえながら聞いた。

 血が押さえた手から滴り落ちる。


「そうでおざる。SNSで『ジュエリンが喫茶店に居る』というツブヤキを見つけ、たまたま近くに居たから、建物の死角から放ったでおざるよ。挨拶代わりの悪戯でおざる」


「サルマーロさん。ガイトさんの足も、その矢で射抜きましたね。あの時、ガイトさんの傷だけが深手で、何かおかしいと思ってたんです」


「流石、ジュリヤ殿!正解でおざる。やっぱりマロの弟のジローマロとは、頭の出来が違うでおざる」


「アンタ達兄弟だったの?ホント、うちの弟とは出来が違うわぁ。出来の悪い弟に言ってくれる!私、束縛されるのが大嫌いなのよ!『早くほどきなさい』ってね!」


「それは出来ないでおざる。まず、ジュエリン殿がマロ達の仲間に成る事を誓ってからでおざる」


「仲間?」


「そうでおざる。マロは今、動画配信をしながら超能力者を世界中から探しているでおざる。マロの本当の目的は、超能力者集団を作り、裏から世界を牛耳ぎゅうじる事でおざる」


「ハーン。アニメ女も超能力者と知ってて事務所に勧誘したのね」


「そうでおざる。らゃむらゃむが通う内京大学サイキック研究会の部長は、かなりの超能力者でおざる。一緒にマロの組織に誘うつもりでおざる。これにジュエリン殿が加われば、世界征服も与太話では無いでおざる」


「悪いけど私は断わるわぁ。世界征服なんか企んだら、そこのデカガエルさんに捕まるもん」


「それは大丈夫でおざる。その方は竜宮城ここで死んでもらうでおざるよ。竜宮城ここに死体を置いとけば、永久に見つからないでおざる」


「……アンタ、最低ね」


「綺麗事はいいでおざる。ジュエリン殿もさっき言ってたでおざる。どうせ人間は皆クズでおざる。クズ共を殺したり、裏で支配する事になんの罪悪感も感じないでおざるよ」


「アンタと組んで、なんか特があるの?」


「仲間に成れば約束通りワダツミの宝の9割はジュエリン殿の物。しかも税金も取られないので、90兆円がジュエリン殿の元に入るでおざる。断わる理由は無いでおざるよ」


「もし、断わったら?」


「弟殿と一緒に、竜宮城ここで永久冬眠でおざる」


「選択技は無いのね。分かったわぁ。だからこの縄を解いてくれる?」


「ジュエリさん……」


 心配する谷口に、ジュエリはアイコンタクトを送った。


「おっ、と!まだ信用したわけではないでおざる」


「はぁ?」


「仲間に成るあかしに、そこのGメン殿をジュエリン殿の手で殺して欲しいでおざる。ちょうどいい銅剣がそこに有るでおざるよ。それで胸を一突きに……」


 サルマーロの指差す方向に、1700年以上前に作られたとは思えないほど、ピカピカに輝く銅剣が立て掛けられている。

 流石のジュエリも息を呑んだ。


「もし、その剣でマロ達に歯向かえば、ジュリヤ殿の命は――」


「逃げて」


「ウキッ?何て言ったでおざる?」


「兄貴ッ!!」


 ジローマロが叫んだ。

 見ると一瞬の隙きを見て、ジュリヤが本道に向かって駆け出している。


「チッ!まあいいでおざる。後で――」


「ねーチャン!!コイツらの会話は録音した!!外に出て、これを動画で放送してやる!!」


「何ッ!?」


 サルマーロの余裕そうな顔が崩れた。


 ジュリヤは素早く道を曲がって姿を隠す。

 サルマーロが矢を射る間も無かった。


「でかしたわぁ!ジュリヤ!!」


「ジローマロ!!追うでおざる!!」


「コイツはどうする?」


 ジローマロが、青ざめた顔の谷口を指した。


「その怪我じゃ動けないでおざる。ジュエリン殿もお前の縄で動けないでおざるよ。それよりジュリヤ殿に証拠を持って外に出られると、厄介でおざる。二人で追うでおざるよ」


 二人は慌ててジュリヤの後を追って、本道の方に消えた。

 谷口がヨロヨロと立ち上がろとする。


「駄目よ!!アナタは動かず、止血して!!」


「し、しかし……このままだとジュリヤ君が……」


「心配しなくても私達はアナタと違って喧嘩いくさ好きよ。あんなショボい超能力者に負けるわけないわぁ」


「サルマーロ氏の矢は見えない。超能力の無いジュリヤ君では……」


「大丈夫!秘密の仲間も居るから」


「秘密の仲間?……」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る