死出虫の娘 if...
QAZ
屍骸
長い…長くて、恐ろしい夢を見ていた気がする。そこで私は誰かに成り済まして、そして良くないことが起こった。私は酷く後悔をした気がする。そんな、恐ろしい夢だった。
目を覚ました時は、病室で私は横になっていた。炎に包まれて、一緒に居たはずの彼女は死んで、私が生き残った。私の顔には包帯が巻かれていて、私は顔を失ったのだと告げられた。酷い火傷だと聞いた。ヒリヒリと痛む顔を抱えながら、医者に、あなたは誰ですか?と聞かれた。死んだ彼女は原型も留めないほどに焼けていた。生きている人間は誰で、死んだ人間が誰なのか、特定が必要だった。私は選択を迫られていた。彼女の親と名乗る人たちが2人、病室に入ってきて、あなたはリリィなの?と聞いてきた。私は焼け爛れた喉で言った。
「違うわ…。わだじ…リリ…じゃなイ゛…。」
そう言うべきだと直感で思った。それが彼女に対する最低限の礼のように感じられた。彼女の親は2人で顔を見合わせて、それから医者にこう告げた。きっとこの子はリリィに違いありません、と。私の頭の中は疑問符だらけだった。
それから、私はなんども皆の言葉を否定しようとしたけれど、もう上手く声を出すことが出来なくて、とにかく大人たちの間では私はリリィだということになってしまったのだった。私はなんだか彼女に申し訳が無くて、一体全体どうしてこうなってしまったのやら、自由に身動きも取れない身体のまま、車椅子に乗せられて、私は覚えも何も無い我が家へと帰って来てしまった。家に着くと、父が私の車椅子の傍へ跪き、もうほとんど感覚の残っていない右手を取りながら、なんとも言えぬ表情で私に語り掛けてきた。
「リリィ、お医者様の話では、お前は記憶が混乱しているんだよ。ここは覚えがあるかい?いや、例え無くても構わない。お前は私たちのたった一人の大切な娘だ。どんな姿になったとしても、私たちはお前が帰って来てくれたことを喜んでいるよ。」
どうしてだろう…どうして赤の他人である私を娘に仕立て上げて、この父は私を家に連れてきたのだろう。続いて母が私の傍に同じように跪き、私の左手を取って語り掛ける。
「リリィ、覚えているかしら、この庭で、よく一緒にボール遊びをしたわね。…ううん、覚えていなくてもいいのよ。あなたのことはすべて私が覚えているんだから…例えすべてを失くしたのだとしても、あなたが私たちのかわいいリリィであることには違いないんだから…。」
母はまるで本物の母親かのように涙を流している。そうだ、きっとこの二人は私を試しているに違いない。私が本当は、彼女なんじゃないかと疑っているんだ。
「ぶだじども…わだじ…リリ…じゃないわ゛…」
絶対に騙されるもんか。彼女のためにも私はここから生きて、出ていかなくてはならない。
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