【呼吸】

呼吸いき


たまに呼吸いきの仕方を忘れることがある


眠る前の布団の中、本を読んでいる時、愛おしい人と共にいる時、空を見上げた時、人の悲しみを感じた時、人の愚かさを感じた時、人のあたたかさを感じた時、小説を書いている時

それは、呼吸こきゅうが出来なくなるというほどのことではなく、単純にのかわからなくなる


呼吸いきをすること

それは生まれてすぐに当たり前のように出来ている

それがわからなくなる

気がつくと呼吸こきゅうを意識している自分がいる


空気を吸い込み、空気を吐き出す


空気を吐き出し、また空気を吸い込む


その繰り返しを意識する

深呼吸ではない

整えるのでもない

ただ意識する




空気が鼻腔から取り込まれて肺を満たし、肺から鼻腔へ伝わりくうと返っていく

ただそれだけのことを意識する


くうから吸い、くうへ吐く


それをからだあたまからになるまで繰り返す

気がつくと呼吸こきゅうは再び無意識へと還っていく

その時、たまに呼吸いきをすることはをすることだと感じる

毎回ではない

呼吸いきの仕方を忘れ、呼吸いきの仕方を意識し、意識が無意識に還っていく少し前か少し後

曖昧なその瞬間とき、たまにそれを感じる


俺は呼吸いきをしている

俺は生きるをしている

そして、どこかで誰かが呼吸いきをして、生きるをしていると感じる


自分自身の呼吸こきゅうという無意識を意識することで他の誰かを意識することがある

長くてもたった100年程度、無意識のままに呼吸いきをしていても、無意識のまま生きるをしたくないと感じることがある


俺が呼吸いきをしているこの瞬間、どこかで誰かが生きている


俺が生きるをしているこの瞬間、どこかで誰かがきている


同じこの瞬間にみんなが呼吸いきをしている

みんなが生きるをしている

それだけで少し心強い


たまに呼吸いきの仕方を忘れることがある

それでも、生きるを忘れることはない

いまのところは忘れたことはない


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