地下①

そこは薄暗い研究室のような場所だった。

本棚がずらりと並び、そこに本が敷き詰められており、真ん中には大きな机が置いてある。

机に置かれている本はどれも埃をかぶり、表紙もボロボロになっててうまく読めないが、一冊だけ綺麗で、読めそうな本があった。



表紙に書かれている題名は―――――――



「『研究No, 109 101 97 115 117 114 101 115』...?これはなんだ?」

りおがその読めそうな本を手に取り、表紙を読む。


「これも暗号なのか?この屋敷の主はどれだけ暗号好きなんだよ...」

「じゃ、アキラ。また解読たのむわ。」

「お前なぁ...これ結構めんどくさいんだぞ...」

りおの軽い提案に困惑するアキラ。


「というかここ、本当に沢山本があるなぁ」

石山が辺りを見渡しながら言う。


「確かに本まみれだなぁ...これ全部読むのもなかなか大変だぞ?」

「でも丁度いい時間だよな。ここは身を隠せそうだし、休憩するか」

時計の針は午後11時すぎを示している。普通に考えてこれ以上進むのは体力的にも不可能だろう。


「かと言ってみんなで寝るって言っても危なくね?」

「まあ、本に何か必要な手がかりがあるだろうから読まなきゃいけないだろうし、ここは安定の交代制で行くか」

永石がそう提案する。



こうして波乱の一日は終わりを迎えるのであった。




夜中は二人ずつ交代で辺りの警戒と本を読み進めた。


この本の執筆者は実践的な研究が好みなのか、そういった類の本が多く、役に立ちそうだ。



本を読みながら探索者達は話をする。





A.M. 00:31

植村、アキラの会話


「これでよし、と」

「ありがと、」

植村の腕の手当てをしていた。

アキラは相当手馴れているようで、素早く手当をした。


「そういえば、お前結局どうなったの?」

「何が」

「大学だよ。防衛大行くって言ってなかったっけ」

進学の話をするようだ。

確かに受験結果が出てすぐこの旅行に来たから知らなくて当然だ。

植村は運動神経が良いが、勉強の方はお世辞にもできるとは言えないので結果が気になるようだ。


「いやぁ~危なかったぞ...正直落ちたかと思ったけどなんとかなったわ」

「マジで?お前の事だから突撃して爆発四散したかと思ったわぁ」

「草」

緊張が抜けていつも通りの植村いじりが始まった。


「で、学年末の点数は?^^」

「...」

「おら、英語だよ、言ってみろよ、おら」

「...32点」

「ざっこwww俺72点だぞ?ww」

「あれ?でも今回の平均って確か80点超えてたきg」

「おっとそれ以上はいけない」

こうしていると仲間というのはとても大切な存在なんだなと思うアキラだったがそんな事は恥ずかしくて言えた物ではない。

植村も煽られてはいるが、どこか楽しそうだった。


この地獄のような場所から死に物狂いで逃げ出さないけない状況でなかったら気づけなかっただろう。


「お、解読できそう」

そうこうしているうちに暗号の解読が終わったようだ。





夜空に浮かぶ一等星がちょうど真上に佇んでいた。



A.M. 03:09

永石、りおの会話


「で、ヤらないの?www」

「なんでやる必要があるんですか」

先程の野原との会話を盗み聞きしていたようだ。

既に野原はこの世にいないのだが。

せめてもう少し話しておくべきだったか、と考える永石。


「お、これでも読むか」

りおの様子を見る感じ、いつもの調子が戻ったようだ。

出来れば戻って欲しくなかったが。


「本当に松本を見捨てても良かったのかな」

正直気に食わないやつだったが、いざ死なれると夢見が悪い。


「俺はあいつ嫌いだからどうでもいいけど。」

「お前はブレないな」


「そんな事よりお前はどうするんだよ」

「何が」

「ミカだよ。学校違うし会える機会減るじゃん」

「まああいつの事だから家まで来そうだけど」

「確かに」

永石はミカと付き合っているが、大学は違うし、むしろ真反対の場所にある。

そこらへんの量産型リア充ならすぐ別れそうだが、正直別れる理由なんか無いし、あいつなら呼べばすぐ来そうだと思った永石。


「まー俺は株でやっていくかな」

「あれ、お前植村と一緒に防衛大行くんじゃなかったっけ」

突然の告白に驚く永石。


「やっぱ世の中金だよ。この三年間である程度貯蓄も増えたし」

「ちなみにいくら?」

恐る恐る尋ねる。

「聞いて驚け!800万だ!!」

「やりますねぇ!」

とても高校生には稼げるような金額ではないが、こいつなら納得がいく。




そんな他愛もない話をしていたら交代の時間になったので次の担当を起こしに行く。





ふと窓に目を向けると一等星が沈みかけていた。



A.M. 05:48

ミカ、石山の会話


「何気にこの二人組って珍しくない?」

「確かに」

開始早々メタい発言をするミカ。

確かに石山とは必要な事以外は話さなかったから少し話題に悩む。


「そういえば大学受かったんだっけ?」

「そうだよ。まあ専門学校だけどね」

ミカは前から歌で生きていくと決めていたらしい。

音楽に詳しいアキラに日々特訓を受けていた成果だろうか。


「かという石山も難関の大学受かったんでしょ?すごいね」

「一つレベル下げたけど結構いい所に行けそう」

本当に石山は頭が良くて正直羨ましいと思ったミカ。




「それにしても話す事ないね」

「確かに」

「ほかの人もこんな感じだったのかな」

「あれ、他はどんな組み合わせだったっけ」

「最初に植村とアキラ。で次に永石とりお。で最後にウチらって感じ」

「なるほどね」




「...ここにある本意外と面白いね」

なんとかして会話をつなげようとした結果、なんだかわざとらしくなってしまったと思ったミカ。

でも実際面白い。本屋で売ってたら買おうと思うくらいには読んでて飽きない。



気が付いたら読書に没頭していた。石山も同じようだ。




それからお互い本を読み進めて、感想を言い合ってたら朝日が昇ってきた。



朝日が昇っても一等星ははっきり輝いていた。






―――――再び、地獄が始まる。

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