第14話 化物の娘を取り戻せ

 テロリストとして操られた200名とこの会社の社員である400名が一斉に外へと逃げ出した。

 地下にいる者は1階を目指して、1階にいる者は外を目指して。


 中には化物に食べられた人間もいるし噛み千切られて致命傷を負ってしまった人々もいた。

 それでもピエロとデス・ロードは走り続ける。

 沢山の群衆の頭上をアクロバティックに走っている。


 エンジェルは怪我人を一生懸命に治療している。

 その時だった、後ろから銃声の音が聞こえた。


 ピエロとエンジェルは顔を見合わせて、エンジェルが刑事達がいた場所に引き返した。



 その直後にピエロとデス・ロードは地下1階に到達していた。

 至る所に怪我人と死体が転がっている。


 

 ドラゴンと人間を掛け合わせた人形の化物がそこにはいた。

 化物は獣のように唸り声を上げると、ピエロに向かって突撃してきた。

 化物は怒りの咆哮を上げている。

 まるでこの姿にした奴を八つ裂きにしないと気が済まないという勢いだ。



「デス・ロードよ絶対に殺すなよ」

「たりめーだ」


 

 ピエロとデス・ロードが右と左に分かれる。

 ピエロの方角に化物が走って来る。

 彼は右手と左手でピエロの2倍の大きさの化物を押さえつけて見せた。



「種も仕掛けもございません、あなたの気持ちの魂を伝えてさしあげましょう、これはピエロの力でございます」



 ピエロの両手から沢山の思いが化物に伝達する。

 彼が今まで経験してきた地獄、その中で出来た仲間。

 そういった冷たい記憶と暖かい記憶を織り交ぜながら、ピエロは彼女に伝える。


 多種多様な化物達がこの化物に融合させられていたので、そいつらにも伝える。

 一番自我の強い個体はどうやらメタボリック刑事の娘のようだ。



 意識が伝達していく。

 ピエロの細胞が化け物を侵食する。



 化物は悲鳴を上げると後ろに引き下がる。奴は両腕を剣のような鋭い武器に変化させると。 

 そのままの勢いで走り出す。


 地鳴りを轟かせながら、到達したピエロの元で、2つの剣を振り落とす。

 ピエロの首が落下するが。 

 落下したピエロの首がくひひひと歪な笑い声を上げる。



「種も仕掛けもございません、わたくしの首は落ちたのでしょうか?」



 次の瞬間には首など落ちていなかった、首が落ちたように錯覚させられただけであったが、その結果はピエロの力のお陰だろう。


 

 化物はこちらに集中しすぎて、デス・ロードの存在を忘れていたようだ。

 デス・ロードが化物の背後から、両足に向かって足払いを放った。

 頑丈な化物でも突如やってくる足払い、的確なポイントをつくそれは死の道なのだから。

 


【死亡道程】を極限にまで弱らせると、死ぬ確率の低い攻撃を繰り出す事が出来る。


 その為、化物は転んだだけだが、しかし適格にヒットしていたら、確実に死んでいた攻撃でもある。



 化物は立ち上がろうとすると、その鼻先に1本の剣がつきつけられていた。



「さて、この剣の切れ味は種も仕掛けもございませんでしょうか?」



 ピエロの問いかけに、化物の思考は次から次へとやってくるフラッシュバックに襲われているようだ。悶絶し、悲鳴を上げている。

 


「どうやら肉体に戻ろうとしているようだな」



 そう呟いたのは、怪我人の1人であった。

 彼はゆっくりと立ち上がると、にやりと口をつり上げた。

 そいつはまぎれもなくこの会社のリーダーである薬師ドンバラであった。



「こいつを作る為に沢山の化物を食べさせたんだ。1つの国を亡ぼすくらいの力がないとこいつを作り上げた意味がねーんだよ、俺様はすげーだろ、薬の適応率でこのような化け物を……」


 

 ピエロは沈黙した状態で、ゆっくりと歩いた。

 薬師ドンバラの所にやってくると。



「おい、どうしたピエロ、お前等も餌だ」


 

 その発言で、ピエロの思考はスパークした。

 爆発的な怒りが充満している。



「種も仕掛けもございません、単なる拳ですから」


 

 ピエロの拳が薬師ドンバラの顔面にヒットする。

 鼻の骨が折れる音が響いた。



「えぐあああああ」



 薬師ドンバラの悲鳴が轟く中。薬師ドンバラの方に視線を向ける化物は、真っ直ぐに薬師ドンバラを殺そうとしたようだ。

 しかしピエロは薬師ドンバラを吹き飛ばした。

 彼は後ろに尻餅をついて気絶している。



「お嬢ちゃんにあんな腐ったものを食べさせる訳にはいかないよ」



「るぉおおおおおおおおおおおおおおおおお」



 化物がさらに遠吠えを上げた。

 まるで元の体に戻りたいと思っているように。


 そして後ろからリアン刑事とマッドン刑事とメタボリック刑事がやってくる。

 メタボリック刑事のお腹からは血が流れているが。

 ある程度は回復したようだ。



「リリンよもう止めよう、これ以上人を殺したら、本当に化物になってしまう」



 メタボリック刑事が心の底からの本音を響かせてくれた。 

 それだけでピエロ達の取る行動は決まっている。



「エンジェル。あの子を元に戻せるか?」

「もちろんやってみるわ、ピエロとデス・ロードはあの子が暴れるのを止めてちょうだい」


「任せろ」

「ったく、最初からそうすればいいんだよ」


「化物も人なのさ、ちょうど薬師ドンバラがいたって所でってあいつどこにいった?」

「逃げたんだろ」



 ピエロとデス・ロードが笑い合っていると。化物が次のターゲットにしたのはデス・ロードであった。デス・ロードは口元をつり上げると。



「よし、こい、化物のお嬢ちゃん」



 この化物は他の化物を食べて成長した。 

 さらに他の化物を取り込んでいる。

 メタボリック刑事の娘としての自覚はあるのかもしれないが、沢山の記憶が混合しているようだ。


 上手くコントロール出来ないようで、それが出来るのはエンジェルのみ。



 化け物は両腕の剣をさらけ出して攻撃を仕掛けてくるがデス・ロードはそれを避けて見せる。

 何度も何度も、それは超高速のようなスピードで避け続けている。


 デス・ロードは死の道が見える。

 それはデス・ロード自身を死に導く道を回避し続ける事が出来るし、相手を死の道に誘う為の道を見つける事も出来る。


 ただしデス・ロード自体に超人的な力がある訳ではない。

 最低限度は体は鍛えてあるので、超人に近い行動はする事が出来る。



 デス・ロードはアクロバティックに化物の攻撃を避け続けている。



「どうした。お前の怒りの感情はそんなものなのかああああ」


「もっともっと、怒りをぶつけてこい、お前はお嬢さんだろうがああああ」


「メタボリック刑事は自分の命を使って、お前を助けようとしていたんだぞおおおおお」



 デス・ロードの次から次へとやって来る言葉に。

 化物の瞳から涙が流れてくる。

 どうやらデス・ロードの熱い気持ちに感化されてくれたようだ。



 ピエロはエンジェルをエスコートするように右手と軽くつかんだ。


 次の瞬間お姫様抱っこをしていた。



「いつやってもこれは恥ずかしいわね」


「エンジェルよ、あなたわたくしのスピードに追い付ける保証がないものでね」


「あら、いいのかしら、うちはお姫様よ」


「あなたは最高なお姫様です」


 ピエロは闊歩する。 

 本物のピエロの様に床をスキップしながら。



「種も仕掛けもございません、これは単なるスキップでございます」



 ピエロとエンジェルが化物の所に到達すると。

 化物はデス・ロードに攻撃する事で夢中であった。

 エンジェルは天使の両手のように暖かく化物の背中を抱きしめてあげた。



 次の瞬間、猛烈な光により、リアン刑事もマッドン刑事も目を細める。

 メタボリック刑事だけが真っ直ぐとその光の中で生じている化物の本当の姿を見ている。


 次の瞬間メタボリック刑事は涙を流した。



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