第6話 バッカー・プランクトン
====過去====
その女の子はまだ2歳になったばかりであった。
父親は女の子が突然大人のように話し出したのを見て気色悪いと言って、実家に帰っていった。
母親は1人だけとなり、毎日毎日娘に対しての怒りが募っていった。
そう女の子は認識している。
女の子の周囲にあるパソコンやテレビ、またはラジオの中に意識を飛ばす事が出来た。
女の子は毎日のように電脳世界で自分だけの王国を作っていった。
日に日に女の子が賢くなっていくのに恐怖を覚えた母親は毎日のように暴力を振った。
それが母親の出来る精一杯の抵抗だと女の子は認識している。
女の子には名前がない、父親が付けるはずであった名前は生まれたばかりの赤ん坊がこんにちわと発したせいで頭から吹き飛んだらしい。
世の両親なら賢すぎる娘は歓迎するだろう。
だが父親と母親はある特殊な宗教に入っており、このような子供がいると、教祖に見限られると思ったのだろうと女の子は認識している。
いくら賢くなろうと母親は母親だった。
女の子がお腹が空いたと言えば、母親はご飯を食べさせてくれる。
時たま不安になるとビンタされたり。
それでも女の子は口から吐しゃ物を吐いてもにこりと微笑み続ける。
それが余計気持ち悪くなり、母親は何度も何度もビンタしていた。
途中からグーになり、体中に青痣だらけとなった。
女の子はそれでも母親を信じた。
きっと優しい時の母親に戻ってくれると。
そして記憶の中で優しい母親がいない事に気付いた。
それでも電脳世界で沢山のお母さんの笑顔の写真を見つけた。
そこには父さんがいて、でも女の子はそこにはいない。
「あんたなんてねええええ」
「どっかいってしまいなさい」
「ばけもの、ばけもの、あんたなんか産まなきゃよかった」
母親は毎日毎日罵った。
それでも女の子は信じ続けた。
ついに限界になった。
ベランダに押し出され、夜の寒さに震えながら、1週間近く食べ物さえ食べさせてもらえず、放置された。体は凍えるように寒くなり「お母さんお母さん」と女の子が叫んでもそれは風の音で消される。
女の子は周りを見つめた。
電脳世界に入る機械が無かった。
そんな時に下方にある商店街でスマートフォンを握りしめて電話しているおっさんがいた。
心が温かそうな彼にメールを飛ばした。
おっさんはこちらを見てピースをした。
これが初めての外部だった。
おっさんからのメールはこちらにはこないけど、きっと助けてくれる。
でもそんな事をしたら母親は逮捕されてしまうのではないだろうか?
女の子の脳裏に不安がよぎった。
おっさんに助けを求めて4時間が経過した。
母親は震える女の子に手を差し伸べてくれるかのようにカギのかかった扉を開けてくれた。
そしてバケツに入った水をかけられる。白い子供用のワンピースを着た2歳児はぶるぶると震えた。
「お母さん、助けて」
「あんたなんて死になさい」
母親の冷酷とも思える発言。
全ては絶望に塗り替わった。
生まれて初めて怒りという概念を感じた。
その時だった。
扉が吹き飛んだ。
それは玄関の扉であった。
「種も仕掛けもございません、子供の悲鳴が聞こえたような気がしたのでねぇ」
ピエロの仮面を付けた青年であった。
その後ろには天使のような仮面を付けた女性がいた。
2人はどすどすと玄関から部屋に入って来る。
母親は奇声を発した。
「あんた、なによ不法侵入よ警察に逮捕させるわよ、ってあなた指名手配されている」
「指名手配されているピエロとエンジェルでございます。あなたの娘を助けに来ましたあなたからね」
「娘? そんなのわたしにはいませんよ、あんな娘は娘ではないのです」
女の子は母親の発言に身震いした。
怒りと絶望が意識の中に浮かび上がってくる。
きっともう誰にも愛されないのだ。
女の子はそう感じていた。
「それはおかしいですね、あなたがお腹を痛めて産んだのでしょう? それをいらない? バカですかあなたは、きっとあなたの心の中には母親の気持ちがあるはず、何かで見えなくなっているのではないかな?」
「うるさいわよ、あの子はおかしいの、化物なの、普通じゃないの、だから娘じゃないってんだろ」
「娘じゃないなら施設に預ければいいじゃないか、あんな事したら死ぬぞ」
ピエロはコインを飛ばす。
ぐるぐると回転しながらベランダのガラス扉が破壊される。
女の子は端っこに隠れる。
ガラスの破片は落ちてこなかった。
ガラスの破片がぐるぐると回転して折りたたむように倒れた。
女の子はその種も仕掛けもないマジックに感激していた。
「殺すなら、わたくしの仲間に迎えたい、いいかなご婦人」
「ええ、持っていきなさい、わたしにはもとより子供なんていなかったんだから、あれは化物で、化物を生んでしまったのだから」
すると天使の仮面を付けた女性がゆっくりと歩いて母親の所にやってくる。
天使の仮面の女性は母親に思いっきりビンタした。
それは毎日のように母親から受けていたビンタよりも重たく響いた。
「そうやって化物化物、うち達は望んで化物に生まれた訳ではないのよ、あんたが母親なら1人の女の子を幸せにする事だけを考えなさい」
母親は地面にへたりと座り込むと、心細く涙を流した。
女の子は母親が泣いている姿を何度も見ていた気がする。
気付くと目の前にはピエロがいた。
ネット社会では現在ピエロの話で持ちきりなのだ。
そのような凄い人が眼の前にいた。
「わたくしはピエロ、そっちがエンジェル。さぁ仲間になろう」
「はい、わっちには名前がありません」
「なら君はバッカー・プランクトンだ。プランクトンのように小さいという意味でね」
「はい、わっちはバッカー・プランクトンです。でもわっちの出来る事は限られています」
「能力が問題ではない、君の存在が問題であり、バッカーが死なないという事が嬉しき事なのだ、なぁエンジェルよ」
「そうね、確かにその通り、そこの母親に最後のお別れを言ってあげなさい」
女の子は立ち上がると、畳まれているガラスの破片を避けながら。くすくすと鳴いている母親の元にやって着た。
母親はヒステリックを引き起こしているようにずっと涙をぼろぼろと流し、顔の表情は引きつっていた。
「わっちがあなたの娘である事は変わりない、わっちが化物である事も変わりない、わっちはいつか大きくなったら、あなたの所に戻ろうと思う、いえ、話そうと思う、わっちが1人の母親になったら、あなたを驚かせて見せる。だから泣かないでお母さん」
その場が静寂に包まれた。
母親は娘が手元からいなくなるとほっとしたのだろうか。
声を優しくはりあげた。
「どこかで野垂れ死になさい」
「はいお母さん」
ピエロとエンジェルは娘に言う発言ではないと思ったのだろうか、くすくすと笑っていた。
バッカーは立ち上がる。
1人の能力者として【電脳侵略】という力を使う為に生まれた天才であったのだから。
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