第5話 不審......?

 うむ...頭が痛い。なんだろう。そういうの止めてもらっていいですか。寝起きからの頭痛。なんだこの痛み。頭に熱がこもったみたいな痛みだ。昔、板の間で良く寝てこんな感じになってたな。


 ちゅんちゅん...?なんで、朝チュン...?確かに、家から外の音は壁が薄いから良く聞こえるが、こんな...0距離で聞こえることあるか?なんで、壁が完全に取り壊されてんの...?ん...?


 ......


 おぉ。成程、昨日は...いや、今日はどうやら公園のベンチでキャンプごっこをしたようだ。ベンチを覆い隠している葉から漏れ出す日が優しく抱きしめてくれてる...。気持ちの良い目覚めだ。そして、こんなに気持ちの良い目覚めという事は...。昨日、ちゃんと鍵は閉めてた。ぽっけに鍵はある。よし、どうしようもない状況には追い込まれてない。財布も家にあるだろう。


 腕時計は持ってない。よし、家に帰るか。


 足に力を入れて、痛くて痛くて仕方ない視線の矢をなんとか避けながら家の、いやAV音声限定のASMR(スピーカー)会場へと入り込む。なんだかんだ言って、几帳面で電気は消してた。偉いね!カーテンは閉まっており、畳は冷たい。ここは心から安らぐ事は難しい。公園にすら負けてる家ってどうなの?


 ていうか、家の中寒いな。暖房をつけておきたかったが、あいにくそんな金は無い。普段から着こんでるから今日は凍死しなかった。運が良すぎる。


 おっと...そうだ、まずはうちの唯一の時計であるスマートフォン君(お小遣いを凄まじく要求してくる、家で一番の浪費家)によると...今は、13時だ。


 今日は携帯君(指示待ち人間)によると...水曜日だから、大学での授業は1時限目からだ。つまり...あと...大体...-3時間ぐらいあるのか、余裕だな。さて...胃袋君...君の具合はどうかね?うんうん...。ざんねんでした~~~~何か、食べれると思った?食べ物はありませ~~~~~ん!!ざぁこ♡ざぁこ♡


 .........1限の次は、4限からだから...今から行けば普通に間に合うな。...うーん......でも...なんか、行く意味ある...?...う~ん。学校て行く意味ってなくないっすか?みんながロボット人間に見えたんですよぉ~。学校は行くな!!少年革命家も言ってたし、行かないほうが良いよぉ!


 ...はぁ...行くか。悪いな革命家よ。私は資本主義の申し子なのだ。奨学金を返せなくなっちゃうよね......。でもさ...奨学金を返すあてそもそもあんの...?


 ...


 よ~~~~~し!今日もはりきっていくぞぉ!!!


 電車で3駅、大体12分くらい。そこから徒歩10分。大学へ到着!!こんにちは!守衛さん!!ちゃんと心の中で挨拶してるんだから返事位してよね!そして、こんにちは名前もしらない生徒さん達!友達と楽しそうだね、顔も見れないけど!なんのお話してるのかなぁ!!ふぅ~~~ん、もうちょっとで落とせそうな女の子いるんだぁ!よかったね!!


 うわぁ!階段疲れたぁ!!う~~~~~~~~んち(教室に入り椅子にすわる音)!!今日は、すごく楽しいなぁ!!


 今日は、まず大学に来る時点で携帯に着信があって出たら後輩ちゃんだった。「先輩...相談したいことがあるっすけど...ちょっと...」えぇ...?なに、どうしたの?「ちょっと...もう、この気持ちに我慢できなくて...言葉にしないとその...自分がもたないっていうか...」いや...ちょっと、待て。こんな内容がなんにせよ多分電話先でする話じゃないだろう。後でゆっくり話聞くからよ(イケボ)。教授業終わるの、16時30ぐらいだから、それ終わったら飲み行こうぜ。「...!分かりました!ありがとうっす!先輩!楽しみにしてるっす!」いやいや良いんだよ(スローイケボ)俺とお前の仲だろう、遠慮すんなよ。俺もちょうどの


 「あの、ちょっと良いですか?」


 なんだこの声は?僕?いや、そんな訳はない。女の子は僕に話しかけたりしない。きっと近くの人に話しかけてるんだ。僕じゃない僕じゃない。勘違いするな勘違いするな勘違いするな。目を伏せ続けるんだ。恥をかかなくてすむ。


 「あの...すいません...」


 うつむき具合に目だけ上にあげる。オドオドとした態度で。


 なんだ、この子。大きな目。そして、少しだけ目にかかった黒のセミロング。綺麗な鼻筋と...そして、主張の小さな唇。整った顔立ちの子。なんだ、その目は...。止めてくれ。どうして...その顔はなんだ...なんで、少しだけ困った顔をしてるんだ。そして、それ以上になんでこんな子が僕に声を...?要件はなんだ...?どうしたんですか?さぁ、言え言え言え!なんだ、また...声が喉につっかえて...すぐここまで来てる、でも渋滞なんだ。車じゃなくて空のトラックが道をふさいでるんだ。...言え!言え!言え!キモがられる!気持ち悪く思われる!何か...何か...。


 「は...い...?」


 なんだ、この返事は。空気か言葉か少し判別が難しい。なんだ?これは、日本語と言えるのか。将来、これをリスニングの問題で出されたらセンター試験は大荒れだぞ。この子はどう思っている?どう思っているんだ。気持ち悪く思っている。絶対に。まともに会話もできないこんな男を気持ち悪さの擬人化だと確信している!!


 「あの...すいません...キモイかもしれないんですけど...あの...他意は無くて...その...あの...ストーカーとかじゃないですからね...その...」


 え?え?え?え?とにかく、この人に不快に思われない様に、目を...いや、鼻のあたりをじっと見なきゃ、見なきゃ。


 「私、荻窪に住んでるんですけど...あなたもですよね...?荻窪のルンソンパラス...前に公園のある...」


 ............え?


 「あ...あの...ごめんなさい......その...違くて.........」


 .........あの子はあの日泣いていた。訳も分からなかったけど、ただただ可哀そうだった。なんで今思い出すんだ...?


 「あぁ、ごめんなさい!そうですよ!ルンソンパラスに住んでます!よくご存じですね!もしかして、今朝の公園で見ちゃいました!?いやぁ恥ずかしいなぁ!やっちゃた!ごめんなさい、お見苦しい所見せちゃって!そうですよね!そんな不審者か浮浪者か分からないやつがいたら、気になっちゃいますよね!そんなんが大学にいたら尚更!怖いですよね!ごめんなさい!」


 あ......やっちゃった...。話すって言っても限度があるだろう。何してんの...。こんな一度に話されて...ほら、ちょっと引いてる。なんだ、お前。どうして、都合よく、少年漫画の主人公みたいに回想いれちゃったの?その勇気がこんな結果を招いたぞ。おいおい...もう、目合わせられない。


 「あ.........あの...あなたの上の階の者です...」


 え...


 

 


 


 

 

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