おじさん
蛇いちご
第1話 おじさん
本日の天気は晴れ、最高気温は25度、最低気温は13度、非常に過ごしやすい気温です。そうだったかな…。日中は暑く、日差しが眩しかった。外に出るだけでフラフラする。夜に登校するような生活をしていたら少しはこんな思いをしなくて済んだかもしれない。ノートの上にペンを走らせていく。
そう、僕は大学生!地方から上京してきたばかりの大学生だ。名前はどうでも良いのでこの場では伏せるが、とにかく僕は大学生。
アルバイトも頑張り、学校生活も頑張り、色々なことを頑張って生きている。彼女だって初めてできた。サークルの先輩と一緒に飲みまくって、オールして…
手を止める。書いててあまりにも惨めな気持ちになった。自分の理想だった大学生活をノートにまるで自分が過ごしているかのように書く。それが、2浪してから日課になった。結局、大学には入学したものの自分の思い描いていたものとは大きく違っていた。…いや、大きく違っていたのは僕の方だったのだろう。
だから、その日課は続いてしまっている。そのノートは毎日大学に持って行って講義中に読むのだ。そのノートの中では自分は理想の大学生活を送っており、本当の自分はノートの中の自分であるように思えてくる。それを大学の講堂でやることにより、まさに自分がノートの中の理想の生活に入り込んでいる気がする。
しかし、それを読むのは良くても、書くのは苦行だ。アルバイトから帰ってきて深夜1時。諸々のことを終わらせてからノートを開く。非常に壁の薄いアパートなので隣から喘ぎ声などが聞こえた日には、自分のやっていることとのギャップで半狂乱になりながら外に飛び出してしまう。
そうして、今日も急いでアパートから飛び出した。周りにはもちろん人など一人もいない。自分の心が落ち着くまでそこらへんのベンチに座って呼吸をするのだ。幸いアパートの前には小さな公園がありベンチは必ず用意されている。
僕の深夜の唯一絶対安心できる場所。誰からも干渉されず、誰の気配も感じない場所。ここだけが唯一の安置だ。
だけど、今日はなんだか様子がおかしい。深夜だと言うのに…、僕の庭同然の公園は謎の来客を許してしまっている。しかも、その来客は不審者だ。明らかに不審者だ。恐怖すら覚える。
50くらいだろう。その男は、薄汚れたワイシャツと背広のズボンだけを身にまとい、砂場の上で一心不乱に回り続けていた。
おじさん。その外見と、年の割合からしてそう呼ぶにふさわしいのだろうことが一目散になぜか頭の中を過ぎる。
しかし、異常な行動をとる者に対して向けられるのは恐怖だ。相手がおじさんであろうと、そこに好奇心は湧かない。
一目散にアパートの自室に走り戻った。
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