光射す道⑥
人間達の戦争に介入し、天帝以上の翼を持った天使の少年を引きずり出す。そしてその魔力を得る。ガルサノはそう作戦を立て、サラサ・ビーロスと敵対しているジギアスを利用するつもりで声をかけたのだが、ジギアスはその申し出を拒絶したのだった。
「くだらぬ人間の矜持だな。素直に我らの協力を得ていれば運命も変わっていたものを」
ガルサノの見る限り、ジギアスはまずサラサには勝てないだろう。人としての格がまるで違っていた。
「如何なさるつもりですか?ガルサノ様」
腹心のソフィスアースが聞いてきた。ガルサノは、ソフィスアースを通じて人間の戦争に介入する可能性を示唆しておいた。こうすれば戦争に異変が発生した時、天使の仕業だとしてシード・ミコラスは出てこざるを得なくなるだろう。
「どうもしないさ。皇帝の意思など関係ない。我らが出現してサラサ・ビーロスに危害を加えればあの少年は出てこざるを得ない」
まさにガルサノの狙いはそこにあった。地上の覇者が誰になろうがガルサノには興味がなかった。ガルサノが欲するのは天帝に勝る力であった。
『あの力があれば天帝は復活する。そうすればあの老人も黙るだろう』
そうなればガルサノの功績は、有史以来類のないものになるだろう。いや、己の功績などどうでもいい。ガルサノの双肩に掛かっているのは、天使そのものの運命であった。
「さて、行くとするか……」
「何もガルサノ様自ら行かれることは……」
「あの少年の力、私でなければ互角に渡り合えまい」
渡り合えれば御の字であろう。あるいは一撃の下に負けるかもしれない。それでもガルサノはやらねばならなかった。
「私も僭越ながらご協力させていただきます」
「ソフィスアース……」
頼もしい女であった。彼女がいたからこそ現在のガルサノの地位があると言っても過言ではなかった。
「私と運命を共にするか?」
「ガルサノ様が望まれるのなら」
ガルサノはソフィスアースの体をかき寄せようとした。彼女を抱くのがこれが最後になるかと思うと力が入り、どさっとソフィスアースがガルサノの体に覆い被さってきた。しかし、ガルサノがソフィスアースの唇を貪ろうと顔を近づけた時、突如として静寂が破られた。
「ガ、ガルサノ様!大変です!」
扉の外から切羽詰った声が聞こえた。
「どうした?」
ガルサノはソフィスアースの体を離した。
「そ、外をご覧ください!」
要領を得ない報告に苛立ちながらもガルサノは窓辺に立ち外を見た。ソフィスアースも体を並べる。
「ガルサノ様、あれは……」
信じられぬ光景であった。八枚の光の翼がラピュラスの上空を飛びまわっていたのだ。
「奴らから来だと……」
これは想定していなかった。ガルサノは歯を食いしばりながら、先手を打たれた悔しさをかみ殺していた。
「人間界の戦争に手を出させないために乗り込んできたのでしょう。ガルサノ様、これは好機です。奴らが自ら渦中に飛び込んできたのですから」
「うむ……」
だが、ガルサノは動けなかった。臆したわけではなかった。天帝以上の翼を持つ少年が堂々とラピュラスに出現した意義を考えていたのだ。
『天界は混乱する……』
あるいはあの少年達の狙いはそこにあるかもしれない。これでガルサノは迂闊に天界から動けなくなってしまった。
「スロルゼン様の所に行く」
ひとまずは天界の混乱を未然に防ぐ必要がある。ガルサノはイピュラスに急ぐことにした。
はたして天界は混乱に陥った。天帝を上回る八枚の羽根を持った少年を天界中の天使が目撃することになったのだ。
『あの八枚の翼の天使は何者だ!』
『天帝様以上の翼があるというのはどういうことだ!』
『天帝様、天帝様はなんと仰られているのですか?』
『天界院は説明しろ!』
天使達は大挙としてイピュラスに押し寄せてきた。ガルサノもその対応に追われ、ついにシード達と対することはできなかった。
「ひとまず作戦成功ですね」
八枚の翼を出現させて姿を見せた後、ラピュラスに潜伏したシードは、天界の混乱を眼にしてとりあえずの役目を果たしたことを確信していた。
「そのようですね。まったくシード君はとんでもないことを思いついたものです」
シードからこの作戦を聞かされた時、あまりにも大胆な内容に成功するかどうかを危惧していたのだが、どうやら心配なかったらしい。
「ふん。私が暴れる暇がなかったじゃないか」
不服そうなエルマであったが、天使達が混乱している姿は面白いらしく顔はにやけていた。
「後はサラサさん達が上手くやってくれればいいんですが……」
「大丈夫ですよ、サラサさんなら」
少なくともサラサがジギアスに勝つまで天界いなければならないが、そう長い時間ではあるまいとシードは思っていた。
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