裁かれしもの④
ひとまずエルマを捜そう。そう考えたシードは思い出した魔法の使い方と、余り溢れる魔力をもってして壁や床をすり抜け、牢となっている階層を捜し回った。エルマは中腹の階層の小さな牢にただ一人倒れていた。
「エルマさん!」
シードは駆け寄って抱え起こした。衣服はやや汚れ、顔に生気はまるでなかった。天帝の間での一件以来、ずっとこの牢に転がされていたのだろうか。
「安心しろよ。急に魔力を放出させられたから気を失っているだけだ」
マ・ジュドーがふよふよとエルマに近づいた。相変わらずにやけた顔だが、エルマを心配しているのは確かであった。
「マさん。やっぱりあなたはあの場にいたんですね?」
「言っただろう。俺とお嬢は一心同体なんだぜ。どこにいたってお嬢のことは手に取るように分かるんだよ」
しかし無茶をしやがるぜ、とマ・ジュドーは彼らしくない小さな声で呟いた。
「どうしましょう。エルマさんを背負って脱出しますか?」
「いや、あの天使の姉ちゃんもいるだろう。あの姉ちゃんも今は獄に繋がれている。助けてやらねえと」
「エシリアさんもですか?」
エシリア。ユグランテスにとって姉のような存在である。その記憶も、今は鮮明にシードの中にあった。シードの中では『家族』といっても差し支えない数少ない女性である。ぜひともに助けたかった。
「ある意味、お嬢よりもやばい位置にいるぞ。あの姉ちゃんは、いろいろと天界の秘密を知りすぎた。それに例の教会での一件についても、シェランドンとかいう執政官が深く関わっていることを知っている。そのシェランドンが今権力を握っている。こりゃ危険だぜ」
「そ、そうですね……」
マ・ジュドーにはいつものおちゃらけた感じがなく、真面目で冷静であった。天使の近くにいることを嫌い、天界に行くことも嫌がっていたのに、今はエシリアの身を案じている。シードはまるでいつものマ・ジュドーは違う別の何かを相手にしているような気がした。
「マさん、やはり僕はあなたのことが気になります。あなたは何者なんですか?」
「言っただろう。俺のことなんてどうでもいいだろう」
「そういうわけにもいきません。エルマさんが本当に僕と同様に天帝様の力を分け与えられた存在だと言うのなら、マさんは、使い魔なんかじゃありませんよね」
「痛いところを突いてくるじゃねえか」
マ・ジュドーはくるりとこちらを向いた。
「だがな……だからこそ、俺の存在なんてどうでもいいんだよ。俺が使い魔であろうがなかろうが関係ない。俺はお嬢の付属物で一心同体なんだ」
それ以上でもそれ以下でもねえよ、とマ・ジュドーは笑わずに言った。
「まぁひとまずお嬢のことは俺に任せてくれ」
マ・ジュドーが大きく口を開けると、そのままエルマを飲み込んでしまった。
「マ、マさん!」
「へへ。俺の中はこれでも安全なんだぜ。さて、俺は一足先に地上に戻っているからよ。お前さんは、天使の姉ちゃんを助けてやってくれ」
サラサの嬢ちゃんのところで落ち合おうや、とマ・ジュドーは、すっと闇の中に消えていった。
「マさん!僕はどうしたら……」
暴れりゃいいんだよ、という声が微かに響いて消えた。
「暴れる……」
そう言われもどうすればいいのだろうか、と思っていると、全身に力が漲っていた。同時にこの建物の構図が頭の中に浮かんできた。
『これも天帝の力?』
エシリアの姿も見えた。この建物の最上階にある部屋で、椅子に座った複数の天使の前に座らされている。まるで尋問されているようだった。
「助けなきゃ!」
ばさっと瞬時にしてシードの背中に八枚の光翼が生えてきた。今ではこの力も自由に使えるようになっていた。シードは翼をはためかせ、一気に最上階を目指した。
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