天使と悪魔の伝説

弥生遼

序文

 「ねぇねぇ、おばあちゃま。絵本を読んで」




 「まぁ。本当にお前は絵本が好きだね。構わないよ、ばあばのお膝にお座り」




 「うん。ありがとう」




 「あれあれ。お前も随分と重くなったねぇ。それで、何の絵本だい?」




 「天使様の絵本!」




 「本当にお前は天使様が好きだね」




 「おばあちゃまは、天使様が嫌いなの?」




 「ほほほ。どうして天使様のことが嫌いになるんだい?勿論好きさ。大好きさ。私達人間は、天使様の加護なしでは生きていけないんだからね」




 「カゴって何?」




 「ちょっと難しい言葉だったかね。天使様が私達をずっと守ってくださっているということだよ」




 「私のことも?」




 「勿論だよ。覚えていないだろうけど、お前も小さい頃に天使様にだっこしてもらったんだよ」




 「そうなの?」




 「そうとも。人間はね、赤ちゃんの頃に、天より降りてこられた天使様にだっこしてもらえるんよ」




 「そうなんだ……。う~ん……。どうして覚えていないんだろう」




 「それはお前がまだ小さかったからだよ」




 「おばあちゃまも、天使様にだっこしてもらったの?」




 「ええ。ばあばも小さかったから覚えていないけどね」




 「じゃあ、この前、教会で見た天使様も赤ちゃんをだっこしにきたの?」




 「そうだね」




 「ふ~ん。その赤ちゃん、覚えているといいね」




 「ほほほ。そうだね」




 「でね、おばあちゃま」




 「何だい?」




 「天使様はよくいらっしゃるのに、どうして悪魔はいないの?」




 「まぁ、この子ったら、恐ろしいことを言うね」




 「でも、絵本には悪魔も出てくるよ?」




 「そうだね。でもね、悪魔は天使様が大昔に退治してくれたんだよ。絵本にもそう書いてあったでしょう?」




 「うん。書いてあった」




 「だからね、悪魔はもういないんだよ。お前は、三つ首の竜や、口が大きく裂けた狼なんて見たことないだろう?」




 「うん。見たことない」




 「悪魔はもういない。お前がこうして絵本を読んでいられるのも、村の皆と遊んでいられるのも、全部天使様のおかげなんだよ。天使様には感謝しないとね」




 「うん!」




 「さぁ、絵本を読んであげようかね。天使様のありがたい物語だよ」

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