第7話 悪役令嬢は主人公と同居する手段を模索するようです
メリアと結ばれる上で障害となるもの。
その内の一つに身分がある。
性別の壁があるため、百歩譲って結婚は保留するとしても、せめて同居はしたい。
しかし、互いに貴族の身である。
家の意向がある以上、個人の同意だけで同居などできるはずもない。
この世界において、貴族の女性は政治の道具という側面が強い。
家同士の繋がりを強化するために、政略結婚の駒として扱われる。
それはレイネスに婚約破棄をされたアリシアとて、例外ではないだろう。
ほとぼりが冷めるまでは周りも静かだと思うが、いずれどこかの有力貴族の元へ嫁がされるのは間違いない。
メリアにしても同じだ。
例え攻略キャラたちを退けても、家の意向で誰とも知らぬモブ貴族に嫁がされてしまう可能性は、十分にある。
「どうにかしてメリアと一緒に暮らしたいけれど……」
この問題を解決する方法は3つある。
まず1つ目は、誰にも文句をいわせないような、絶対的な権力を手に入れることである。
封建制度が成り立っているボルグ王国において、公爵令嬢であるアリシアの発言力はそれなりに高い方だろう。
だがそれは、アリシア自身の力ではなく、ローデンブルク家の威光にすぎない。
そうなると、何らかの功績を立てて、皆を黙らせるだけの力を手に入れる必要があるわけだが、それはあまりにも無謀だろう。
一応、「マジラプ」には、救国をするというルートも存在するので、功績を築くこと自体は不可能ではないとは思う。
アリシアがメリアに替わって、ルート通りに世界を救えばいいのだ。
ただ、いくら攻略法を知っているからといって、作中でメインキャラではないアリシアの力がどこまで通用するのかは未知数だし、もしそれで失敗をして、国が滅びでもしたらあまりに悲惨だ。
「メリアを危険にさらす可能性もあるわけだし、できればこの手段は避けたいけれど」
二つ目はどちらか一方がもう一方の家に使用人として雇われる方法だ。
家格からいえば、メリアがローデンブルク家に雇われるのが妥当だろう。
下級貴族の家に産まれた女性で三女、四女ともなると、嫁ぎ先が見つからないこともある。
そういう場合に、有力貴族の家へ使用人として雇われることがあるのだ。
嫁ぐほどではないにしても、有力貴族と接点を持てるということは、娘を送り出すのに十分な理由なのだろう。
当主の側室にでも選ばれたら万々歳だ。
それに、同じく貴族出身の三男、四男である使用人と結ばれれば、新たな関係を築くことができる可能性がある。
使用人と聞くと身分が落ちるように聞こえるかもしれない。
だが、場合によっては、どこかの下級貴族の家に嫁ぐよりも、恵まれた人生を歩むことができるため、そう悪い選択ではない。
ただ、これも難しい点がある。
それは、アレスティア子爵に実子がいないということだ。
メリアを養女として迎えいれた理由として、魔法の才能を見いだしたのもあるが、跡継ぎや婿を迎えるための娘がいなかったという背景がある。
アレスティア子爵としては、家の存続のためにも、メリアには婿を取って欲しいと思っていることだろう。
「マジラプ」の攻略キャラたちは、その大半がレイネスを筆頭とする高位貴族の子息である。
要するに、婿を取らずにメリアが嫁ぐのだ。
唯一、ロバートという大商人の息子が貴族以外の攻略キャラとして登場するが、あくまで例外であり、そのエンドも、訳あって結局メリアが嫁ぐことになる。
そう考えると、どのキャラを攻略しても跡継ぎを迎えることができないアレスティア子爵には、少し同情してしまう。
それはそうと、仮にアレスティア家の跡継ぎ問題を解決できたとして、そうなれば家格的には、メリアが公爵家であるローデンブルク家に雇われることになるだろう。
ただ、それにはアリシアが誰にも嫁がない必要がある。
嫁いでしまったら、せっかくメリアを雇い入れても、一緒に暮らすことができないからだ。
しかし、公爵令嬢である以上、家の繁栄のため、どこかの有力貴族に嫁ぐ未来は避けられないだろう。
公爵家はアリシアの弟が継ぐため、アリシアが婿を取るという選択肢はない。
ではアリシアが嫁いだ先でメリアを雇いいれるのはどうかという話しになるが、その家でアリシアに使用人を決めるほどの権力が与えられるか不明だ。
「そもそも、メリア以外と結ばれたくないわけだから、嫁ぐという選択肢はないわね」
嫁ぐにしろ、独り身を貫くにしろ、結局周囲に有無をいわせない発言力が必要となってくる。
最後に三つ目。
それは、メリアと二人で家を出て、庶民として暮らす方法である。
庶民でも家族がいれば結婚を強いられるだろうが、家を出てしまえばそんなことは関係ない。
ただ、これにも問題がある。
どうやって家を出るかだ。
普通にお願いをしたところで、そのようなこと許されるはずがない。
ではどうするか。
「マジラプ」では、アリシアが庶民になるルートがあった。
正確には、なりたくてなったわけではないのだが。
婚約破棄後、メリアをいじめているところをレイネスに目撃されたアリシアは、罰として公爵家から追放された。
この方法なら庶民へと落ちることができる。
別にメリアをいじめる必要はない。
要するに、追放されるような罪を犯せばいいのだ。
そのあたりのさじ加減は吟味する必要がありそうだが、メリアと結ばれるためならば、多少この手を汚すことになろうとも構わない。
ただ、アリシアが手を汚す分にはいいが、メリアに同じことを強いるのは躊躇われる。
結局、最適な手段とはいえない。
もういっそのこと、二人で駆け落ちしてしまおうか。
隣国まで逃げれば、そうそう見つかることもないだろう。
周囲に迷惑はかけてしまうが、それが一番簡単で、現実的な気がする。
そのためには、ある程度のお金が必要だ。
逃避行したものの、移住先でお金がなくて、のたれ死んでしまったのでは、元も子もない。
公爵令嬢として、それなりの額のお金は与えられているが、それはあくまで公爵家のお金だ。
今後のことを考えると、できればそれには手をつけず、自力で稼ぎたいところである。
「手っ取り早く稼ぐなら、強い魔物を討伐すればいいのでしょうけど……」
「マジラプ」の世界には魔物が存在し、魔物を倒すと、魔石を手に入れることができる。
この魔石だが、強い魔物ほどより大きなものを落とすのだ。
大きな魔石はその分、内包する魔力が多いため、大きさによって値段が変わってくる。
ドラゴンクラスの強力な魔物の魔石を売れば、向こう数年は問題なく暮らすことができるほどの高値がつくのだ。
ある程度強力な魔物を定期的に討伐することができれば、メリアと二人で暮らす分には、困ることはないだろう。
こう見えてアリシアは、名門であるサリアス魔法学園において、魔法技能では学年二位の実力を誇る。
学生の身ではあるが、その実力は既に並みの兵より上といってもいいだろう。
そこらにいる魔物にそうそう負けるとは思わない。
だが、ここは「マジラプ」の世界ではあるが、今のアリシアにとっては現実でもある。
魔物の攻撃をくらえば、当然ながら怪我をするだろう。
ゲームのようにHPゲージが減るだけではない。
リアルな痛みは、戦闘力、判断力を大きく下げる。
そうなれば、弱い魔物にすら太刀打ちできなくなるのは、火を見るより明らかだ。
できることなら、魔物討伐による資金集めは最終手段にしたいところである。
「公爵家の娘にバイトの許可が下りるとは思えないですし。
こっそりやるにしても、精々内職くらいしかできないでしょう。
うーん」
内職といっても、主婦が空き時間にできる程度の物では、稼げる額もたかが知れている。
アリシアにしか作れないものや、何かしらの付加価値があるものでなくてはならない。
アリシアにしかないもの。
「前世の記憶、か……」
活かせるとしたらそれだろう。
この世界に無いものの再現。
それがこの世界で、需要があるかどうかはわからない。
それでも、やってみるだけの価値はあるだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます