第192話 どう思う?
1
「うぇえええええええ!?」
夕陽は叫ぶしかなかった。
「そんなにびっくりしなくても」
眞昼先輩は困ったような顔を作る。
お昼休み、場所はいつもの中庭。
昨日の誕生会の顛末を聞くため、夕陽は眞昼先輩といつものように待ち合わせたのだ。恋愛における誕プレ選びの重要さやアドバイスは夕陽の方からも事前にしておいたものの、眞昼先輩は最終的に自分で誕生日プレゼントを決めたので夕陽は何を渡したの知らない。プレゼントの内容と反応はどうだったのか、が気になっていたのだが……
「いやだって、いくらなんでも指輪ケースを贈るなんて……」
眞昼先輩はやらかしていた。
自由にやらせてたらいつかやらかすと思っていたけど、まさかこんな早く爆発するなんて。
「えー? だめ?」
「ま、まままま眞昼先輩、自分が何やったか分かってるんですか? 指輪ケースを渡して『待ってます』って、告白というか、それはもはやプロポーズですよ!」
眞昼先輩には恋のライバルもいるので、なんとか相手の心に爪痕を残せるようなものがいいとは思っていたが、これでは爪痕どころかクレーターができてしまった。
「でも、『いつまでも待ってる』ってのはそういうことじゃん。それにどっちも同じようなもんだって」
「それはそうですけど。そ、それで相手の方の反応は? いや、それより恋敵の人も誕生会にはいたんですよね?」
恋のライバルへの牽制にはなるか? いやならない。これ死球だ。というかそんなものをライバルの前で渡したら修羅場が起きるよ!
「あっ、そこは大丈夫。二人きりの時に渡したからさ、指輪ケースのことはその人しか知らないよ。それに、その人もちゃんと受け取ってくれたし」
「そ、そうですか」
受け取ったんかい。
夕陽は胸を撫で下ろすが、相手の男の人の心境を想像すると何だか胃が痛むような気がした。『いつまでも待ってる』って言われた上に指輪ケースを渡されるって、相当なプレッシャーがかかるって……
名も知らぬ眞昼先輩の意中の人、強く生きてね……
「それはそうと、ライバルの人は何を贈ってたんですか?」
「それがさぁ」
と眞昼先輩は説明をする。
「――なるほど、箱根の温泉旅行」
ライバルの女の子もかなり攻めた一手を打ったようだ。まだ恋人同士ではないにしても、男女が温泉旅行に行くとなるとそういうことになる可能性は高い。というか、温泉旅行ってそういうことをするためのものだし(偏見)。
その旅行で一気に関係性を進めようという魂胆のようだ。
あれ?
だとしたら、眞昼先輩が指輪ケースを贈ったのは考えようによってはむしろよかったのでは?
インパクトだけなら温泉旅行にも引けを取らないし、お相手の心には当分の間、眞昼先輩のことが楔のように打ち込まれていることだろうから、もしそういうことになりかけたとしても、眞昼先輩への想いが一種の防波堤の役割を果たしてくれるかもしれない。
ただ、その旅行で勝負が決まる可能性もなくはない。高校生の旅行だから案外プラトニックに終わるかもしれないが、そこで一線を越えようものなら……
「うーむ、もしその旅行でお相手の人とライバルの子がヤってしまったらかなり分が悪くなりますが、こちらからは何もできませんねぇ」
「ヤるって?」
「え? だから、その……致したら……」
「あっ……」
眞昼先輩は顔を真っ赤にして俯く。
「わざわざ温泉旅行というシチュエーションを用意してきた相手です。一線を越えることを狙ってくるのは十分考えられます」
「うん、そうだね。で、ここからが本題なんだけどさ」
顔をこちらに向けて眞昼先輩は続ける。
「あたしら、今月に合宿があるんだよね。来月から春高の予選が始まるから、それに向けた最終調整の合宿が」
「ああ、うちのクラスのバレー部の子もそんなこと言ってました。それが何か?」
「うん、それがね」
その時、眞昼先輩の目に妖しい光が輝いて見えたのは、きっと夕陽の気のせいだろう。
「その合宿の場所がさ、箱根なんだ」
「え?」
「ちょうど日程もあっちの箱根旅行の日程と丸被りでさ」
あっちというのは、眞昼先輩の想い人とライバルのことを指しているのだろう。
「……」
「……」
「どう思う?」
眞昼先輩の大きな瞳が夕陽の顔を覗き込んだ。
「ねぇ、どう思う?」
*
今回はお知らせがあるぞい。
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