第85話 再会は涙とともに
副ギルド長への報告を終えた俺たちは部屋を出た。廊下を進み受付のフロアに出る。恐らくピークの時間帯は過ぎたのだろう。冒険者の姿は見えるものの、その数は疎らだ。それに比べるとなんだかいつもよりフロアにいる職員の数が多い気がする。
「なんですかね? 」
「さあな。そんなことよりさっさと宿に戻るぞ」
「あっ、スギミヤさん! ちょっと待ってください」
俺はギルドを出ようと歩き出したスギミヤさんに声を掛けて受付へ向かった。そこには先ほど俺たちの受付をしてくれたおばさんが変わらず座っていた。
「ああ、ニシダさんにスギミヤさん! 副ギルド長への報告は終わられたんですか? 」
「はい。それでギルドの皆さんにもご心配やご迷惑をお掛けしたと思いますので一言とお詫びを、と思いまして。皆さんお仕事中でしょうしそのことをお伝え頂けませんか? 」
俺がそう言うとおばさんは驚いた顔をしたがすぐ笑顔になると、
「そんなことをわざわざ仰る冒険者さんも珍しいですね。分かりました! 私から伝えておきます」
と言ってくれた。俺は礼を言って頭を下げる。
「それともう一つお願いしたいんですがいいですか? 」
「構いませんよ」
「蒼月の雫と夢幻の爪牙の皆さんにもお詫びをしたいのですが、生憎俺たちは2組の滞在先を知りません。2組がいらっしゃった際にでも、俺がお会いしたいと言っていたとお伝え頂けませんか? 」
俺がそう言うとおばさんは更に驚いた顔をした後、
「ええ! ええ! もちろんです! 承りました」
と言って笑った。俺はもう一度おばさんに頭を下げて受付の前を離れた。
俺が側に戻るとスギミヤさんが意外そうな顔でこちらを見ていた。
「なんですか? 」
「いや、前から思っていたがお前のそういう気配りは高校生離れしてると思ってな」
スギミヤさんに言われて俺は「ああ」と言いながら苦笑いした。
「よくあっちの世界の友達にも言われました、『なんか硬い』って」
「そうなのか? 」
「ええ。まあこれは親の教えみたいなもので、もう癖になってることなんで気にしないでください」
俺の言葉にどう思ったのか、スギミヤさんは「そうか」とだけ言うとギルドの入り口へと歩き始めたので俺も後に続いた。
ギルドの外へ出るとすっかり日が落ちていた。俺たちが街に着いた時点ですでに日が傾き始めていたことを考えれば当然だろう。
ギルドの周辺には飲食店も多いので人通りはあるのだが、やはりと言うべきか俺たちが指名依頼に出発する前に比べると心做しかその数が減っているように感じた。
そんな通りを横目に俺とスギミヤさんは宿に向かって歩き始める。
「……処分、どうなるんでしょうね……」
「なんだ? 気になるのか? 」
俺がポツリと呟いた言葉にスギミヤさんが反応する。そんな彼に俺は「気になりませんか? 」と聞き返した。
「気にしてもしょうがないだろう。それに俺たちが処分を受けるようなことをしたのも事実だ」
スギミヤさんは特に悩んだ様子もなく淡々と言う。
「もちろん俺もそれは分かってます。でも、もし冒険者の資格剥奪とかになったら今後の行動に支障が出ませんか? 」
「それはないな」
「どうしてですか? 」
俺の懸念を「ない」と言い切るスギミヤさんに首を傾げる。
「考えてみろ。ギルドは
スギミヤさんは前を向いたまま淡々と説明する。
確かにスギミヤさんの言うように俺たちの資格を剥奪することにはギルドもメリットがないだろう。もちろん騒動が収まってから処分する方法もあるが、それがいつになるのか分からない状況で先送りし続けるのも難しい。
「まあ降格はあるかもしれないがな」
スギミヤさんがそう話を締め括ったところで俺たちが泊まっている宿『海の親父亭』が見えてきた。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□
「ニシダさんっ! スギミヤさんっ! 2人ともご無事でっ!! 」
俺たちが『海の親父亭』に入るとすぐにそんな子供の声が聞こえてきた。見れば受付カウンターの前に皆が揃っていた。
感極まった表情で両手を広げているのは俺たちをアーリシア大陸まで連れてきてくれたフリードアン共和国のカディオ商会代表のレオナールさん。見た目は小学生にしか見えないが23歳の歴とした成人男性だ。最初に聞こえた子供の声も彼のものだ。
「ったく心配させんなよっ」
ぶっきらぼうに言ったのはレオナールさんの後ろに立つ浅黒い肌のゴツイおっさん。この店の主人のアンットさん。口調はぶっきらぼうだが時折鼻を啜っているあたり心配してくれていたようだ。
そして……
「エリー」
レオナールさんの隣で先ほどから俯いたままのエリーゼちゃんにスギミヤさんが声を掛ける。その声は普段のやや無愛想なものとは異なり、優しい響きをしていた。
「エリー」
スギミヤさんがもう一度彼女の名前を呼ぶ。顔を上げない彼女。しかし、その手はスカートを硬く握り締め、震えていた。
「心配を掛けてすまなかった」
スギミヤさんが頭を下げる。
「エ、エリーゼちゃんっ! その、スギミヤさんは悪くなくって! どっちかっていうと今回のことは俺のせ――」
頭を下げるスギミヤさんの姿に俺が慌ててそう言ったとき、それまで俯いていたエリーゼちゃんがバッと顔を上げたかと思うとスギミヤさんへ向かって駆け出した。
「っ!? 」
顔を上げたスギミヤさんが驚いた表情をしたが、自分の胸に飛び込んできた彼女を優しく抱き止める。
「エリー、すまなかった」
自分の胸に顔を埋めているエリーゼちゃんにスギミヤさんが再度語りかけたとき、
「レイジさんっ! レイジさんっ! 私っ! わぁだぁじぃぃっ! うわぁぁぁぁぁん!!! 」
顔を上げてスギミヤさんを見たエリーゼちゃんはそう話し出したが、みるみるうちに瞳いっぱいに涙を溜めると再びスギミヤさんの胸に顔を埋めて泣き出してしまった。
スギミヤさんは自分の胸で泣き続ける彼女の頭を優しく撫で続けていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます