第42話 首都デルフィーヌ
あの後、目を覚ましたエリーゼちゃんは何が起こったのか殆ど覚えていなかった。彼女が何者なのか? アーリシア大陸に何があるのか? 疑問は解けないままだった。
予定通り夕方前にはフリードアン共和国の首都デルフィーヌに着いた。その日はすぐに宿に入って食事もそこそこにすぐに休むことにした。
次の日の朝、護衛してくれていた衛兵隊はバルビエーリに帰ることになった。
「お世話になりました。都市長にもよろしくお伝えください」
「こちらこそいろいろありましたが無事デルフィーヌへお送り出来て良かったです」
俺たち3人はデルフィーヌの門の前で衛兵隊の隊長さんに別れの挨拶をする。彼らはバルビエーリの都市長から付けてもらった護衛なので目的地に着いたのならばバルビエーリに帰らなければならない。
「都市長にはアーリシアから戻った際にはご挨拶に伺います、とお伝えください。本当にありがとうございました」
「分かりました。それでは我々はこれで失礼します」
そう言って隊長さんは踵を返すと部隊に指示を出し、バルビエーリへと帰っていった。
「さて、これからどうしますか? 」
隊長さんたちを見送った後、宿へと向かう道すがらスギミヤさんたちに確認する。
「そうだな……とりあえずは先に港に行ってアーリシア行きの船を確保しよう」
彼はエリーゼちゃんの方をチラリと見たがすぐに視線を戻す。
「分かりました。それでは港に行きましょう」
俺たちは宿を通り過ぎて港へと足を進めた。
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デルフィーヌの港はまさに“要塞”と言えるような堅固な作りをしていた。
湾の入口が入り組んでいて大型船は一隻ずつしか入れない上に湾内各所に防壁があり、港と街の間にもかなり高い防壁が築かれている。このため港から街の中は殆ど見えず、港側から街を攻撃することはかなり難しい。
そんな港もやはり帝国と連邦の戦争の影響か閑散としていた。船が入港していない訳ではないが圧倒的に少ない。
俺たちは近くで作業を確認しているらしい商人に話し掛けた。
「すみません。ちょっとお話を伺いたいんですがいいですか? 」
「構わないよ。どんなことだい? 」
そう気さくに応じてくれた商人は思ったよりも若い雰囲気だった。恐らく20代前半、本人も船に乗るのか意外にガッチリした体型で肌もよく焼けていた。
「随分と閑散としてますが、やはり戦争の影響ですか? 」
「ああ、そうだね。連邦は物資を掻き集めてるから注文は多いんだけど、こちらの注文は受け付けられないから今はあまり取引がないんだ。それに連邦からの注文が増えたから国内の物価が上がってしまってね。政府から制限が掛かってるんだよ」
俺の質問に彼は丁寧に答えてくれる。
「えっと、ここではゴーレムが人足をしてるって聞いたんですけど……」
俺は辺りをキョロキョロと見回すがゴーレムの姿は見えない。
「ああ、そのことか……少し前まではあちこちの商会が雇ってたんだけどね……」
商人の男性は表情を曇らせた。
「戦争が起こって帝国の荷も連邦の荷も少なくなったからね。ゴーレムを派遣してくれてた術者が店を畳んで別の地域に移ったらしいよ」
彼は続けて教えてくれた。
「どういった人だったのでしょうか? 」
「僕は詳しく知らないけど、20代前半くらいの女性だったそうだよ」
俺が気になっていたことを聞くと男性は特に気にした様子もなく教えてくれた。その答えを聞きながらチラリとスギミヤさんを見る。彼も特にこの話題には興味がない様だった。
「ありがとうございます。あとアーリシア大陸へ船を出してる商会をご存知ありませんか? 」
俺はゴーレムの話を切り上げて、当初の目的について聞くことにした。
「あるにはあるけどどういった用件だい? 」
「あちらの大陸に渡りたいので乗せて頂ける船はないかと思いまして」
「うーん……正直今はどこも難しいと思うよ? 」
商人の男性は少し悩んでそう言った。
「何故難しいんでしょう? やはり戦争ですか? 」
「いや、アーリシア大陸方面はまだ大丈夫だよ。ただ、大陸自体に少々問題があってね……」
「問題? 」
俺たちの知らない話だ。これから向かう大陸に問題があるというのは困る。最悪引き返すことも考えなければいけない。
スギミヤさんの方を見れば彼も難しい顔をしている。俺たちが困惑していると商人の男性がその理由を教えてくれた。
「何でも最近あちらのクリーチャーが活性化してるらしくてね。最近じゃ最低限の収穫しかないらしくて船の本数が減ってるのさ。噂じゃ
「
アーリシア大陸は森と湿地が広がる大陸でクリーチャーも広く分布しているため、密集している大河の森の様な
その疑問にも商人は丁寧に答えてくれた。
「確かに向こうはクリーチャーが広く分布してるけど、その分強い個体が生まれると縄張りに関係なく移動するんだ。他のクリーチャーも殺気立って四方八方に移動を始めるから規模としてはこちらの大陸よりも大きなものになるね」
なるほど。あちらは縄張りに関係なく動き回るのか。ただでさえクリーチャーの総数がこちらの大陸より多いと言われているアーリシア大陸で、しかも、殺気立った状態のクリーチャーが四方八方に移動すればそれだけで危険度は跳ね上がる。
アーリシア大陸は獣人種が多い大陸だ。元々彼らは狩猟で生計を立てていて湿地が多いこともあってあまり農耕は行わない。今でこそ一部の種族がこちらの大陸の商人相手に商売をするようになったが元々自分たちの必要以上に狩りをするのはクリーチャーを間引くためだけなのだ。
そんな彼らなので
「戦争のせいで国内の物も不足しがちだからね。本当はあちらから色々運んで来たいみたいだけどね」
彼が所属する商会はアーリシア大陸とは取引をしていないようだが、仕入れをしている商会も船を出すのを控えているため品物が入ってこなくて困っているそうだ。
「どこか船を出してくれそうな商会はご存知ありませんか? 」
「うーん、そうだね……確実とは言えないけどカディオ商会なら出してくれるかもしれない」
「カディオ商会ですね! ありがとうございます! 」
俺が頼み込むと悩んだ末に船を出してくれそうな商会を教えてくれた。商人の男性に礼を言ってカディオ商会の場所を聞くと俺たちは早速教えてもらったカディオ商会へ向かうことにした。
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