第三章その3
三日ぶりの自室に入って翔は手紙を机の上に置いて着替えを用意し、風呂に入り、夕食を父親、母親と三人で食べる。ニュースには来週の金曜日に小惑星探査機が打ち上げられると報じられていた。
自室に戻って手紙を開けると二枚入っていて、一枚目は翔へのメッセージが書かれていた。
君がこの手紙を読んだ時、私はもうこの世にはいないだろう。君に対して何もできなかったお詫びに残したい物がある、私が隠してる物を見つけたらそれは君の物だ。
もう一枚は暗号が書かれていた、内容は次の通り。
「604 8×2 1×2」「BIGBROTHER-0,1,2,8」「GOLDSTEIN-0,1,4,9」
ビッグ・ブラザーにゴールドスタイン!? これは何の偶然だ? 翔はこの前読んだ「一九八四年」の登場人物、ビッグ・ブラザーとエマニュエル・ゴールスタインに因んだ暗号だ。二〇分ほど睨めっこしたが結局分からず、今度太一と相談しようと手紙を折って鞄に入れた。
翌日、翔は朝七時半に起きると朝のNHKニュースを見ながら久しぶりに食パン二枚と、父親が淹れた苦いブラックコーヒーを飲んで身支度を整える。
女の子の家に行くんだから少なくとも恥ずかしくない服装にしよう。
翔は出かける時の服装に着替える。
日頃からお洒落とか意識してなかったから清潔でシンプルな服装にすると、航空機メーカーのロゴキャップを被る。
向こうでも暇潰しができるようにと太一とメールで持って行く物を相談し、ボディバッグにGBASPと何本かのソフトに通信ケーブル、PS2とGCのメモリーカード、ポケットに携帯電話と財布を押し込んで自宅を出た。
自転車に乗って新水前寺駅まで行き、途中で細高の制服を着た生徒とすれ違いながら、自転車を駐輪場に置くと集合時刻まで一五分程度だった。
まあ、少し早くない? というくらいが案外丁度いい。
「おはよう翔」
「おはよう太一」
太一は青いジーンズに灰色のフリースとシンプルだが、日頃制服姿に見慣れてるから私服姿はとても新鮮で、太一は見た目もいいからとても似合う。
「おはよう柴谷君、真島君、随分早いのね」
舞はピンクのミディスカートにクリーム色のブラウス、桜色のカーディガンとシンプルだがとても新鮮で思わず可愛いと思ってしまう。
「おはよう中沢、今日は随分可愛らしい服装だね」
「別に、いつもの服装よ。行きましょう」
舞はそっけない態度で武蔵塚駅までの切符を買うと、豊肥本線肥後大津行きの電車に乗って武蔵塚駅に行く間、舞は太一と静かな口喧嘩をしていて翔は緊張のあまり会話に入り込めず、停車駅を過ぎるたびに心拍数が上がった。
武蔵塚駅を降りてそこからは徒歩一〇分弱で「神代」の表札はすぐ見つかった。二階建ての普通の家で玄関前に立つと、舞は緊張した表情でインターホンを押した。
『はーい、みんないらっしゃい。すぐに開けるわ』
彩の声が聞こえるとドアの向こうから足音が聞こえ、鍵が解錠されてドアが開いた。
「こんにちは、姉ちゃんから聞いてます。どうぞ上がってください」
出てきたのは顔立ちの幼い少年だ、翔たちは「おじゃまします」と言って家に上がるとリビングに入る。
「みんな、いらっしゃい。ゆっくりくつろいでね」
彩はベージュ色の長袖の上着に紺色のスウェットズボン、その上にピンクのエプロンとなんか妙に幼な妻っぽい姿で、お盆と人数分のコップを用意していた。
「姉ちゃん! 俺が用意するから座っててって言ったのに!」
「でも
「姉ちゃんは怪我人なんだから! 俺が用意するよ!」
弟の卓也はそそくさとウーロン茶の入ったポットを用意し、四人分のコップに注いで適当なお菓子を用意した。
「卓也ありがとう……紹介するわ、みんな高校の友達よ」
彩は申し訳なさそうに弟に言うと翔たちを紹介する、順番に自己紹介すると太一は褒めながら歩み寄る。
「いい弟さんだね。ちゃんと気遣いもするし、しっかりしてる」
「卓也はもう中学二年なのに甘えん坊なのよ」
彩は柔らかく微笑むと卓也は恥ずかしそうに姉を睨む、舞は大画面テレビの前に置かれたPS2とNGCに目をやる。
「彩、さっきまでゲームやってたの?」
「ううん、みんなが来るっていうから用意したのよ」
彩は首を横に振って言うと、卓也は意地悪な笑みを浮かべながら言う。
「姉ちゃん、ゲームが壊滅的に下手くそだから一緒にやってもらえます?」
「いいわ! お姉さんに任せなさい!」
舞は自信満々の笑みで言うと彩はソフトを取り出した。
「これなの、未だに操作が難しくて投げ出しちゃったの」
初代PS時代のバイオハザード第一作で舞はパッケージを見た途端、サーッと引くように青くなった。
「前言撤回、私には無理。違うのをプレイしよう」
「あれれれれれ、中沢……君はもしかしてホラー系とか苦手?」
太一は笑みを崩さずに訊くと舞は明らかに動揺していた。
「ななななななん何言ってるの柴谷君、全然怖くないわよ!」
滅茶苦茶動揺しているが、翔は放っておこうと思いながら彩に言う。
「それじゃあ神代さん、僕がアシストするからやろう」
「うん、よろしくね真島君」
彩もまるで舞の動揺をどこ吹く風と言わんばかりに肯いてスイッチON、ディスクをセットしてテレビを点ける。起動してる間、舞はオドオドして完全にビビり、ソファーの後ろに隠れる。
「大丈夫よ舞ちゃん、グロテスクだけどこれ慣れると面白いのよ」
彩はそう言いながら主人公選択画面で女主人公であるジル・バレンタインを選択、オープニングムービーを飛ばさずに見たから舞は終始耳を塞いで怯える。
「それじゃあ神代さん、操作なんだけどやり方のコツとしてはキャラの顔が今どこ向いてるかを意識しながら動かしてみて」
「うん、頑張ってみる」
彩は真剣な表情で肯いてコントローラーを握る。早速全てはここから始まったと言っていい最初のゾンビに遭遇する記念すべきイベントで、仲間が顔を半分食われて頭蓋骨丸出しで転がり、ゾンビが振り向くシーン。
「ひぃっ! きゃああああっ!!」
それで四人とも違う意味でビビった。
翔が振り向くと、ソファーから覗き込むように顔を出した舞がちょうどそのシーンを見て絶叫したようで、太一は苦笑するがそんな暇はないと翔は彩の横で指示する。
「ほらほら来たよ神代さん、距離を取ってベレッタを装備して」
「う、うん!」
彩は素早くアイテム画面に切り替えて武器のベレッタ拳銃を装備、戻ると走って距離を取って振り向き、ダメージを受けることなく倒す。
「さっきの死体を何回か調べてごらん」
「えっとこの死体ね」
彩はぎこちない操作で食われた仲間の死体を調べると予備弾をゲットした。そしてイベントを経て進める間、太一は舞に声をかける。
「中沢、大丈夫だって君が思ってるほど怖くないよ」
次の瞬間、廊下を歩いてるとゾンビ犬ケルベロスが派手に窓ガラスをぶち破って侵入してきて舞は絶叫した。
「ひぃやあああああっ!! 全然大丈夫じゃない!!」
「ごめんごめん」
太一は明らかに確信犯的な口調だが、そうしてる間に一発食らってしまった。
「ふぅわっ! この子強い!」
「神代さん落ち着いて、怯んで起き上がる瞬間を狙って!」
「うん!」
彩は真剣な表情で操作、なんとか撃破した。
適当なところでセーブするとお昼になるとみんなで宅配ピザを注文して食べる。舞はグロッキー状態になって魂の一部が口から漏れ出していた。
「やっと……終わった……彩、午後は違うのにしましょう」
「ええ舞ちゃん、このゲームすっごく面白いのに」
「私はホラーとか嫌いなのよ!! わかる!?」
「うーんあたしも最初は怖かったけど……舞ちゃんが嫌なら何か違うのをやろうか」
彩は少し残念そうな表情で肩を落とし、翔も溜め息吐くと卓也がPS2のソフト「エースコンバット04」のパッケージを取って提案する。
「それなら……ちょっと難しいですけど、これでプレイしてやられたり失敗したら罰ゲームというのはどうですか?」
「ああ、この前卓也の友達とやったゲームね……うーんでも大丈夫かな?」
彩は悩んだ様子で言うと翔は卓也に訊いた。
「エースコンバットで何をするんだい? 対戦?」
「はい、トーナメント方式で最下位の人が罰ゲームやってたんですよ」
卓也は年上相手なのか少し躊躇いがちに言うと、舞は一変して瞳を輝かせる。
「面白そうじゃない! 卓也君、罰ゲームって具体的にどんなの?」
「えっと……目隠しして飲ませるんです、苦いコーヒーとか水に溶かしたわさびやからしとか、他に……好きな異性のタイプとか……嫌いな食べ物を食べるとか」
「面白そうじゃない、やりましょう」
舞は不敵な笑みを浮かべながら横目で見ると視線の先は太一、翔はまさかと思いながら冷や汗が噴き出る。
「望むところだ中沢、僕が勝ったらバイオハザードの続きを付き合ってもらうよ」
「いいわ、その代わり柴谷君が負けたら……嫌いな食べ物を告白してみんなの前で食べてもらうなんてどうかしら?」
舞は翔と彩に同意を求めるかのように視線を横切らせると、彩は少し考えて言う。
「それなら、あたしが作るからみんなで食べましょう」
「姉ちゃん……それ罰ゲームじゃなくてむしろご褒美じゃない?」
卓也は苦笑しながら言うと、翔は内心同感だと思いながら太一を見つめて言う。
「でも太一って苦手なものがあるとは思えないな」
「見た目で判断しないでくれ翔、僕はこう見えても好き嫌いが多い……ピーマン、ナス、にんじん、コーヒーは砂糖たっぷりとミルクがないと駄目だ」
小さな子供かよ! っていうか砂糖たっぷりって糖尿病になるし野菜食わねぇと、生活習慣病の
「柴谷君って結構好き嫌いが多くて、味覚がお子ちゃまなのよ」
「早速対戦しようか卓也君、ルールを」
太一はどす黒い笑みでスルーしながら言うと、卓也は起動させながらエースコンバット04のフリーミッションの画面に進めてルールを定める。
「それじゃあ交代で練習して、対戦モードはそうです? あっ、ただ
卓也がそう言うと早速一五分ごとに適当なミッションで練習すると、早速二手に分かれるため四人で手を出し、裏表で組み合わせを行う。
「「「「裏裏裏表~の文句なし!」」」」
「「「上」」」
「下!」
それを三回やってようやく二手に分かれた、翔が表で対戦相手は舞、裏になった太一は彩と対戦すると彩は朗らかに微笑みながら言う。
「よろしくね柴谷君」
「手加減なしで行くよ神代さん」
太一はやる気満々の微笑みだ、一方舞も真剣な表情で翔に言い放つ。
「君には負けないから、罰ゲームは覚悟しててね」
「あっ……ああ」
翔は肯くと早速一回戦で舞と対戦する、翔はF-15ACTIVE、舞はX-02を選択した。
Engage(交戦開始)
翔は舞の機体とヘッドオンするとすぐに牽制として
「今度はこっちから行くわ!」
舞は機体を反転させると
翔はF-15ACTIVEを反転させようとするが後ろを取られた! チッ! しかもX-02はステルス機能持ちだから時々消えたり現れたりする、それなら! 翔はF-15ACTIVEの高度計と速度計を瞬時に見極めると加速させ、スピードに乗ると機首を上げて緩やかに右旋回しながら急上昇する。
舞もXLAAを撃ちながら追跡、十分な高度でバレルロールしながらロックを振り切ろうとする、その間に右スティックで後ろを確認するのを怠らない。
そんな真剣勝負を太一と彩は高みの見物をしていた。
「前に二……後ろに九……まるで大空のサムライだな」
「大空のサムライ?」
「
太一が彩に解説してる間にも、翔はこれが本当に戦闘機のコクピットだったら首が痛くなってるに違いないと思いながら、舞の画面を見るとXLAAを撃ち尽くしてる。失速する高度ギリギリで距離も詰められてる。
「まだだ、もっと詰めてこい……」
「そんなに落とされたいの? 真島君、もしかしてマゾッ気でもあるの?」
「いいや、こうするんだよ!」
翔は後ろを見ながら急ブレーキをかけて機首を上げると
「なんとか勝った」
翔はホッと胸を撫で下ろすと交代、今度は太一と彩が対戦する。使用する機体は太一がF-22Aで、彩はSu-35を選択するが……結果は太一が勝った。
「ふっ……僕の勝ちだよ神代さん」
「ふぇええどうしよう、あたしが舞ちゃんに負けたら罰ゲームだよ」
彩はあたふたすると最下位決定戦が始まる、舞はX-02を選んで彩はSu-35を選択すると舞は彩をジッと一瞬だけ見つめるとテレビの画面に視線を戻す。
「彩……どんな形であれ、あなたと真剣勝負ができるの……とても嬉しいわ」
「舞ちゃん?」
「罰ゲームのことは忘れて全力で挑んできて、私も受けて立つわ」
「うん! あたしも、舞ちゃんと全力で戦うわ!」
彩は肯いて強い決意を秘めた眼差しと表情になってコントローラーを握る。
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