第84話 知り合い


 壁から立ち上がったベルクはもうレミアクランのことは見ておらず、俺の事だけを見ていた。


「グルゥ……ガァァア!!」

「この感じ……もはや私は眼中に無いようだな。全く焼けてしまうね。さて……ナルミ、行けるか!」

「大丈夫です!」

「そうか!なら私はサポートに徹する!」


 レミアクランとの会話が終わった直後には俺の目の前まで来ていたベルク。しかし、今までの俺ならばまだしも今の俺には全て見えていた。


「グルァァ!!」

「はぁぁ!」


 ベルクの猛攻撃を俺は捌いて捌いて捌き続ける。そしてがむしゃらに殴り続けていれば確実に生まれるその隙を狙ってカウンターも入れる。


 しかしどの攻撃も全てかすり傷。本能的になのか最低限の動きで俺のカウンターは避けられ、致命傷になりうることは無かった。


 ……勇者の力は魔王を討ち滅ぼす為にあるとするのなら、魔王の魔力で満ち溢れている今のベルクにとって俺の攻撃は食らったらダメな攻撃なのかもしれない。


 その証拠として俺が着けたかすり傷が一切治る気配がない。なんなら、こんな簡単にベルクの肉体にかすり傷が着くとは思えない。


 俺の攻撃で再生が出来ないのであれば、俺がこのままベルクの心臓にでも剣を突き刺せれば確実にベルクを倒せるはずだ!!その為には……!


「『魔力衝撃波』!」

「グワァァ!!」

「っ!?」


 俺とベルクは現状均衡している。ベルクのほぼ技を捨てた戦い故に俺もこの膨れ上がった身体能力だけで食らいつくことが出来ているだけ。

 そんな俺がベルクの心臓に向けて剣を刺すなんてことは容易ではない。


 少なくとも、俺が何時でも攻撃出来るタイミングで両腕を限界まで広げるか、もしくは全身が動けない状態になってもらわないと届くことは無いだろう。

つまり、ベルクに大きな隙を作らなければ無理だ。


 俺が起点にしようとして咄嗟に生み出した衝撃波も、ベルクの魔力が籠った叫び声に消し飛ばされる。正気を失っても対処法は分かるのか!?


「『天火柱あまひがしら』!」

「がっ!?」

「た、助かります!」

「いい!攻め続けろ!『飛轟』!」

「ガァ!」


 叫び声で怯み隙を晒してしまった俺をフォローするように、レミアクランが炎の壁と無数の斬撃の遊撃で俺が立て直すだけの時間を稼いでくれる。

 

「もう隙は見せない!はぁぁ!!」

「ガァァァ!!」


 俺は今だけ衝撃波を封印し、とにかく剣でベルクと戦い続ける。

 だが、ベルクの拳と俺の剣がぶつかり合う度に俺の剣からペキッ!と嫌な音がなり続ける。今は魔力で固定しているが……いつまで耐えてくれるか。


 ベルクの戦いに技がないとはいえ、その以上なほどの身体能力から繰り出される攻撃には俺は防戦一方。

 やっと攻撃できてもせいぜい擦り傷。

 ダメだ……決定的な攻撃手段がない!


「グ、ルァァア!!」

「構え……!?まずい!」


 俺とベルクが一瞬だけ離れた瞬間にベルクが構える見覚えのある構え。感覚で構えているからかそこに洗礼さは無い。だが、確実に『連』が放たれる構えだ!


 無意味な程に広範囲の攻撃は会場中を崩壊させる。俺は事前に気づいたために何とか直撃は受けなかったが、レンゲとサーナは……!

 

「二人は私が守る!君はベルクだけに集中しろ!」

「っ!わかりました!」

「キャァァァ!!」

「「っっ!?!?」」


 先程の連撃で更に崩壊する会場。その瞬間に会場のどこからか聞こえる少女のものらしき叫び声。

 まさか……まだ逃げ遅れが!?


 俺達がそちらの方に視線を向けると、少女の近くの柱がゆっくりと倒れ始めている。俺が行こうにも確実にベルクが着いてくるし、だからといってレミアクランも二人を守りながら少女を助けに行けるとは思えない。

 どうする!?どうすれば!


 俺達はそう考えながら頭をフル回転しながらただ倒れる柱を見ることしか出来ない。だが、想定していなかったことが起きる。


「はぁぁあ!」

「エマ!よくやった!『サイン』は続けて他の人を探れ!」

「おいおい、なんだあの化け物……。気配が探しずれぇ」

「あんた達!逃げ遅れた人はこちらが回収しておくから、そっちは頼んだよ!」

「あれは……エマにパーミャ!」


 柱が倒れるその瞬間、柱中間から切断されて吹き飛ぶ。更にそこから指示が飛んで次の場所に向かっていく四人組がいた。

 

 それは馬車の護衛依頼中に知り合った冒険者パーティである『庭園の番人』達であった。


 彼らもかなり経験を詰んだ冒険者だ。ベルクの攻撃がそちらに向かわなければ安全に全員回収してくれるだろう。

 

「まさかまだ逃げ遅れがいたとはね……。私もまだまだだ」

「ベルクの存在感がデカすぎたんだ。あなたは悪くない!」


 ベルクの異常な存在感は、例えるならまるでこの会場の中に会場よりもでかい巨人が立っているかのような存在感なのだ。そんな存在の前にしてただの人の気配なんて正確に感じ取れる訳が無い。


「ガァァァ!!」

「ナルミ!前を見ろ!」

「しまっ!?」


『庭園の番人』達に気を取られ、またもや隙を晒してしまい気がつけば目の前にいるベルクが俺に殴り掛かる。

 やばいらと思うよりも早く剣をふるい、ベルクの攻撃を弾き飛ばすが同時に俺の剣を弾き飛ばされる。


 はじき飛ばした拳を元に戻すのはベルクの方が早い。そして、確実に殺さるチャンスだと思ったのだろう。ベルクは俺の剣が戻るよりも早く拳にどす黒い魔力をつぎ込みそのまま突き出した。


「ダガァァア!!」

「させません!」


 死ぬ。そう思った直後、ベルクの拳は半透明な壁に阻まれる。それはサーナが生み出した障壁魔術出会った。

 だが、その勢いはまだ消えてないようで壁をそのまま割りながら進み始めていた。


「ナルミさん!逃げて!」

「っ!た、助かった!」


 先程から助けられてばかりのことに歯噛みしつつ、俺はそのサーナの障壁とベルクの拳から目が離せなかった。


 今サーナが作り出した障壁は、ただの障壁の効果だけではなく『聖域』の力も混ざっているのか白っぽい魔力が混ざっていた。

 そして、その白い魔力はベルクのどす黒い魔力は打ち消していた。


 いや、これは打ち消すと言うよりも……そうか!そういうことだったのか!これこそが魔王の魔力と神聖な魔力の関係性であり、勇者が魔王を倒せる理由なのか!


「ナルミ!レンゲの詠唱がもうすぐ終わる!それまで耐えてくれ!」

「わかりました!」


 ……俺もレンゲが詠唱を終えるまで且つ、ベルクとの戦いと同時並行という高難易度ではあるがやらなければならない事ができた。

 それは『勇者の力』を完全に俺の物にする事!


「グルァァア!!」

「やってやるよ!!」

 

 確実に勝利を得る為、俺は死ぬ気でベルクと相対するのであった。


 

 ♦♦♦♦♦



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 『紋章斬りの刀伐者〜ボロ刀を授かり無能として追放されたけど刀が覚醒したので好き勝手に生きます!〜』という作品も投稿しています!ぜひ読んでみてください!

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