第77話 命令
「君は鬼人族の子のところに行ってやれ。私は奴を倒す」
「わかった……!」
俺はレミアクランの言葉を素直に従い、ベルクに背を向けて走りレンゲの元に走る。
執事の魔族がこちらを見ている気配がするが、ベルクとレミアクランの存在に意識を持っていかれ手出しはできないようだ。
彼女があそこまで回復しているのならレンゲもそれなりに回復しているはず。それでも動かないレンゲを心配しながらレンゲにたどり着く。
「大丈夫かレンゲ!」
「……ナル……ミ」
いつも以上にか細い声で話すレンゲ。それほどまでにダメージを受けてるのだろう。
それは身体的ダメージより、精神的ダメージの方が大きいように俺は感じた。
「レンゲ、気をしっかり持て。あんな強さでしか物事を測れない狂人の話を鵜吞みにするな……!」
「……私は……役立たずだった」
「そんなことは無い!レンゲはいつだって俺を助けてくれたじゃないか!」
「……私は弱者」
さっきの戦いだってレンゲが俺への攻撃を止めてくれたから今俺は生きてる。
俺にはない速力と腕力と魔力を持ったレンゲが弱いはずがない
しかし、そんな俺の言葉はレンゲには届かず、レンゲは俯いて俺の顔さえ見てはくれなかった。
そして背後で膨れ上がる魔力と殺気、そして会場を破壊せんと響き渡る衝撃音。この場における最強同士のぶつかり合い。俺達はあそこに入るだけの力は無かった。
「アレを見てみろレンゲ」
「……」
俺達の視線の先には明らかに俺達の時には手を抜いていたのがわかる速度で動くベルクと、サーナが障壁を張ることで制限がなくなった本気のレミアクランの動き。
先程まで剣を降り抜いていた筈なのに気が付けば突きに変化し、ただの回避だと思ったらいつの間にか位置を大きく移動して大技を放つ。
かろうじてわかるフェイントの掛け合いもごく一部。あの中に無理して入っても目線すら向けられないのではないだろうか。
そう思う程にそこにある圧倒的実力の差は大きいのだ。
「いいか、レンゲ。いつか俺達はあの場所に立つんだ。こんなとこで立ち止まってられないぞ」
「……私には……無理……」
「例えレンゲがそう思っても、俺は絶対にあれぐらい強くなれると信じてる」
俺はレンゲの手を取る。俺の様に剣を握って数か月の奴とは違う鍛錬の証。それをレンゲ自身に否定してほしくなかった。
「……私に才能は」
「勿論、人には向き不向きがある。でもそこに好き嫌いが混同するとは限らない。レンゲはさ、強くなりたいんじゃないのか?」
「……どうしてそこまで?」
「俺はさ、前にも言ったけどやらなきゃならないことがあるんだ。それには自分が強くなるのは必須で、俺と一緒に戦ってくれる仲間が必要なんだ」
俺一人で魔王が倒せるなんてことは思っていない。勇者気取りをするつもりは無いけど、物語の勇者が仲間を集めるのは自分が不完全であることがわかってるからだと思う。
自分に足りないものを仲間で補うことは恥ずかしいことでも愚かなことでもない。完璧じゃないからこそ、何か一つに特化している人は輝き、それを支えることが出来る人も輝けるのだ。
俺はその一人が絶対にレンゲだと思っている。苦難を乗り越えて俺について来てくれたレンゲが。
いつか、レンゲが持つその刃があらゆるものを下す鬼神の雷になることを俺は信じている!
「俺は弱くて、考えなしで、誰かに守られてばっかりの男なんだ。そんな俺を支えてくれないか?」
「……私に、できる?」
「ああ、できるさ。そうだ、言い方を変えよう」
少し情けないことを言ったばっかりだけど、偶には男らしいところを見せつけなければ。
俺はレンゲの手を引っ張り、無理やり立たせる。そして軽く抱きしめながらできるだけ獰猛な笑みを浮かべてレンゲに言い放つ。
「俺についてこい」
「っ?!?!…………ふふっ、似合ってない」
「ちょっ、笑うなって」
俺もらしくないと思うけど……笑わなくてもいいじゃないか。
だけど、どうやらレンゲは立ち直ってくれたようなので結果オーライだ。
「ちょっと君達!いつまでいちゃついてるんだ?」
そんな俺達に、呆れたような声がかかる。今もベルクと戦うレミアクランだ。
俺達は、はっとしてそちらの方向を見ると……お互いに傷だらけではあるがまだまだ余裕のある二人が距離を取って対峙していた。
「てめぇ……、よそ見して無駄話とは余裕だな」
「そうでもない。貴様もそろそろ暇つぶし気分は辞めて本気出さないのか?」
「ちっ、バレてたか……」
「それだけ攻撃魔当たるぐらい意識と動作に
差?意識?またも別次元のような話をするレミアクランとベルク。
回復能力が異常なベルクの体に傷が残っている理由すら俺達にはわからない。どれほど努力すればそこまで行けるのか……。
「二人とも戦えるね。なら、役割分担だ。私は今まで通りこいつを、君たちはこの結界をどうにかして客を逃がしてくれ。じゃないと……」
「ま、まだいけます~……」
「彼女がそろそろ限界の様だ」
ふとサーナを見ると、杖に体重を乗せて今にも崩れてしまいそうになっている。
それはそうだろう。聖域魔術自体に大量の魔力が必要なのにもかかわらず、会場に居る客まで守っているのだ。
しかも、防いでいるのは魔族のトップの強さを誇る魔淵の使徒とSランク冒険者だ。余波だけでも維持が大変なのは想像に難くない。
「わかった!奴は俺達が倒しますので、そっちは任せましたよ!」
「……任せて」
「ああ、勿論だとも」
「行かせるわけねぇだろ!」
「それはこっちのセリフだ」
またもや背後で強烈な衝撃が走る。しかし、俺達が気にすることはベルクではなく会場を囲む障壁の原因。あっちは彼女に任せるしかない。
原因の魔族は俺達が近づいてくるのを見下すように見つめる。彼も魔族、一切油断できない。
「ふむ、貴方たち程度が私を倒せるとでも?……舐められたものですね!」
「舐めてなんかないさ。ただ、相性の問題って奴さ」
「……本気で行く」
今まで抑えていただろう魔力を滾らせる執事のような魔族であり障壁魔術師、バル。
俺達に逆転の可能性をくれたサーナのために、絶対に負けられないんだ!
「ここからが反撃だ!レンゲ行くぞ!」
「……ん!」
「無力というものを教えてあげますよ!」
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『紋章斬りの刀伐者〜ボロ刀を授かり無能として追放されたけど刀が覚醒したので好き勝手に生きます!〜』という作品も投稿しています!ぜひ読んでみてください!
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