第75話 必要



 side:サヒリーナ



 私はいつからこんなに弱くなったのだろう。


 時々、私はそう思う時がある。これでも昔の私は活発な女の子だったのだ。


 昔は今のように家の中に篭ってるだけではなく、暇さえあれば外に出て遊び、絵は外が雨の時に描いていた。


 友達は居なかったけど……。爺やと婆やが居たから寂しくはなかった。


 今と違い元気で活発な女の子がバッチリ当てはまるような……、今とあんまり変わらない?い、いや、昔は今と違って一人でブツブツ話して爺や達に引かれたりはしなかった……筈。多分。


 と、兎に角。昔の私は元気いっぱいで贅肉もあんまり付いておらず、外ではしゃぎ回るような活発な女の子だった。


 ……あの事件が起きるまでは。


 それからだろう。私は部屋に引きこもるようになった。外に出ることへの魅力と好奇心を忘れ、婆やに習って絵を描くことに熱中した。


 時折、暇すぎて練習していた魔術の練習もお父さんとお母さんに止められてからはしなくなっていた。

 爺やと婆やは私に魔術の杖をプレゼントしてくれたりしたけど……、私はそれを触る所か見る気すらしなかった。


 そんな私の事をお父さんとお母さんより見ていた爺やと婆やはきっと私に刺激を与え、昔のような元気いっぱいな女の子に戻って欲しいと思ったのだろう。


 爺や達はお父さん達との討論の末に獣人族の国から出て人族の国で暮らすことの許可を勝ち取った。

 獣人族の国から二番目に遠く、比較的に安全と思われるこの人族の国である『バララス王国』に住むこと。

 それらの条件のもと、村を、獣人族の国をでる許可が降りた。


 国を出ることが決まって外に出る間にも、幾つかの妨害があったことを覚えている。


 そして私達は幾つかの国を経由し、約1ヶ月をかけてたどり着いたのがこの街、『ファーナント街』であった。


 ここに来るまでやファーナント街の食べた物や見た景色、見たことも無い置物や魔物や植物。

 それらは私の心にもう一度光を灯すには弱すぎた。


 そうして私達がこの街に住み始めて約一年が過ぎた頃、遂に私に転機が訪れる。


『美魔身祭』。その祭りは私の消え掛けていた心の灯火をもう一度付けてくれた。


 獣人族の村では魔術どころか魔法道具すら見ることは稀。

 私は村長の孫娘だからまだ見た回数は多い方だろうけど、普通に生活している獣人は人生の中で見た回数が両手ほどもない人も居るかもしれない。

 元村長の爺やでさえ、初めて私の魔術を見た時は物珍しそうに見ていた。


 つまり、それほどまでに魔術というのは獣人族の国において忌み嫌われていた。


 そんな環境で育った私には、狩りや戦闘以外にパフォーマンスの為に魔術やスキルを美しく使うというのは私の想像を遥かに超えており、どんな食べ物よりもどんな景色よりも刺激的なもので。


 私はそれに依存するようにハマって行った。


そこから数年後にはナルミさんとレンゲさんという友達もできた。


 私は爺や達に許可を取り、自分も魔術の練習を始めた。ナルミさん達に言ったいつか自分も『美魔身祭』に出るという理由も嘘じゃない。


 だけど、本当は、私はもっと褒めて欲しかったんだと思う。


 爺やと婆やは厳しくも優しい。だからよく褒めてくれる。

 それに少しは本心も含まれてはいるとは思けど、半分以上は優しさで褒めてくれているの私もわかっている。

 この考えが子供っぽいわがままでしかないことも。


 それでも、私は、褒めて欲しかった。認めて欲しかった。


 誰かの役に、立ちたかった。


 国に、村に、両親に。こんな私を大切だと、友達だと思ってくれる人に。


 だけどどうだ?その友達に無理言って依頼を手伝わして貰ったり。なんの意味もない、寧ろ不利益でしかないような私の勝手なワガママに付き合ってくれた二人。


 そんな初めて出来た友達が今、私達を守ろうと命を懸けて戦い、そしてその命を散らそうとしている。

 それなのに、私はただ呆然とそれを見ている。


 役に立ちたかったのでは無いのか?このまま友達を見殺しにするのか?こんな私を勇気づけたこの祭りを、こんな形で終わりにするのか?


 ……私に何が出来る?


 自分を無理やりにでも奮い立たせようとすれば、引きこもっていた時の私が今の私にこう語りかけてくる。


私にだって、少しはできることは……!


 ……所詮、貴方は出来損ない。


 今まで私は何かを生産する訳でもなく、なんの意味もなくただ食べ物を食べ、絵を書く道具を消費し、無駄に息を吸った。


 ……貴方が認められる事なんて、何があろうと一生有り得ない。


 本当はお父さん達が私を村から出るのを許可した理由が、私を厄介払いしたかったからなんて分かってる。

 私がいればずっと村は国から白い目で見られ、村が発展する事は無いことも……。


 ……誰も、貴方を必要としてなんかない。


 そうだ、誰も私を本気で必要としてくれる人なんていない。

 私がどれだけ努力しようと、どれだけアピールしようと、どれだけ相手を愛そうと。

 誰も私を必要とする事なんて……。


『サーナならきっともっと凄い障壁術士になれるよ』


 誰も、私なんて、誰も……。


『……サーナならできる』


 私には……。何処にも……。


『いいかい?サーナ。爺やとの約束だ。この魔術は特別だ。だから、いつか本当に大切な仲間が出来た時に使うんだぞ?分かったな?』


 私は……。私は、私は私は私は!!


 ……努力しようと、無駄。


 ……違う!少なくとも、あの二人は私の夢を笑わなかった!あの二人は私の努力を認めてくれた!!


 ……結局、あの時と同じ。


 煩い!!例えあの時と同じだとしても、ここで死ぬぐらいなら、あの二人を何も出来ずにここで失うくらいなら!後悔ぐらい何度だって背負う!


 爺やも、婆やも、お父さんもお母さんも!私を愛してくれてる!ちゃんと私を必要としてくれている!


 あの二人が私を必要としてくれているかは分からないけど……、それでも私は二人共が大切で、唯一無二な友達!


 私程度が出来ることなんて限られてる。きっと、私が出てもせいぜい足止め程度かもしれない。


 でも、その限られたことで二人を救えるならなんだって!


 気がつけば私は走り出していた。


 計画なんて無い。けど、二人があの巫山戯た存在に相対するのだって無計画で挑んだ筈だ。


 無駄にある魔力で身体を強化し、柵をとびこえて広場に降りる。


 そこは他の客に押されて丁度、最初の冒険者の魔術師達が居た場所だった。


「……ごめんなさい。借ります」


 死体を漁るような真似かもしれないので私は謝罪をしつつ、その手に持った杖を取る。


 もう亡くなっている筈なのに、彼女は杖から直ぐには手を離さなかった。きっと彼女だってもっと生きたかったはず。

 冒険者として、あんな奴らは倒してやりたかった筈。


 その思い、私が受け継ぐ。


 あいつらはナルミさんとレンゲさんに夢中。


 私はその隙を突いて、今まで自分の奥底に押し止めてきた魔力を存分に体の中で暴れさせ、魔術を構築して杖に魔力を注ぐ。


「……じゃあな、俺と同じ強者。意外と楽しかったぜ」


 そう奴が口にし、ナルミさんに向けて拳を構える。


 ここに居る誰もがその拳がナルミさんの体を貫く想像をし、終わった。そう思った筈だ。


 だけど、そうはさせない。今度は私が二人を守る番だ!!


「……神聖なる加護よ、悪なる者を滅し、我が仲間を守たまえ『神聖聖域サンクチュアリア』!!」


 私の魔力の光が、この会場を包んだ。




 ♦♦♦♦♦



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 『紋章斬りの刀伐者〜ボロ刀を授かり無能として追放されたけど刀が覚醒したので好き勝手に生きます!〜』という作品も投稿しています!ぜひ読んでみてください!




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