第20話 初戦


「ではまず冒険者になるために必要な書類を記入してください。あ、文字はかけますか?」

「……ん。大丈夫」


 どうやら鬼人族は戦闘に特化はしているが文化も重んじるようで、ほとんどの鬼人族が文字を書けるようだ。

 ただ、中には重んじすぎて他種族との交流を遮断し、大昔に使われていた『鬼人語』『鬼人文字』のようなものを使う人もいるらしいし、逆に戦闘だけしてほかのことに関心がなく言葉すらあやふやな奴もいるらしい。まあこれは鬼人族だけではないと思うが。


 レンゲは名前欄に『レンゲ』と書き、年齢に『16』、スキルに『剣術』『雷魔法』、そして種族に『鬼人族』と書いた。


「……ん、できた」

「はい、確認しますね。……っ!?」


 ララさんは声には出さなかったものの、驚いたようすでレンゲを見た後こちらを見てきたので頷くと、もう一度レンゲと書類を見て少し悩むようなしぐさをした。


「……このことはほかに報告していますか?」

「いえ、まだ誰にも」

「そうですか……。この前のこともありますし、流石に私一人で判断するのが難しいのでマスターに聞いてきますね」


『マスター』とは各ギルド支部の最高権力者のことを指し、所謂『ギルドマスター』と呼ばれる存在だ。

 ちなみに王都とに存在する冒険者ギルド本部にいる全冒険者ギルド最高権力者は『グランドマスター』と呼ばれているらしい。


 ララさんはギルドの奥に入っていったので俺たちは受付から離れてテーブルに座った。


 ギルド中から何事かと好奇の視線を浴びたが、少し慣れてきたのでスルーした。




 十分ほど待ってだんだん心配になってきたところでララさんがやってきた。


「すいません遅くなりました……。話し合ってきたことを報告しますので受付へどうぞ」

「わかりました」

「……ん」


 ララさんの言う通りに受付に行く。


「ではマスターの判断を申しますと、簡単に言えば他の冒険者と同じ扱いでいいとのことです。ただし、事が事なので変に隠すよりプライバシーを考慮しつつ報告すべきところには報告するらしいです」

「なるほど了解しました」


 報告すべきところとは種族関連の犯罪取り締まりのようなところがあるのかもしれない。


「というわけで、今後の冒険者生活に何の影響もありませんので最後に犯罪履歴がないか確認して終わりましょう!この魔法道具に手を当ててください!」

「……ん、わかった」


 手をかざしたがもちろん犯罪履歴を示すことはなく、そのまま依頼が張られた掲示板に向かった。


「まずはレンゲのランクアップもかねてGランクの『薬草採取』とFランクの『魔力草採取』、ついでに戦闘能力も見たいから『スライム討伐』かな」

「……ん、それでいいと思う」


 必要な依頼書を剥がしてララさんのところに持っていく。


「確認しますね。『薬草採取』『魔力草採取』『スライム討伐』でいいですね?」

「はい、おねがいします。」

「わかりました。……はい、受理しました。気を付けて下さいね?」




 ギルドを出ていつも通り南側の門に向かう。


「あ、門番さん。おはよう!」

「む?ああ、君か。おはよう。ん?その子はもしかしてあの時の?」

「……ん?誰?」

「あっそっか、その時レンゲは寝てたんだったっけな。この人はここの門番で、レンゲを見つけたときに今後のことにアドバイスしてくれた人だよ」

「アドバイスというか……、まあそんなところか。よろしく。」

「……ん。…よろしく」


 一応返事はしたがレンゲはあまり積極的に接しようとせず、俺の後ろに隠れてしまった。


 門番さんはこういうことに慣れてるのか少し苦笑いしていた。


「じゃ、仕事してきますね」

「ああ、気を付けろよ」



 門から歩いて十分、薬草がたくさん取れる場所に着いた。


「レンゲは薬草の取り方知ってる?」

「……村に住んでいた時と同じなら」


 そう言ってレンゲは近くに生えていた薬草を来る途中に渡した採取用のナイフで切り取る。


「そうそう、今後もとれるようにするために根っこまでは取らずに茎も全部とる。この調子で依頼分ともしものために余分に取っておこう」

「……ん!」


 二人係での作業なのですぐに予定量を集めることができた。


「じゃあ次は魔力草だな。これはもう少し奥に行かないと生えてないし魔物も出るから気を付けろよ?」

「……ん、大丈夫」


 まあ、気配感知を使ってるからそこまで危険ではないけどね。


 ちなみに「魔力草」とは、魔法使いに必須アイテムである「マジックポーション」というMPを回復させるアイテムを作るのに使う素材のことだ。




 魔力草の群生地まで何事もなく進みせっせと採取していると……。


「ん?あ、スライムだ。レンゲ、いけるか?」

「……ん。でもちょっと不安だから魔法で行く」


 そういってスライムに向かって右手を突き出した。


 ちなみに杖を使うか聞いてみたところ、使わなくて忘れていたが杖のように魔法を使うときに媒介として使うことができる少し高性能な指輪を持っていたようだった。


「……雷鳴よ、鳴り響き、悪を滅せよ……『雷撃』!」


 詠唱しだすと指輪が黄色……いや黄金色に少し輝き、詠唱が終わるときにはその光から直径三十センチぐらいの魔法陣が形成され、魔法名を言い切った瞬間にまさに『雷の攻撃』が起き、雷が落ちたような轟音ではないが、「パチィィン!」というような音がしたかと思えば、スライムは原型をとどめない姿で飛び散っていた。


「……おうふ……」

「……加減を間違えた」


 想像以上の威力に茫然となっているのをよそに、レンゲは威力の加減について考えていた。


「……やっぱり魔法単体で使うのは慣れてない」

「……へ?それどういうこと?」


 茫然としていたが少し聞き捨てならないことを聞いたので質問する。


「……ん?魔法と剣、両方使うのに知らない?剣に得意属性の魔力を通すと武器に魔法を一時的に付与できる。」

「まじか……」


 知らなかった……。っていうか俺に得意魔法ってあるのか?いや待てよ。俺にはチートがあるじゃないか。それを応用すれば……。


 剣を抜き魔力を通す。初めてなので少し安定しないが『全能』スキルで無理やり安定させる。


「レンゲ、この剣に雷属性の魔力を注いでくれないかな?」

「……え、そんなことしても意味が……そもそも練習してもなかなか……」

「ちょっとした実験をしてみたいんだ。お願い!」

「……わかった。」


 レンゲは疑問を持ちながらも魔力を注いだ。


「……よし。レンゲ、ありがとう。……う~ん、よし!イメージは魔力の活性化!」

「……?……っ?!」


 剣の中にある少しピリピリした魔力を『全能操』スキルで無理やり複製し、剣中に纏わせる。


「よっしゃ!できた!」

「……嘘。いくら才能があっても一か月以上はかかるはずなにこんな一瞬で……。しかも他人の魔力で……。」


 次に茫然とするのはレンゲのほうだった。

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