中央教会

 外が明るくなっていることに気付いてボクは目を覚ました。今が何時頃なのかわからなかったが、部屋の窓の外からは鳥の声が聞こえてきて、光の差し込み方がいかにも朝って感じだった。

 ボクは部屋の中を見渡した。あの街の宿屋よりは広いけれど、だいたい同じような感じだ。ドアだけは厳つい。


「これからどうするかなぁ……。」


 ボクは中央王国に来れば元の世界に戻る方法が見つかるんじゃないかという期待を持っていたけれど、それは昨日、マリンに否定されてしまった。他の転生者がこの王国にいるならば会ってみて聞いてみようか? いや、でも知っている可能性は低いだろうな……。

 憑依術って何なんだろう? その仕組みを自分で解明していくしかないのかもしれない。でも誰も今までそれをしなかったのだろうか? 誰も元の世界に戻る方法を知らないってなんか変じゃない? だって、この世界の人たちはボクらをボクらの世界から連れてくることができるのに……。



「……ドラゴンの力で協力してほしいことって何だろう?」


 今後のことはわからないけれど、とりあえずこれからボクがやることになるのはそれだった。ドラゴンに出来ることって何かな? ドラゴンは空を飛べるから正体を隠さなくていいなら宅急便とかの仕事なんかもできるかもしれない。ドラゴンの宅急便。……まあ、でもそんなことわざわざ王女が頼まないか。面倒な話じゃなければいいけれど。



 ボクが暇を持てあましてあーだこーだと考えたあとそれも飽きてお腹空いたなと思っていると、コンコンとドアがノックされて、部屋の中に白い鎧を着た騎士たちが入ってきた。昨日マリンと一緒にいた赤い髪の騎士クールもいた。


「ドラゴン殿、もう起きておられたか。」


 年配の金髪の騎士がボクを見て言った。その騎士の後ろには初めて会う若い銀髪の騎士と茶髪の騎士がいる。クールはドアの近くの少し離れたところに立っていた。四人の男は同じ白い鎧を着ていたので、きっと同じ騎士団なのだろうとボクは思った。


「私は王国騎士団のシーザーです。名は最強の将軍という意味です。」


 金髪の騎士がそう名乗ると他の騎士たちも、銀髪の騎士はブルースカイ、茶髪の騎士はライオンハートとそれぞれ名乗った。


「マリン王女の命令です。これから私たちと共に中央教会まで来てください。」

「他のみんなは?」

「先にいらっしゃっています。」


 中央教会……。そういえばマリンは、転生者は教会が管理しているって言っていたかな。ボクを王国に入れるために何か手続きがあるのかもしれない。


「わかった。」



 ボクは騎士たちと一緒に部屋を出て、外に止めてあった車に乗せられた。これも魔法で動く車だと思う。後部座席に入れられて、両サイドを銀髪の騎士と茶髪の騎士に挟まれるような形で座らせられた。……なんか男ばかりが狭い車内に詰められたせいか、雰囲気がピリピリしてるような。車での移動中は誰も何も話さなかった。



 しばらく車は走ったあとに大きな塀に囲まれた敷地に入っていった。ろくに景色も見れないまま、どうやら車は中央教会に着いたらしい。ボクは車から降ろされて、大きな建物の中に案内された。

 んー、しかし何というか、何にもない大きな広間だな。部屋の明かりは高い天井の上の方の窓から入ってくる光だけで少し薄暗い。誰もいないし……。


「ここで何するの? ミネたちは?」


 ボクがボクの後ろを歩いていた騎士たちの方を振り返ると、今入ってきた扉がバタンと閉められたところだった。


「え? 何?」


 閉じ込められた? 騎士たちがボクの方を見る。シーザーが腰の剣を抜いてボクの方に歩いてくる。なんかヤバイ……。ボクはサーッと血の気が引く感じがした。


「ドラゴン殿、今ここでドラゴンの姿になることはできますか?」

「なんで? なんでドラゴンにならないといけないの!?」


 ボクは後ずさりしながら叫んだ。こんな状況で言いなりになるのはマズい気がする。


「自分の意思で変われないようなら、お手伝いいたしますよ。」


 シーザーが剣を構えてボクの方に走って距離を詰めてくる。


「うわっ!」


 どっちにしろ人間の姿のままじゃ魔法もあまり使えないし、いくら皮膚が丈夫でもあの騎士の剣で斬られればただでは済まないかもしれない。くそー、ドラゴンになるしかない! ボクはドラゴンに変身した。

 建物の中はボクがドラゴンになっても充分に動けるほどの広さがある。……でもここでこの国の騎士とやり合うのはどうなんだろうか? ボクは逃げ道を探した方がいいと思った。

 入ってきた扉の前には赤髪の騎士クールが立っているしドラゴンの体ではあの扉は通れない。上の窓も小さいけど、あそこまで飛んで窓を破った後に人間に戻れば通れるか? 騎士も空は飛べないだろ。上だ! ボクは窓に目がけて飛び上がった! と思ったが、何か後ろに引っ張られるような感じがして地面に落下してしまった。

 ……地面が赤く光っている。何これ、魔法陣か? 体の力が抜けて、気が遠くなるような感覚がある。


「大人しくしていただけますかな? 私たちはあなたを解放して差し上げようというのです。……元の世界に戻りたいのでしょう?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る