世界一位の妹VS日本一の弟子
着々とグループステージの試合が進んでいく中、グループA、B、Cでは決勝トーナメント進出者が確定した。
Aグループでは、対戦相手の三人全てに3対0のスコアで完封勝利したトニーが一位、次いでトニーとの対戦のみ敗北した弥冨が二位で通過。
Bグループでは、トニーに張り合うように一戦も落とすことなく蟹江が一位、二位にはモンゴルチャンピオンの女性が通過を決めた。
Cグループでは、人好きのするスマイルとは裏腹に手加減なく全勝したアブラヒムが一位、次いで二位には、国内チャンピオンの入れ替わり激しいドイツの男性選手が得失点差で辛うじて暫定二位となりステージ突破を果たした。
残るDグループでは三位と四位は確定し、一位を争っての対戦が今、始まろうとしていた。
対戦卓の傍で、両選手は向かい合う。
「久しぶりネ」
腰まで届くような金髪に主張激しい胸が際立つエミリーは、真向かいに立つ樺色の髪の少女に気さくな笑顔で話しかけた。
少女は胡乱な目でエミリーを向ける。
「何か師匠の事で企んでるんですか。私は交渉には応じません」
「そんな悪人を見るような目をしないで欲しいワ」
酷い、と言いたげにエミリーは目尻を下げた。
小牧はなおも油断ならぬ目つきで見つめる。
「師匠を賭けに使うのはなしです」
「わかっててるワ。ワタシもこの勝負に蟹江を出すつもりはないワ。それに……」
悪戯っぽい笑みを浮べてウインクする。
「想いは止められるものではないことは、ワタシだって知ってるモノ」
目つきはそのままで、小牧の頬にぽっと赤みが差した。
その様子を無言の肯定と受け取ったエミリーは、爪先を対戦卓の席に移す。
「それじゃ、正々堂々戦いましょう?」
「はい」
両者は頷き合って席に就き、対戦の準備が整うと、いよいよグループステージの最終の戦いの火ぶたが切って落とされた。
一戦目のCardsは、小牧が勝利。
二戦目のNamesは、エミリーが勝利。
三戦目のNumbersは小牧が勝利。
四戦目のWordsは、エミリーが勝利。
スコアは2対2。勝負は五戦目までもつれ込んだ。
五戦目の種目は、Images。
この種目は三十枚のランダムな写真を、表示された順番通りにどれだけ速く覚えられるかを競う。
両親の許可を得るためにも負けられない小牧は、五戦目が始まる直前、心から緊張を外へ追い出すように大きく息を吐いた。
残り三秒となったカウントダウン。
小牧は画面を注視する。脳内で蟹江の部屋が記憶のルートと化した。
記憶時間がスタートする。
画面に一枚、背景の太陽光を強く浴びるひまわりの写真が映し出された。
ひまわりのみをイメージとして刳り抜き、一カ所目のプレイスに置く。
二枚目は、赤いスポーツカーが砂塵を舞い上げている写真。赤いスポーツカーが刳り抜かれる。
三枚目は、瓶の中の牛乳を少年がラッパ飲みしている写真。牛乳の瓶が刳り抜かれる。
四枚目、五枚目、六枚目、次から次へと一枚に一秒を要しない凄まじいスピードで、写真を見送っていった。
あっという間に最後の一枚に到達。
三十枚目は、平皿にナポリタンらしき料理と盛り合わせの緑黄色野菜が幾種類。ナポリタンだけを刳り抜く。
三十枚目をプレイスに置いた瞬間、小牧は記憶時間を終了させた。
記憶時間の最上限である一分の内、四十秒以上が残っていた。
ほぼ同時にエミリーも記憶を終えて、記憶時間の一分が過ぎると回答時間に入った。
脳内の自室を歩く小牧の足は、必然ドアに戻る。
ドアの前に、ひまわり。
靴入れの中に、赤いスポーツカー。
洗面所の鏡に、牛乳の瓶。
四カ所目、五カ所目、と続き、順番に迷いなく回答を埋めていく。
三十カ所目まで来て、最後のイメージを蘇らせると、回答の枠は全て埋まった。
回答時間残り二分、写真の順番や見間違いがないかの確認に残りの時間を費やした。
時間が尽き、果たして結果が表示される。
小牧 梨華 17秒57 30/30。
エミリー・ウィンター 17秒54 28/30。
正答率の高い小牧に軍配が上がった。
Dグループ一位通過は、小牧梨華に決まった。
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