② 捨て身の攻防戦
***
「ハハハハハハハハハハハハハ! 見事な執念だ! それが祈りであったのならどれほど素晴らしかったのだろう!」
「うるっさい!」
バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ!
霊幻は縦横無尽に屋上を跳び回り、紫の稲妻と成ってパイロキネシストへと突撃する。
屋上のありとあらゆる地点へ紫電を浴びせ、スポットと化し、強烈なクーロン力が霊幻の体を推進させていた。
短期決戦をするのには身体のダメージが酷かった。左半身はほとんど使い物に成らず、壊れた間接では急制動ができない。
「くらえ!」
バキィ! パイロキネシストの殴打が霊幻の顔面に突き刺さる。
素人丸出しのテレフォンパンチ。だが、左側を執拗に狙ったパイロキネシストの拳は着実に霊幻へダメージを与えていった。
ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
「捨て身の戦い方は吾輩の好みだ! キョンシーとはそうでなければな!」
「その舌を燃やしてやるわよ!」
ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!
炎の戦装束を纏ったパイロキネシストに霊幻は笑う。元々着ていた白衣は既に燃えカスとなり、炎がドレスの様にその体へ纏わり付いていた。
この炎が霊幻の紫電を阻み、エレクトロキネシスト相手への接近戦と言う無謀な戦法を可能にしていた。
ジュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ! パイロキネシストの合成皮膚が焼ける音がする。痛覚を消しているのか、無視しているのか、停まる様子は無い。
「灼けろぉ!」
ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
パイロキネシストの号令と共に炎の柱が霊幻の周囲を包み込んだ。
「ハハハハハ! 無駄無駄無駄ああああああああああ!」
炎を突き破りダダダダダン! 霊幻は右拳を構えてパイロキネシストの目の前まで迫った。
霊幻はパイロキネシストの脳を破壊するつもりで拳を放った。
「ちっ!」
バキィィィィ! ギリギリで滑り込ませたパイロキネシストの左腕が砕け、その体が後方へと吹っ飛ぶ。
「喰らえ!」
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
直後、霊幻の体全体が炎で包まれた。パイロキネシストのカウンターだ。纏っていた紫電を越えて炎は皮膚にまで届き、霊幻の体に炎が移る。
「ほう!」
火達磨はすぐに消えた。霊幻の紫電が周囲の酸素を分解するからだ。
――身体機能が三十七パーセント減少か。
一瞬の炎は霊幻の皮膚深部にまで達し、運動能力が大幅に減少する。
「パイロキネシストらしい戦い方だな!」
「まだ、まだよ!」
ダッ! パイロキネシストは着地と同時に左腕は壊れたのか右手だけをこちらに向けて突進する。
「ハハハハハハ! 行くぞ!」
霊幻は再び紫の稲妻と化した。
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
火柱が無数に生えてくる。幾つかは霊幻の体を飲み込み、幾つかは空振りと成った。
バキィ! バキィ! バキィバキィバキィバキィバキィバキィバキィバキィバキィバキィ!
霊幻とパイロキネシストの殴打音が響く。
手数はパイロキネシストの方が多い。霊幻の一発が当たるまでの間に五発は当たっていた。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
パイロキネシストの攻撃は凄惨だった。自身へのダメージを度外視した攻撃。霊幻を壊せればそれで終わっても構わないかのような炎と殴打。
霊幻のように機械化されていないパイロキネシストの柔らかい体は動く度に傷付いていく。
――後、四十秒か!
霊幻が紫電を纏える時間は残り僅かだった。紫電が消えれば、テレパシストの糸に絡めとられるだろう。
――そうなったら京香は死ぬな!
ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!
操られて霊幻が京香とぶつかった場合、先に待つのは共倒れだ。
ホムラが自滅するのが先か、霊幻の紫電が尽きるのが先か。
その時、霊幻は京香のトレーシーがビルの外へ落ちていくのを見た。
「それ高いのよ!?」
相棒の悲鳴が聞こえる。 間違い無くこの戦いの後、京香は技術部にどやされるだろう。
「吾輩の相棒が死に掛かっているな!」
「助けには行かせないわ! あんたはわたしが燃やす!」
「行く気なんてさらさらないさ!」
ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!
狂笑はドンドン強くなっていく。
霊幻はきっと狂喜していた。自分の機能を十全に使える状況。どこまでもどこまでも壊れる戦い方をする撲滅対象。このまま壊れてしまうかもしれないギリギリの刹那。
――ああ、心臓が高鳴る!
そんな錯覚が霊幻の脳にPSIの雷撃を弾けさせるのだ。
「ああ、もう! さっさと壊れてよぉ!」
バキィ! グチャリ!
パイロキネシストの右手の親指が霊幻の左目に突き刺さった。
ジュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!
左の眼窩から肉が焼ける音がした。
パイロキネシストはそのまま霊幻の内部から炎を生もうとしたのだろう。
「燃え――」
「ウラァ!」
だが、霊幻の右拳が一手早くパイロキネシストの脇腹へと突き刺さった。
ベキボキバキボキ!
「ッァ!」
パイロキネシストの左の肋骨は完全に粉砕され、テレパシストの隣まで殴り飛ばされた。
ガシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!
フェンスに激突したパイロキネシストの口から血が吐き出される。キョンシー用の薄赤色の血だ。
「何を言っている! 吾輩達はもう壊れているだろう!」
ダダダダダダダダ!
――まとめて撲滅してやる!
霊幻はパイロキネシストとテレパシストへと落雷を始める。
良い位置だ。二体纏めて消し炭と出来る位置。
「させない」
けれど、その時、テレパシストが傍らのエレクトロキネシストへ命令を送る。
霊幻の進路上に炎と風を纏ったエレクトロキネシストが割って入り、ジグザグに落ちる力球を放った。
キイイイイイイイいいイイイイイイいいイイイイイイいいイイイイイイいいイイイイイン!
キイイイイイイイイイイいいイイイイイイいいイイイイイイいいイイイいいイイイイイン!
キイいいイイイイイイイイイイイイいいイイイイイイいいイイイイイイいいイイイイイン!
「撲滅だ!」
力球を霊幻は完全には避けなかった。右脇腹と左の太股の端、そして、左の頬骨を犠牲にして霊幻はエレクトロキネシストへ紫電を放つ。
バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ!
エレクトロキネシストの蘇生符がショートし、直後、火柱が霊幻を包み込む。
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
「燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろぉ!」
残った右の視界の中でパイロキネシストが向かってきているのを霊幻は確認した。
「霊幻!」
後ろから京香の声が響く。声に心配の色は無い。
霊幻は笑った。先ほど相棒が懐に手を入れていたのを見たからだ。
ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!
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