③ 二色爆弾
クネクネクネクネ!
バチバチバチバチ!
進路上の糸群へ纏めて紫電を放ちながら、霊幻は旋風を避けていく。
軍用PSIキョンシーとてこの様な芸当は出来まい。竜巻に絡め取られるか、糸の力場に頭を縛られるか。どちらにせよ待っている未来は詰みの二文字だ。
こうして避け続け、霊幻が戦闘を継続できているのは、その戦闘IQの高さゆえだった。
霊幻の動きはほとんど未来予知だ。自分の思考が読み撮られている事を即座に計算に入れた動き。一瞬一瞬だけ紫電を全身に纏う事でテレパシーをジャミングし、コチョウと糸の力場のタイミングを狂わせる。
針の先よりも更にか細い隙間を練って霊幻はコチョウの周りをジグザグに巡回した。
「霊幻、そろそろ関口達が来るわよ!」
京香がそう叫んだ直後の事だった。
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
有りっ丈のニトログリセリンに火を付けた様な音と共に北側の壁が爆発した!
爆風は凄まじく、ヒラヒラと宙を舞うコチョウと霊幻をまとめて南側へと吹き飛ばす。
モクモクとした煙の中、関口の声が響いた。
「おいおいコチョウ、何洗脳されやがる?」
そこに居たのはサングラスを掛けて戦闘モードに入った黒スーツ姿の関口。そしてその周りを囲む五体のエレクトロキネシストのキョンシー達だった。
*
「お前がこう簡単に敵に成るなんてな。ビックリしすぎて涙が出そうだぜ」
関口は笑いながらコチョウを見上げた。
「……」
ハタハタ。対してコチョウは変わらない。無言で無感動な瞳のまま裾を羽ばたかせるだけだ。
先の爆風にコチョウが生んだ竜巻は掻き消され、地上に居たテレキネシストも一体残骸と化していた。霊幻も南側の壁に叩き付けられ、今は地上へと戻っている。
残った二体のテレキネシストのキョンシーはコチョウの下まで避難し、各々が霊幻達へ手を向けていた。
クネクネクネクネ! クネクネクネクネ! クネクネクネクネ! クネクネクネクネ!
新たに現れた参戦者に糸の力場が伸びた。
あれに当たったら終わりだ。良くて死亡。悪くて廃人。最悪、関口も敵に回る。
「うざってえ、おい二番と五番、順番に電気で網を貼れ」
関口の命令を即座に二体のエレクトロキネシストは反応し、ビリビリビリビリと薄い電気の網が関口達一人と五体を覆った。
糸の力場は電気網に囚われ、膨らみ、弾け飛ぶ。対策は万全の様だ。
それを見て霊幻は一先ず状況を整理する。
爆風によって部屋での位置関係は変わった。現在、南側に霊幻とコチョウ、そして二体のエレクトロキネシストが、東側の大穴付近に京香が、そして北側に関口達が居た。
「関口、あんたねぇ、少しは加減しなさいよ。普通に死ぬかと思ったわ」
「お前があんな爆発で死ぬもんかよ」
京香の苦言を一蹴しながら関口はスーツの懐へ手を入れてピンポン球大の緑と赤の機械球を二つずつ取り出した。二色の機械球の名はエアロボムとフレアボム。PSI研究の最中生まれた強烈な爆風と爆炎を生み出す小型爆弾だ。
関口は二色の爆弾を自在に操る爆弾使いなのである。
「ハハハハハハハ! 吾輩に何かして欲しい事はあるか関口! 撲滅を手伝ってやろう!」
「黙ってろ気狂い」
関口はそこまでで軽口を叩くのを止めた。コチョウの羽ばたきがまた勢いを増したからだ。
ビュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
ビュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
二対の竜巻が再び一階の環境を支配する!
この時間でコチョウの脳は僅かながらにも休む事に成功した様だ。
だが、それは霊幻も同じだった。
「ハハハハハハハハハハハハ!」
バチバチバチバチバチバチバチバチ! ビリビリビリビリビリビリビリビリ!
霊幻もまた再び電気によって宙へ飛び、コチョウへと突進する。
「お前にコレを向ける事に成るなんてな」
ヒュルヒュルヒュルヒュル! ヒュルヒュルヒュルヒュル!
ヒュルヒュルヒュルヒュル! ヒュルヒュルヒュルヒュル!
ワザと風切り音が鳴る様に紐が付けられた関口の二色の爆弾達が霊幻達へと飛んで来る。
霊幻に構わず関口は声を張り上げた。
「爆ぜろ!」
霊幻達から七メートルほどの距離で二色の爆弾が破裂する。
片方は強烈な炎を、もう片方は強烈な風を生んだ!
爆炎と爆風は混ざり合い、相乗効果を生み出して、強烈な破壊力として空間を支配する!
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
「……」
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
爆発の炎風はコチョウの竜巻と地上のテレキネシストの力球と相殺し合う。
強烈な爆発だとしてもそれが空気分子の動きの一種である時点でコチョウの操作対象だ。
竜巻と衝突した爆風は左右へとそらされ、一部が霊幻を襲う!
「おっとぉ!」
霊幻は稲妻の様に天井へと貼り付き、砲弾と化した爆風を回避する。
「危ないではないか関口! というか効いていないではないか!」
ハハハハハハハハハハハハ! 霊幻は笑いながら関口へと文句を言う。
そもそも、関口が生んだ爆風をコチョウが砲弾として飛ばすのが第四課の切り札である。爆風を操れない筈がない。
先程の様な瓦礫と共にの爆発ならばともかく、ただの爆炎でコチョウを撲滅できるとは霊幻には考えられなかった。
しかし、関口の態度は変わらない。
「うるせえ。これで良いんだよ。お前は黙ってコチョウに突撃してやがれ」
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