第34夜 これは戦争だ!

 こんばんは。

 枕崎まくらざき純之助です。


 随分ずいぶんと冷える日が増えてきましたが皆様はいかがお過ごしでしょうか。

 この時期は風邪かぜなどひきやすいので服装と体調管理にお気をつけ下さい。


 さて、前回ご紹介いたしました僕の超絶お馬鹿エピソード『体育館マイケル・ジャクソン・ダンス事件』の中でもお話ししましたが、小学生時代の最終学年である6年生時に僕は学校内でもう1つ事件を起こしています。

 今夜はそのお話をいたしましょう。


 小学校6年生。

 学校の中で自分たちが最上級生でいられる一年間です。

 小学生の時の上級生って目の上のタンコブですよね。

 休み時間に校庭で遊ぶ際、ブランコなどの人気遊具は上級生に独占されているし、放課後に校庭で野球やサッカーに興じていると上級生たちがやって来て「ここは俺たちの場所だぞ。どけよ」と理不尽に遊び場を奪われることもしばしば。


 そんな目の上のタンコブたち(失礼)がいなくなって6年生になった時、ついに俺たちがこの学校を牛耳ぎゅうじる時が来たぜと意気込んだのをよく覚えています。(アホ)

 しかも僕の所属していた6年1組の教室は学校の中で一番日当たりのいい最上階の角部屋。

 下駄箱も校門からより近い、駅近ならぬ校門近物件です。(なんのこっちゃ)

 その教室に入り、校庭を一望できる景色を窓から見た時に、ついに俺はこの学校のトップに上り詰めたと、玉座に座る王の気分をみしめたものですよ。

 フフフ。

 そんなアホな勘違いをしていたからこそ、僕らはあんな事件を起こしてしまったのです。

 

 それが『生徒会室立てこもり僕らの70分戦争事件』です。


 僕らの教室のとなりは、生徒会室となっていました。

 生徒会にはまったく縁の無かった僕ですから、普段その教室がどのように使われているか知りませんでしたが、授業のある時間帯は基本的に無人の空室となります。

 それをねらったのか、ある時、クラスの男子の1人が他の男子たちに突拍子とっぴょうしもない提案をするのです。


「生徒会室を乗っ取ろう。あそこに皆で立てこもるんだ!」


 ……何のために?

 そう思いますよね。

 これを言い出したのは『体育館マイケル・ジャクソン・ダンス事件』で『アベ先生の歌(原曲:BAD/マイケル・ジャクソン)』を『アベアベーッ!』と熱唱したN君です。


 何故N君が突然こんなことを言い出したのか、僕にはすぐに分かりました。

 当時、『ぼくらの七日間戦争』という映画が上映されていたんです。

 理不尽な教師や親に抑圧された中学生が、廃工場に立てこもって大人たちを相手に大騒動を巻き起こすという映画です。

 あの宮沢りえさんの女優デビュー作ですね。


 その映画に影響されたのです。

 N君はテレビや映画の影響を受けやすい子だったんですね。

 面白いものを見つけると、アレを自分もやってみたいと思って実際にやってしまう好奇心旺盛な男の子でした。


 N君あの時アベ先生にこってりしぼられたのにりていないのか、あるいは怖いアベ先生がヨソの学校に異動してしまったので開放感を感じていたのでしょう。

 僕らのクラスの担任はその年の4月に別の小学校から転任してきたT先生という女性の教師でした。

 T先生は転任早々、馬鹿な僕らの巻き起こす事件のせいで気の毒な思いをすることになってしまいます。 


 すっかりN君にそそのかされたクラスの男子たちは「面白そうじゃん!」と乗り気です。

 ほんと男子って自制が効かず、しょうもない遊びに夢中になりますよね。

 悪ふざけに乗っかっちゃうんだから。


 え? 

 僕? 

 僕はどうしてたのかって?


 僕はノリノリで生徒会室に真っ先に足を踏み入れていましたよ。(アホ)


 立てこもりを決行したのは2時間目が終わった後の20分休みの時です。

 2時間目と3時間目の間は少し長い休みがあり、生徒たちは軽く校庭で遊んだりします。

 そんな中、N君を初めとする僕らは先生の目を盗んで生徒会室に入り、とびらを閉めると用意していた棒きれなどを使ってつっかえ棒をしてとびらが開かないようにします。

 さらには椅子いすと机をとびらの前に積み上げてバリケードを作ります。

 本当に馬鹿なことをしていましたが、やってる本人たちは至って真剣です。


「これは俺たちの戦争だ!」


 読者の皆さんは、「また何をアホなことを」とお思いでしょうけれど、『体育館マイケル・ジャクソン・ダンス事件』の時と同じく、この準備をしている時がとにかく楽しい。

 男子たちはみんなワクワクしていました。

 ひと通り立てこもり態勢を整えた後、僕は窓の外から校庭を見下ろします。

 休み時間終了の予鈴チャイムが鳴り、校庭で遊んでいた生徒たちは皆あわてて教室に戻っていきます。

 そんな姿を見ながら僕はあわれみの表情を浮かべました。


 時間に縛られた哀れな奴隷どれいどもめ。

 俺たちは違うぞ!

 俺たちは自由のために戦うんだ!

 休み時間が終わったからって、授業が始まるからって、教室に戻ったりはしない!(注:真剣にそう思っています)


 そして授業開始のチャイムが鳴り、教室に僕らが戻らないのを不審に思ったT先生が廊下ろうかに出てきます。

 僕たち男子の良からぬ動きを察していた一部のマジメ女子たちに聞いたのか、T先生は生徒会室のとびらをノックしてきました。


「授業は始まっていますよ。何やってるんですか? 早く教室に戻りなさい」


 でも僕らは一切無視です。

 先生の呼び掛けには応じません。

 要求が通るまで俺たちは決してここを動かんぞ!


 え?

 一体何を要求したのかって?

 いえ、特に何も。

 というか、そんなことは一切考えていませんでした。

 

 立てこもりって何か要求がある時にするじゃないですか。

 でも僕らには何も要求はありませんでした。

 給食のおかずを増やせ、とか宿題減らせとか、プールは全部自由時間にしろとか、そういう真っ当な(?)主張があったわけではありません。

 

 そりゃそうですよ!

 立てこもること自体が目的だったのですから当然です!(馬鹿すぎる)

 何だか良く分からないけど立てこもりたかったんだよ!(馬鹿すぎる)


 男子たちは皆、高揚した表情を浮かべて自分たちの状況に興奮しています。

 どうだブラザーたち。

 生きてるって感じがするだろ~?

 これが男の生き様ってやつよ。


 などと悦にひたっておろかな時間を費やすこと約一時間。

 3時間目から始めた無意味な立てこもりは4時間目に突入していました。

 いよいよ怒り心頭となった先生はとびらをガンガン叩き始めます。


「いい加減にしなさい! 今すぐ出てきなさい!」


 アベ先生ほどではありませんがT先生もなかなか怖いです。

 しかも騒ぎを聞きつけて他の先生たちまで出動してきたもんだから、T先生はすでに顔面蒼白です。

 転任早々、受け持ったクラスで問題が起きたのですからT先生も必死でした。

 そしてそんなT先生の後ろでは女子たちが事の成り行きを見守り、他の先生たちも怒号を上げ始めました。

 そうすると、立てこもっているブラザーたちの間の空気が変わり始めます。


「お、おい……そろそろヤバいんじゃないか?」

「も、もうやめようよ。こんなの」


 動揺する男子たち、我に返り始める男子たち。

 基本的に皆、雰囲気ふんいきに流されて何となく参加しているだけなので、それでも強硬に立てこもりを続けようという気骨のある男子はいません。

 そして立てこもり開始から70分が経過した頃、N君も僕もそろそろ潮時だと思い、バリケードをどかしてとびらを開け、全面降伏することに決めました。


 辛い決断だが、これは勇気ある撤退てったい。無血開城だ。(カッコつけてるつもりか)

 これ以上の犠牲をともなう立てこもりは無意味。(最初から無意味)

 そろそろお昼だしオナカもすいたので給食にしよう。(結局それか)


 こうして『生徒会室立てこもり僕らの70分戦争事件』は幕を閉じることとなったのです。

 怒り心頭の先生たちの鬼の形相ぎょうそう

 男子のせいで授業を受けられなかった女子たちのあきれた顔。

 こってり怒られた男子たちの疲れ切った顔。


 戦いは終わった……だが。

 結局、俺たちはあの戦争で何を得たのだろうか。(何も得るものはなかった)

 そして何を失ったのだろうか。(約2時間分の授業内容と先生たちの信頼)

 

 以上が僕の経験した小学生時代最後の事件でした。

 正直、T先生はきもを冷やしたと思います。

 僕やN君のいるクラスの担任となってしまったことで、T先生には余計な、本当に余計なストレスを与えてしまいました。

 ごめんなさいT先生。

 その後、僕は無事に小学校を卒業していきました。

 厄介やっかいな生徒がいなくなってT先生も心からホッとしたことでしょう。

 学校の先生って本当に大変な職業ですよね。(おまえみたいな生徒のせいだからな)


 さて、そろそろ夜も更けてまいりましたね。

 今夜はこのへんで。


 それでは皆様。

 またいつかの夜にお会いしましょう。

 おやすみなさい。

 今宵こよいもいい夢を。

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