第32夜 亡き父は変な人だった。

 こんばんは。

 枕崎まくらざき純之助です。


 突然ですが、皆様のお父上はどんな人でしたか?

 私の亡き父はちょっと変わった人でした。

 

 子供の頃、公園に遊びに連れて行ってもらい広場で父とサッカーをしたんですが、父は僕がドリブルするサッカーボールを奪うと、ゴールに見立てた金網かなあみにシュートを放ち、「ゴール! 1点!」と高らかに叫びました。

 そして跳ね返ってきたボールを連続で蹴り返し、「2点3点4点5点!」と連続得点をしておりました。

 その様子を見た私は子供心に「何だこの人。大人なのに子供みたいだな」と思ったものです。


 また、ある時に父は変な替え歌を歌っていました。

 古い歌で「男だったら~ 一つにかける~♪」という歌があります。

 舟木一夫さんが歌っていた「銭形平次」という歌で、同名の時代劇の主題歌となっておりました。

 さすがにリアルタイム世代ではありませんが、父はそれを「男だったら~ 女じゃない~」と歌っていました。

 いや当たり前だろ。

 その様子を見た私は子供心に「何だこの人(以下略)」と思ったものです。


 AB型おとめ座だった父は大人と子供の二面性を持ったような人でしたが、私はそんな父が好きでした。

 母に怒られて外に閉め出された僕を背負って月夜の町内をグルリと一周回ってくれたこともありました。

 また、喫茶店を経営していた父は忙しく、日曜日はゆっくり休みたいはずなのに、僕を色々な場所に遊びに連れ出してくれました。


 ある日曜日、父が用事で忙しく昼間に時間が取れなかった時がありました。

 夕方になってようやく時間が取れた父は、グローブとボールを手に僕をキャッチボールに誘い出してくれました。 

 でも父と昼間に遊んでもらえなかったことで僕はすっかりねてしまい、がんとして外に出ませんでした。

 あの時、父とキャッチボールをすれば良かったなと今でも少し後悔しています。


 そんな父がある夜、つめを切っているのを見て、僕はある迷信を思い出しました。


「夜、つめを切ると親の死に目に会えないんだよ?」


 昔、日本では死者を埋葬まいそうする時、その親族が自分の髪や爪を一緒にめるという風習があったそうです。

 夜は暗く危険なイメージから不吉とされ、さらにつめは体の一部で親からのさずかりものであり、夜にそのつめを切ることは親からさずかった体を粗末に扱うと見なされたのです。

 そのことから夜につめを切ると「親の死に目に会えない」と言われるようになったそうなのです。


 でも僕の言葉に父は言いました。


「親が苦しんで死ぬところなんか見たいか?」


 それを聞いた僕は、そう言われてみるとそうだな、と妙に納得した覚えがあります。

 ちなみに僕はだいたいお風呂に入る前につめを切りますので、必然的に夜につめを切っていました。

 そのせいか父の死に目には会えませんでした。


 病気の父がいよいよ危ないとなった時、父の入院する病院に向かう車の中で訃報ふほうを知りました。

 ああ、死に目に会えなかったなぁ。

 最後の瞬間にそばにいてあげられなかったことは残念でした。


 でも、父は自分が苦しんで死ぬところを息子には見られたくなかっただろうから、これで良かったのかな、とそんな風に思います。

 取り留めのない話で恐縮ですが、先日の父の日にふと父親のことを思い出したので親父のことを書いてみようと思いました。


 一つ感じることがあります。

 誰しもが父親だからって必ずしも大切に思えるわけではありません。

 世の中には様々な理由で父と良い関係を築けない方もたくさんいらっしゃいます。

 そんな中、こうして父との思い出にひたれる僕は、きっと幸せなんだと思います。


 親父。

 僕の父親でいてくれてありがとう。

 また生まれ変わっても親父の息子に生まれたいです。


 さて、夜もけてまいりましたので、今夜はこの辺で。

 おやすみなさい。

 今宵こよいも良い夢を。

 またいつかの夜にお会いしましょう。

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