第17夜 バスに揺られて
皆さんこんばんは。
皆さんは日常の中でバスに乗ることがありますか?
僕は毎日、路線バスを利用しています。
社会の重要な交通機関の一翼を担う路線バス。
バスの運転手さんって大変なお仕事ですよね。
毎日、乗客を乗せて時刻表のスケジュールに追われながら一心にハンドルを握る。
乗客の命と生活を守るとても責任の重いお仕事です。
運転中に事故が起きるかもしれない。
業務の途中で急にオナカが痛くなるかもしれない。
嫌なお客に理不尽にからまれるかもしれない。
そうしたさまざまな不安要素を抱えながら、それでも運転手さんは今日もハンドルを握ります。
自分では絶対に務まらないだろうと僕が感じる職業のひとつです。
ちなみに僕がかれこれ10年以上乗り続けているバスは、結構大変なルートを通るんですよ。
ルートの途中で片側一車線の狭い道路に入るんですが、そこは住宅街の中を突っ切る道なんです。
歩道スペースがあまり無く、両側を民家や社屋に挟まれたその狭小道路を、運転手さんの職人技とも言えるハンドルさばきで華麗に通り抜けていきます。
バスのミラーが民家の塀や路傍の電柱スレスレを通るのを見ると、今でもヒヤヒヤしますよ。
このバスの大きな車体でこの狭い道を?
バスの運転手はバケモノか。
そう言いたくなるような道ですが、そこに乗り降りするお客さんがいる限り、走り続けるのが路線バスの使命です。
さて、そんなこんなでバスに毎日乗り続けていると色々なことが起こります。
今日はその中でも僕が体験した忘れられないエピソードを3つほどお話ししましょう。
まず一つ目。
過去に一度だけ、自分が乗っているバスが盛大に物損事故をやらかしたことがありました。
先述の通り細く狭い道ですから、いかに職人技を誇る運転手さんでもミスは起き得ます。
弘法にも筆の誤りです。
朝、僕の乗るバスがいつものようにその難所を通っていると、突然ドカァァァンと物凄い音がして車体に衝撃が走り、バスが急停車しました。
道路沿いに店舗を構えていた精肉店の軒先に【○○精肉店】と書かれた看板を兼ねた
おそらく硬質プラスチックとステンレス柱で出来ているその
すぐに店の中から店主と思しきご主人と奥様が泡食って飛び出してきました。
そりゃビックリするでしょう。
時間帯としては朝食も終えて朝のニュース見ながらお茶でも飲んでいる頃です。
そこにいきなり物凄い音がして、店の
一方、激突して急停車したバスの車内に運転手さんのアナウンスが流れます。
その声はわずかに震えていました。
『ただいま事故が発生いたしました。お客様。おケガはございませんでしょうか』
運転手さんは
こういう時のために用意されているであろうマニュアルに沿って、努めて冷静であろうとする運転手さんの必死の思いが伝わってきます。
この事故の際、不幸中の幸いだったのは、この現場からわずか数十メートル先に交番があったことです。
そして事故を目撃したお巡りさんがすぐに駆けつけ、テキパキと指示を出してくれました。
僕を含めた乗客全員がその場でバスを降ろされ、次のバス停まで200メートルほど歩いて次のバスを待つことになりました。
乗客の中には電車に遅れてしまうとお怒りの方もいましたが、僕はこれから警察の現場検証やらの事後処理に追われることになる運転手さんの心情を思うと気の毒になりました。
運転を
この事故は乗っている僕ら乗客も怖かったですね。
ともあれ、ケガ人が出なかったのは幸いでした。
さて、次に僕が驚いた二つ目の出来事は、バスの運転手さんが道を間違えてしまったことです。
それが起きた瞬間、僕は本を読んでいたのですぐには気付かなかったのですが、突然「あっ!」という運転手さんの声が車内に響き渡りました。
何事かと思って僕が顔を上げると、バスがいつも曲がるはずの交差点を曲がらずにまっすぐ進んでいました。
ど、どうなってんの?
バスのルートって順路が決まっていますから、間違えることなんてないと思っていたのですが、同じ会社のバスでもその交差点を曲がるルートと直進するルートのバスがあります。
曲がり損ねてしまったその運転手さんは、おそらくどちらのルートも運転したことがあるのでしょう。
直進したこともあるからこそ、不注意で曲がり損ねてしまったものと思われます。
それからすぐに運転手さんのアナウンスが流れました。
『大変申し訳ございません。道を間違えてしまいました。ただいま本部の指示を仰ぎますので少々お待ち下さい』
そう言うと運転手さんは無線で本部と話し始めます。
ど、どうするんだこれ?
バスですから気軽にUターンなんか出来ません。
どうやらバス会社にはこういう時のマニュアルがあるらしく、街の中の大通りをグルッと巡回して元のルートに戻る様になっているらしいです。
ただ、運転手さんの説明によれば元のルートに戻るのに20分程度かかってしまうとのことで、通勤客にとっては大幅な時間のロスになります。
当然のように車内には不満の空気が漂い始めます。
「何やってるのよぅ」
乗客のおばさんが文句を言い始めました。
マズイ雰囲気です。
そうこうしている間にもバスは街中を走り続けます。
すると1人の乗客が運転手に申し出ました。
「ここで結構ですから降ろして下さい」
そこは最寄りの駅まで徒歩で20分ほどの場所でしたが、順路に戻るのを待ってバスに乗り続けるよりは駅まで早く行けます。
乗客の
バスの運転手さんはすぐに停車し、乗客は続々と降りていきます。
実は僕、不謹慎にもこのレアな状況に少しワクワクしていたのですが、その場所で降りれば歩いて10分ほどで勤め先に行ける距離でしたので、僕も反射的にその場でバスを降りました。
このバスの行く末がどうなるか見届けたい気持ちもあったのですが、社会人ですから遅刻は極力避けるべきですしね。
そうして僕を降ろしたバスはまだ車内に残る乗客を乗せ、迷いの旅路へと旅立って行きました。
運転手さん。
今度は道を間違えないでね。
僕は若干、後ろ髪引かれる思いを抱きつつ、勤め先へと徒歩で向かったのでした。
バスに乗っていて最も驚いたハプニングはさっきの事故とこのルート間違いでしたね。
最後にもう一つ。
これは事故とかではないんですが、「え? そんなことする?」と運転手さんの常識を疑ってしまうような出来事がありました。
バスの運転手さんの人柄も様々で、陽気な人もいれば陰気な人もいます。
その日の運転手さんはかなり陽気な方だったのでしょう。
いつものように僕がバスに乗っていると、ルートの途中にあるタクシー会社の前でいきなりバスが停車したのです。
そして唐突に前方のドアが開きました。
そこはバス停ではなく、誰も乗り降りしないはずなのに。
すると……。
「よおっ! 元気かよ!」
バスを止めてドアを開いた運転手さんが、いきなりドアの外に向かってそう声をかけます。
そこにはタクシー会社の駐車場で車の窓ガラスを拭くタクシー乗務員がいたのです。
乗務員は少々戸惑ったような笑顔でバスの運転手に答えます。
「おお。元気元気」
そう。
この2人、知り合いだったのです。
え?
この運転手のオッチャン急に何してんの?
僕は驚きに言葉を失いました。
その日の陽気なバスの運転手さんは乗務中にも関わらず、たまたま見かけた知り合いに声をかけるために、わざわざバスを止めて前方のドアを開いたのです。
普通そんなことするか?
お客さん乗せて走ってんだよ?
知り合いと世間話するシチュエーションじゃないでしょ。
散歩してんじゃないんだから。
ほんの10秒くらいの間でしたが、それからバスの運転手さんは知り合いの乗務員と二言三言交わすと、上機嫌でドアを閉めて再びバスを走らせました。
この出来事に乗客は唖然とします。
僕と同様に皆、あまりの出来事に言葉を失っていたのでしょう。
まさかバスの運転手さんがそんなことをするとは誰も思いませんから。
その後は何事もなかったかのようにバスは目的地である駅まで走り続けました。
これはでもクレーム案件だよねぇ。
もし口うるさい乗客がいたら、後で本部に苦情の電話がいってもおかしくないし、実際に苦情があったかもしれません。
そのせいか分かりませんが、この陽気な運転手のオッチャンを見ることはその後、二度とありませんでした。
毎日、バスに乗り続けていると同じ運転手さんに当たることは何度もあるのですが、もしかしたらその日のようなことが幾度もあってクレームが入り、オッチャンは職場を追われたのかもしれません。
まあ……普通はそんなことしないからね。
常識的に考えて。
以上が僕のバス通勤ライフにおける印象深い3大エピソードでした。
これからもバスに乗る生活が続くでしょうから、今後どんな変わった出来事が待ち受けているのか分かりませんが、事故やトラブルは絶対に避けてほしいですね。
僕にとってバスの乗車時間は貴重な読書タイムでもありますが、時折聞こえてくる乗客の話し声に様々な人間模様が
I love bus.
え?
カッコつけてないで、いつもの
いやいや。
そんなこと言わないで下さいよ。
今夜は紳士的に締めくくろうと思ってたんですから。
歌手の山崎まさよしさんも歌ってるじゃないですか。
『僕もあなたも バスの中では はしゃげない♪』って。
まあいい年こいた僕がバスの中ではしゃいでたら皆、目をそらして見なかったことにするでしょうが。
では、夜も更けてきたことですし、この辺で
おやすみなさい。
皆さん良い夢を。
あ、ひとつ言い忘れました。
マジメな話なんですが……
バスストップ(バス停)と
バストアップ(乳上げ)って
似てますよね?
え?
似てない?
あ、そうですか。
ならいいですけど。
似てると思うんだけどなぁ……。
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