紅き絆の狂犬達

けい

第1章「城塞都市」1


 午後一時到着の船に揺られ、茶髪の男がダルそうに窓の外を眺めた。

 嵌め込み式の開閉不可能なタイプの窓のため、彼の整えられた短髪はしっかりと形を維持している。

「あーあ、こう景色が変わんねーんじゃ飽きるっての……おいレイル、一緒に甲板行ってイチャイチャしね?」

 そう言いながら男が、黒いジャケットの胸ポケットから出したタバコに火を点けようとすると、間髪入れずに制止が掛かった。

「イチャイチャって、できるかよこんなとこで。つーかタバコも今はやめてくれ」

 レイルと呼ばれた女が、面倒くさそうに答える。

 彼女もまた、黒いジャケットに身を包んでいた。小柄だが細身な身体をぐいっと伸ばし、小さいコンテナの上で無防備に寝転がる。やや長めのウェーブがかった赤髪が、コンテナの上に広がった。

「もうすぐ着くんだから我慢しろよなー」

 彼女は寝転びながらそう言って、ショートパンツから伸びたニーハイソックスに包まれた長い脚を組んだ。服装は白いシャツ以外、コンテナの下に脱ぎ捨てたブーツまで、黒一色で統一されている。

「まったくだぜロック。俺みたいに準備くらいしとけよ?」

 レイルが寝転ぶコンテナの下で、床に直接座り込んでいる男が会話に入ってきた。

 短い黒髪と爽やかそうなルックス。少々ガタイが良い、スポーツマンのような青年だ。少し顔が赤いのは、彼から流れる汗が理由を物語っている。

「ルーク、てめぇ暑がるのも大概にしろよ。これを機にちょっとは痩せろ」

「ロックはガリガリだからな。まったく、ヤる時は骨が当たって痛い痛い」

 ジャケットを脱いでいるルークが、ロックを揶揄う。日に焼けたような健康的な肉体を持っているロックだが、細身な為、筋肉量ではルークには勝てない。

「うるせえな。上着さっさと着ろよホモ野郎が」

 ロックではなく、コンテナの上からレイルが罵声を浴びせた。

「レイル、同性愛者を馬鹿にするような言い方は止めろ。誤解されるぞ」

 冷たい氷を思わせる声が響く。窓から一番遠く、このスペースの入り口のドアに寄り掛かるようにして立っている男が言った。声量自体は大したことはないが、低い為よく通る声だ。

 鮮やかな金髪は目にかかるかかからないかのギリギリのラインまで伸びており、そのせいか短髪の割に暗い印象を与える。だが、その下から覗く鋭い深紅の瞳には、見るものを魅了する光があった。色白の端正な顔立ちで、黒のジャケットを羽織った立ち姿がよく似合う。高めな身長にすらりとしたスタイルで、腰の位置も高い。

 ルークやロックと同じ黒のスラックスを履いているが、与える印象はかなり異なる。まるで美形という言葉をそのまま体現したかのような彼の姿に、レイルは溜め息をついて答えた。

「わかってるよクリス。私だってバイセクシャルだし、女の恋人もいる」

「あの片腕折った彼女か?」

 ロックが笑いながら茶々を入れた。金色の肉食動物を思わせる瞳が、いやらしく笑っている。

「あー、その娘もいたかな……他にも何人か」

「相変わらず恋多き乙女だな」

「お前みたいなプレイボーイには言われたくねーな。頭ん中、ヤれるなら男も女も一緒くたになってんだろ?」

 レイルとロックは言い合いながらも、その表情は穏やかだ。間に挟まれたルークは、二人の言い合い等そっちのけで、自身の汗で不快なジャケットを羽織る作業に入っている。

「お前ら、そろそろ港に着く。ここを出たら公共の場だ。しっかりと自覚しろよ」

 自身の後ろのドアに手を掛け、クリスが呆れたように声を掛けた。

「りょーかい。なあなあ、リーダー……今も充分公共の場じゃね?」

 ルークが返事をしながら笑って補足する。

 彼ら四人の周りには、無数のコンテナが山積みされている。それ以外のインテリアは無く、唯一壁に設置された複数の窓だけが光源とアクセントの役割を果たしていた。天井を見れば、今は役目を果たしていない照明器具が揺れている。

「それもそうだな。全員、今夜はしっかり休養するように」

 周りを見渡し納得したように答えたクリスは、そのまま指示を飛ばして外に出た。その言葉に三人は思い思いにリラックスしながら、彼の後に続く。

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