「エンディングⅢ:かえるべき場所」
――巨大シマモノ出現事件が一旦の解決を迎えてから半日。
要するに、その夜。
村長にして人類最強の男、ウロノスこと変態覆面男の姿は自宅の縁側ではなく、ヒトツメ病院の喫煙室にあった。
喫煙室なのに煙草を吸っていなかった理由は、院長のリシャーダが相席していたからだ。彼女は毒の煙を好き好んで吸引している不思議な人間に対して、露骨に嫌そうな顔をするのだ。医者だからか、単に嫌いだからかは定かではない(たぶん両方)が、とにかくその状態では話もろくに聞いてもらえないので、リシャーダに話があって訪れた以上、あの傍若無人が服を着て歩いていると専ら評判である変態覆面男とて、ここでは大人しくコーヒーを嗜むよりほかにないのだった。
そして。
「――大嘘吐き」
リシャーダはそう言って、奇抜な覆面頭を小突いた。
後頭部を肘打ちされたウロノスは、手元の報告書を喫煙所備え付けのスタンドに置き、肩を竦める。
「いやいや何処にも嘘なんて書いてねーよ。頑張ったんだぞ俺様も。特にこの、■■■■■■ってのが、これがまた強敵でな。まぁぶっちゃけ呪神だったんだが。あ、これトップシークレットな。絶対誰にも言うなよ」
「それは別にどうでもいいんだけど。いやよくないんだけど。『獅子型シマモノ』って何? いったいどんな化け物と戦ったら、ゼンカがあんな状態で運び込まれてくるわけ? よく生きてたわねアレ。常人なら十数回は死んでるくらいの大怪我だったわよ?」
「あぁ、それもスーパーシークレット情報なんだが、
「いやどう見ても負けてんのよ。勝った人間の姿じゃないのよアレは。この世のどこに全身くまなく骨が砕けて内蔵の殆どに穴が空いてるような致命傷を負いながらそれでも勝って終わってる戦いがあるのよ」
「え? そんな酷いことなってたんあいつ? 何でそれで生きてんだよ悪魔病こわ…………」
「差別主義者みたいなこと言うのをやめなさい。あんたじゃないの? そのヒト型を倒したのって。どうせいつもみたいにすっとぼけてるだけでしょう?」
「いや、今回は俺様も俺様でちょっと忙しかったからな。ぶっちゃけ半分はその辺の詳細を聞きに来たわけで……」
「御生憎様。あれじゃ当分目も覚まさないわよ。全く、誰も死んでなくて良かったわね。あんたの大嫌いな、結果オーライってやつだわ」
「ぐぬぬ……」
ちなみにもう半分は、こうしてセイバーズの代表として報告書の内容をリシャーダと共有することだった。ゼンカが意識を取り戻さない以上、ここでやることがなくなったウロノスは渋々、重い腰を上げる。流石に今日ばかりはサボってばかりもいられない。体よく本部を抜け出していられる貴重な時間との別れを惜しみつつ、次の仕事へと立ち向かうのだ。
(――やれやれ、だな。確かに俺様の嫌いな、結果オーライだったぜ)
――自分が不在の間、村で何かがあった時にアイネが指揮を執ること。そしてアイネが動くならば、迅速にゼンカが参戦することまでは想定内だった。
ウロノスの見立てでは、フェルエルほどとは言わないがゼンカもなかなか見込みのある優秀な戦士であった。故に一時期は師匠ぶって過酷な指導を行っていたこともあるくらいだ。その後彼がキリムと出会い、どういうわけか恋仲になり(マジでなんで?)、村の孤児院の先代担当者が病気で倒れたのを切欠にその後を継ぐなどと言い出してからは関わりが薄かったが、まぁそれでも緊急時には頼りになる戦力の一つには数えていた。
それほどの男が死にかける事態を、全く想定していなかったのかと言われれば嘘にはなるが……いざ実際にそうなってみた時の自分の心境を振り返ると、これでもまだ覚悟が足りなかったのかと痛感する。
ゼンカを助けられる人間は、ウロノスの把握する盤上の駒の中には一つたりとも存在しなかった。彼が生き残れたのは、どう足掻いても偶然。奇跡。神の気まぐれ。ウロノスの大嫌いな、『結果オーライ』である。
「――おい」
ヒトツメ病院を後にし、本部へ向かう夜道を独り歩くウロノスを、後ろから呼び止める声にはなんだか憎悪の感情が滲んでいた。
振り返るまでもなく、それはキリムであった。
「ようカワイコちゃん。不死鳥でも泣き腫らすとそんな顔になるんだな」
「ぶちころすぞおまえ。……いや。…………………………」
「お。……おぉ? ……いや、なんで?」
非常に不快そうな声色や目つきとは裏腹に――キリムは深々と頭を下げ、それは誰が見ても明らかな、謝意を示す動作であった。
「ゼンカが生きて帰ってこれたのは、おまえの作った組織のおかげだから……。ありがとうございました」
「……俺は何もしてねぇよ」
「私には、何もできなかった」
してないのと、できないのには、雲泥の差がある。
もっとも普段なら、恐らく前者の方が悪い印象になるのだろうけれど。
「ゼンカが死にかけていた時、私の方も同じように死にかけていて。眷属との接続が切れていたから……あんなことになっていたなんて、気付きもしなかった……。……こんな無様な言い訳の言葉を並べることしか、私にはできない………………」
「あぁ、いや、その、とりあえず元気出せよ、ゼンカは生きて戻ってきたわけだし、な?」
再び頭を上げた時、キリムは両の目からぼろぼろと大粒の涙をこぼしていた。
こんな無表情のまま号泣できるやついるんだ……。
しかしその言い訳が真実であるならば、誰がどうやってゼンカを救ったのかは今度こそ迷宮入りしそうである。ヨハネ辺りならば何か知っている可能性はあるが――
「姿なき英雄に、とりあえず感謝しとくしかねぇな……お互いによ」
「……。……ん」
どうせ知っていてもまともに教えてはくれないのだろう。
ウロノスは心の中に、ヨハネの腹立たしいしたり顔を思い浮かべ、そこに蹴りを加えるのであった。
*
シマモノが敢えてゼンカを殺さずに撤収した何らかの理由よりも、まだ通りすがりの一般正義の味方が突然現れる可能性の方が高いだろう。
それはセイバーズの中の誰かなのかも知れないし、或いはこのシマに潜んだ誰も知らない未知の人物であるのかも。 ……どの可能性も大概だが、少なくともシマモノが無防備な人間を殺し損ねることがない以上、そう考えるより他にないのが実情だ。
例えば……例えば森に住む魔女ミリエのように、人知れず入り込んでいる者が、もしかしたらいるのかも。それが都合よく、ミリエ並の規格外だったりして――……。
「……いたら怖いわね。そんなのが」
リシャーダがそう言うと、正面のソファでくつろいでいたアルギウスが気だるげに顔を上げて答える。
「前院長が実は生きていて、森を彷徨っている――などというウワサもあるがな」
「生きてるわけないでしょ。ヒトツメ病院の契約が私に切り替わってる時点で、もうとっくに死んでるわ」
「それはそうだが。誰もその死体を確認してはいない」
「この病院をホラーの舞台にしたいわけ? それともミステリー?」
「ファンタジーだな。ドキュメンタリーは高尚が過ぎる」
「確かに実際の医療行為をすることなんて、ほとんどないわね……インチキ頼りのヤブ医者家業だわ」
……ヒトツメ病院前院長の失踪事件――。
いや、大したことではない。大袈裟な話ではない。
彼は研究者で、このヒトツメ病院という巨大な
アトリィの死後にはセイバーズ主導の調査活動は中断されていたのだが、その間、再三に渡り控えるように言われていたにも関わらず独断でフィールドワークに出まくっていた前院長は、ある日、ヒトツメ病院に戻ってこなかった。
彼が死んだであろうことは、ヒトツメ病院という名の神器の契約者がリシャーダに書き換わった事実をもって断定されている。森林区やその向こう側で死んだ人間の死体に回収の見込みはなく、痛ましい事故として、今となっては誰も蒸し返すことはない。
気になる点があるとすれば、もしかしたら彼は自分が死ぬかも知れないことを、なんとなく悟っていた可能性があることくらいか。彼が
「アトリィさんがいなくなった時点で、やめておくべきだったのよ。調査なんて」
「……それは、俺がまだシマに流れ着く前の話だな。だが調査は必須だろう。何が起こるか分からないとはいえ、そこには一定のルールが存在するはずだ。生き残るためには、ルールを見つけなければならない」
「言い切るわねぇ。ルールなんてあるのかしら? ファンタジーなのに」
「ルールが無用なら、村はとっくに全滅している。何でも有りであれば、連中からして外敵たる俺達を、シマの中で生かしておく理由もないだろう」
ヒトツメ病院副院長アルギウスは、そう言い切る。
ルール、か。
【居住区】にはシマモノが自然発生しない、とか。
分かっていることは色々あるが、どれも今ひとつ、シマの人類の生存を保障するには遠く及ばない。ほとんど何も知らないのと同じだ。確実に助かる道があるとすれば、このシマから脱出することくらいだが――たぶんそれが一番、不可能だ。
「……念の為訊いておくけれど。アルが助けたわけではないのよね。ゼンカのこと」
「俺にはアリバイがある。ずっとこの院内で、飛ばされてくる怪我人の対応をしていた」
「それはその通りなんだけどアリバイとか言うと逆に怪しさが滲むのよ、あんたの場合……」
「馬鹿言え。ミカゲと比べれば俺の怪しさなど、ものの数ではない。あいつは必ず裏切るぞ。俺の勘がそう言ってる」
「それは安心だわ。あんたの勘が当たったこと、一度もないものね」
「今は調子が悪いだけだ」
ふん、と鼻を鳴らし、アルギウスはソファに深くもたれ掛かる。
顔は良いし声も良いし落ち着いた雰囲気で外の女子からの人気は高いが、これで結構、中身に関してはライトニング・サンダー氏を水で薄めたくらいの軽薄さがあって、ずっと近くにいるリシャーダとしては、どうしてこんなやつがモテるのだろう、と不思議でならない。
戦闘能力に関しては、
まぁ、スーパーヒト型シマモノ(仮称)から誰がゼンカを救い出したのかなど、彼が目を覚ませば分かるはず。それまではせいぜい、警戒態勢を取っておくだけのことだ。
つまり、何ということもない。このシマの、いつもの日常に戻るだけ。何せこのシマの中で厳戒でない時など、基本的にはないのだから。
「……もう休んだらどうだ、リシャーダ。俺がこの部屋に残っていれば十分だろう」
「そうね……ありがとう。後は任せたわ、アル。ちょっと寝てくる」
ヒトツメ病院はリシャーダが稼働させている神器だが、その魔力供給は彼女以外からでも可能である。具体的にはこの部屋がそのための空間であり、アルギウスでもここにいるだけで、リシャーダの魔力消費を肩代わりすることができるのだ。
たとえ彼女が部屋を離れようとも。
そして結果的には、単にアルギウスがソファでくつろいでいるだけに見えようとも。
部屋を後にしたリシャーダは、憚る人目を失ったことでようやく、大きなため息をついた。
海産物襲撃の記憶もまだ新しいタイミングでの、今回の事件。
立て続けに起きる、前例のない出来事。
神秘の満ちるこのシマで、何かが動き出している。
それはまるで、終焉の予兆。
何かが目覚め、全てを終わらせようとしているかのような。
漠然とした不安はまるで茨のように、リシャーダの心を締め付ける。
――或いはもう、予兆などではなく。
全てが順調に、終わっている可能性だって、大いにある……。
不安になるなという方が無理な相談だ。
「――はぁっ、ダメだダメだ。弱気になるなんて私らしくない。頑張れ私っ。ヒトツメ病院を動かせるのは、もう私しかいないんだから……」
両の掌で頬を叩き、気合を入れ直す。
今は迷っても仕方ない。やれることをやるだけだ。
やるだけやって。
それでも尚、駄目だった時に――せめて悔いなど、残さないように。
*
村に残ったセイバーの奮戦も虚しく、シマモノの侵入を完全に阻止することはできなかった。最終的には何匹かが村の奥まで入り込み、建物などにそこそこの被害を出してしまっている。これは完全にアイネの采配のミスであり、通常であれば責任を追求される場面のはずだった。これが一つの法治国家ならば法廷に呼び出され、その責を追求されることさえあっただろう――元、そういう国から流れ着いてきたアイネは、落ち込みながら猛省していた。
一方、現場にはアイネを責めるような空気は一切なかった。
それどころか、村人たちはセイバーズの活躍に感謝しながら、いつものように復旧作業を進めていたのだった。
理由はいたってシンプルである。
「シマモノに村を滅茶苦茶にされるのなんていつものことですからね。直すのは大変ですけど、村人が誰も命を落とさないための村長の作戦だってことは、みんなちゃんと理解してますよ」
――とは、今回被害を受けた飲食店従業員の言葉。
そう。今回の非常事態におけるセイバーズの行動がアイネの指揮であったことを知る者は、そもそも村の中には誰一人いない。ウロノスが早朝からお忍びで、独断で、水面下で暗躍しようとして村を離れていたことなど、それに加担した一部の者、或いはその当事者たちを除いては、誰一人として存在していないのである。
戦闘開始後の各部隊への指示の内容や、なぜかアイネが直々に前線に出ていたりしたところから、薄々ウロノスが不在なのではということを察していた戦闘員もいたかも知れないが、概ね誰もそのことは知らなかった。
だから誰もが、これをいつも通りのことと思っていたのだ。
故に村人たちはシマモノが侵入してくる可能性など普通に想定していたし、いつもウロノスがそう命令してきたように村の一部を切り売りしながら、シマモノと戦える者を
つまり村を完全には防衛し切れなかったアイネの作戦ミスは、結果的にウロノスのいつものやり口と重なってしまい、誰一人として、それがミスであることに気付く者はいなかった。
このまま黙っていれば、村が受けた被害もまたいつもの通り、ウロノスの責任になるわけで――
「はぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜…………」
アイネは盛大に、執務室の机に突っ伏して胸のもやもやを吐き散らかしていた。
――こうなることも全て、ウロノスの手の平の上だったのだろうと改めて、思う。思わされてしまう。
彼は最初から分かっていたのだ。結局、私のやり方では、村を守り切れないということを。
……いや、当たり前だ。シマ全域から見れば小さい区画とはいえ、人の手でその全てを防衛するには、【居住区】はあまりにも広い。
ヒト、モノ、場所、全てを守りたいという理想は、非現実的な妄想に過ぎないのだ。
だからウロノスは、日頃から滅茶苦茶なやり方を繰り返し、ここではそういうものなのだという慣習――ある種の諦観的文化を作り上げたのだ。
いつか彼の不在の時に、私が勝手に理想を掲げ、その挙げ句に小さな失敗を重ねようとも――最終的に全ての責任が彼のところへ、帰っていくように……。そしてまさに今日、それは実現された。全てが彼の、思惑通りだった。
弱い自分が、本当に嫌になる。
仮にも元・プラチナ級。この体さえ万全ならば、たとえ一人でも居住区を守ってみせたのに。
でも、それ以上に許せないのは、結局ウロノスの策にまんまと乗って、全ての責任から逃げ遂せてしまっている今の
「イーベル、あなた知ってましたね?」
「…………」
「ここでの沈黙は、肯定と同義ですよ。……はぁぁぁぁぁ…………」
アイネは改めて盛大に肩を落とす。
するとイーベルは少し申し訳無さそうな口調で、ウロノスの意思を伝えた。
「あの男は、自分が悪役になることを恐れていません。シマの中で人々の営みが生み出すであろう全ての罪を背負う覚悟で、むしろ自ら悪役を演じてさえいます。いつ、誰が失敗してもいいように。それが先を行き、道を示す者の責務である、と……」
「口だけはいつもご立派なことですね。奇抜な覆面が脳裏をチラつかないのであれば、本当に耳触りの良い御託ですこと」
「言っていることだけはいつも正しいのです、あの男は。ただそれを包む人間性に問題があるだけで」
「台無しなんですよ、人間性に問題があるだけで」
しかし、そんな風に憎まれ口をいくら叩いたところで。
そんな問題のある人間性によって助けられている自分が、より惨めに映る。
――こうして考えてみれば。
今行われている村の復旧作業も、公共事業。
シマモノの襲撃があれば、村の建物は壊されてしまう。そういうルールを常識として定着させることにより、予備の建築資材の確保、木材や石材を調達、加工などを行う職業が、この村では成立している。
シマに流れ着く特殊な経歴の人物たちに、一人でも多く、この村の中でやれることを見つけてもらえるように。村の中にある選択肢は、確かにウロノスのおかげで幅が広い。……ウロノスのせいで、とも言えるが。
人類の生活と切り離せない破壊と再生のサイクルに、シマモノの襲撃というイベントを利用するなんて滅茶苦茶だ。倫理観が壊れている。
それでも彼は今日までずっとそんな無茶を押し通し。
鍛えられた村人たちは、アイネが思っていた以上に図太く、
だからと言って別に、自分たちの存在意義に疑問を抱いたりはしないけれど――もう少し。今までよりももう少しだけ……。
「村の人を、信用して、頼っても、いいのかも知れませんね……」
村人たちは戦えないから。
自分たちが、守ってやらなければ。
今までずっとそう考えていたし、それが当然のことだとも思っていた。
故郷を追われる前から変わらない、アイネの中の『常識』だった。
今回の出来事を機にその思い上がりは、ほんの少しだけ変化の兆しを見せたのかも知れなかった。
*
「セイバーに加入しようって人も増えましたけど、逆にセイバーにならないで村を守る専門のチームを作ろうなんていう話も出ているんですよ」
と、瓦礫を運びながらユハビィは言う。
「ゲッツ団の、ゴショガワラさんの頑張りとか、そういうのが影響あったみたいですね。っていうかゲッツ団に加入しようみたいな動きもあるらしいですよ?」
「確かに村人の自衛にある程度期待ができるのなら、セイバーの負担も小さく済むですにゃ?」
同じく村の復旧作業に従事する
つい今朝方、ミカゲの来訪とユハビィの失踪に端を発したやどりの中の『嫌な予感』は、とりあえず無事に消え去っていた。早めに平穏が戻ってきてよかったと、彼女は瓦礫運びに精を出す。
「なのでワタシもなにかそういう活動のお手伝いができないかなーと思いまして、早朝からあちこちお散歩に出かけていたのです」
「それは絶対に嘘ですにゃ。おまえは間違いなくあの巨大シマモノと、黒い塔と、何か関係あるですにゃ」
「いやいやそれは本当に関係ないんですよ。確かにそれ以外は全部ウソでしたけど」
「呼吸のように嘘を吐く子……!」
「あ、ごめんなさいもっと言うとワタシがお散歩してたのところがウソで、村の自衛組織を新設しようっていう話はさっき鍛冶屋のお姉さんから聞いた本当の話でした」
「虚実織り交ぜて話すのはプロの犯行ですにゃ! もう何一つ信用ならないですにゃおまえの言葉!!」
「実はこのシマには超古代文明が遺した超高性能な人工知能が眠っていてですね」
「オカルトやめろですにゃー! 煙に巻くな!」
――村を襲った未曾有の災厄から、まだ一日も経っていない。
すっかり日も暮れ、ぽつぽつと松明に明かりが灯され、それでも村人たちの賑やかな声は途絶えない。
これはこれで、何だかお祭りのようだ。まぁ、犠牲者が出なかったからこそ、そんな呑気な感想を抱いていられるのだけれど。同じく復旧作業を手伝うセラは、そんな感情を言葉にしないように気をつけながら二人の会話に耳を傾けるのだった。
「まぁ……やどりも、セイバーに入ってご主人と一緒にいられなくなるより、村の守りに専念する立場でいられる方が都合がいいですにゃ。そういう選択肢なら大歓迎ですにゃ。入るとは言ってないけど」
今回、セイバーズに同行して森林区で激戦を繰り広げたからこそ、改めてそう思ったやどりである。
聞いた話によればあの獅子型のシマモノよりも遥かに強力な敵まで現れていたという。
それはつまり、なにか一つでも違っていれば、死んでいたということだ。森林区に入った時点で、生きて帰ってこれない可能性が決して低くなかったということだ。
本当に今思い返しても背筋が凍る。
もしもあの時、森の奥から戻ってきたミカゲの提案によりアディス一家、ケンゴらセイバー合同チームとともに村に引き返すという選択を取っていなければ、果たしてどうなっていたことだろう…………。
少なくとも、誰にも発見されずに死んでいた男が一人、いたかも知れないというのは間違いない。
それについては本当にミカゲのファインプレーである。胡散臭い老人のイメージだが、言い換えれば老獪さを感じるということでもある。最もプラチナ級に近いという噂に紛れはなく、彼もまた歴戦の猛者には違いないのだ。
ヒトの命令などおおよそ聞きそうにもないアディスを説き伏せて村へ戻らせた手腕には脱帽である。どんだけ帰りたかったんだよとその時は思ったが、思い返せば大した男だった。
おかげで帰り際に瀕死の重傷を負って倒れているゼンカを発見し、無事に村まで連れ帰ることができた。まったく奇跡としか言いようがない。
「ここには頼りになる大人が多いですにゃ。やどりは、やどりのできることをするですにゃ」
「子どもに配られるカードなんてたかが知れてますからね。惨劇の舞台を無理に引っ掻き回したところで、事態は悪化するだけです。背伸びをせず、地に足つけて生きていくのが一番、幸せなんですよ」
「……おまえはこの中で一番子どものくせに、誰よりも状況を引っ掻き回してる気がするですにゃ」
「いえいえそんなそんな。恥ずかしいですよ」
「褒めてはない」
――被害規模は、これで案外、先日の海産物の一件を下回った。
規格外の巨大シマモノ出現に端を発するシマモノの襲撃は激しく、何体かは防衛ラインを超えて村に侵入し、大変な騒ぎにもなってしまった。けれど最後にはミカゲの機転により森林区から戻ってきた戦闘要員たちが間に合い、村内での人的被害だけはゼロに抑えられた。
別の区画でもやや遅れながらにフェルエルが参戦し、そこから戦況は一気にひっくり返った形である。
村の外縁にある施設が片っ端から壊されまくってしまった海産物戦と比較すると、復旧作業に掛かる時間はだいぶ少ない見込みだ。
ただし戦闘員に関しては損耗激しく、死者こそ出ていないものの負傷者多数。
現在、防衛に割ける人員が致命的に不足しており、一部の精鋭が休みなく警戒に当たる事態となっている。そもそも、こういった派手な事件とは関係なく、シマモノは日常的に村を襲ってくるのだ。警戒を緩めていいタイミングなど、無いのである。
とはいえ幸い、今のところシマモノ側に活発な動きが見られず、むしろ平時よりも襲撃の回数は減少していた。忙しい日々はしばらく続きそうだが、なんとか立て直しを図る猶予だけはあるようだった。
やどりの飼い主であるセラとしては、今回はやどりが無事に帰ってきてくれたので、それ以上の高望みはない。
誰にとっても平等に危険な孤島であることは最初から分かっている。生き残れたなら、それ以上を望めば
神様に感謝しなければ。
馬鹿野郎、どうせ転生させるならもっと安全な世界にさせやがれ――と。
セラが心の中で神様に文句を言っていると、ユハビィの近くに一人の見慣れない少年が、大所帯を引き連れて現れた。
「おいユハビィ、こいつらをどうにかしてくれ」
「がははは。ツレねぇなぁボウズ。久々に村に帰ってきたんじゃねぇか。今夜は一緒に騒ごうじゃねぇの!」
村の大工の棟梁とその仲間たちから、さながら親戚のおっさんにされるようなウザ絡みを受けるアーティが、助けを求めてやってきたのだ。
彼は鮮やかな身のこなしでその位置取りを躱すと、代わりにやどりを捕まえて元いた場所に放り込む。
一瞬、何が起きたのか分からなかった。
目を離していたつもりはなかったのに見逃した。
なんと見事な変わり身の術――今やゴツいおっさんたちの寵愛は、全てやどりに注がれる。
「おお猫の嬢ちゃん、おまえも頑張ったんだってなぁ! がはは! わしわしッ!」
「に゛ゃ゛ぁぁぁぁああああああッッッ」
「や、やどりーーーーーッ!?」
「やれやれ面倒臭いな。だから騒がしい場所は嫌いなんだ」
「みんなアーティさんのこと心配してたんですよ。ずっと昔に、村を離れてから。今日までの長い時間、ずっとずっと」
「オイラは別に、他人に心配されるほど弱くないんだが」
「あはは、それはそう」
そうとも。
アーティはこの村の誰よりも強い。
相手になるのはプラチナ級くらいだ。
心配無用なのは、当たり前の話である。
――でも。
「誰かを心配するのに、立場や強さなんて関係ないんですよ。アーティさんが、歪さんやアトリィさんを想うことと同じです」
「…………それは、……そうだな」
それもまた、その通りで。
アーティに返せる言葉は無かった。
けれど、不思議と不服ではなかった。
二度と戻らないつもりでいた村に戻り、出迎えてくれた村人の表情を見た瞬間。
ここには。この村には。
かつてアトリィを失い、失意と絶望の中に村を捨て去ったアーティが想像してきたような、冷たい人間など――最初からいなかったのだということを……理解、してしまったから。
――何処からか、笛の音が聞こえてくる。夜も近く、本日の復旧作業の中断を報せる音色と共に、誰かが太鼓のようなものを叩き始めて。いつしか村は、本当のお祭りのような雰囲気に包まれていく。
「商店広場で炊き出しやってるぜ。ほれ、おめぇさんらも作業は中断して、さっさと行ってきな」
「やったぁ〜、もうお腹空いて倒れるところだったよ〜っ」
「倒れたらやどりが美味しく食べてあげるですにゃ。ひとガラスープで骨まで食べ尽くして見せるですにゃ」
「食べないでちゃんと弔ってよ!? 消し去らないでわたしが存在した痕跡!」
セラとやどりが、一足先に駆け出して。
ユハビィが一歩踏み出した時、それに続こうとしたアーティはふと立ち止まり、目を丸くする。
「何してるんですアーティさん?」
振り返るユハビィの顔を。
はっと思い出したかのようにアーティは見つめ返す。
「いや、別に。なんでもないよ」
広場の方へ。
賑やかな方へ。
温かな、光の差す方へ。
ユハビィと共に、アーティは歩き出す。
『おかえり、アーティ』
それは決して聞こえるはずのない、都合のいい幻聴。
懐かしい、もう会えない人の声。
でも、アーティは確かに聴いた。
他の誰が、それを耳にすることが出来なくても――
『やぁっと帰ってきたなーっ、この家出少年! 全くキミってやつは本当に、ぼくに心配かけるのが大好きだなぁっ☆』
アーティの心に、その言葉は確かに届いていた。
*
*
*
*
*
……朦朧としていた意識が、次第にはっきりと覚醒してくる。
ここは……どこ?
私はもう、死んだはず。
私という駒は取り除かれ、この世界で再び目を覚ますことなどなかったはず。
永遠の眠りに、就いたはず――
「――呪神クダン。久しぶりね。無事に死に損なったようで安心したわ」
……そこは、薄暗い地中のような空間だった。
意識の覚醒、自己の認識と同時に、その記憶をベースとした肉体が再構築され、私は五感を取り戻した。
そして目視できた最初の物体は、あまりにも巨大な、世界樹の威容。それが童女めいた声色で話しかけてくるものだから、その正体を察するのはあまりにも簡単なことだった。
「……あっは。御冗談を。あなたの仕業ですね、女王。呪われし愚かな神を助けるだなんて、どんなパラダイムシフトがあったりしたの、かなっ?」
「…………もはやこの枝とは交わることもない、遠い未来で、色々と――ね」
これが、樹木の不死鳥の本体。
この世で最も神に近い、化け物の姿。
或いはシマのシステムの中核を成す、舞台装置だろう――全てに絶望して舞台を去った
「……さっすが伝説の不死鳥様、過去も未来もぜーんぶお見通しなんだねぇ。で、そんなあなた様が死にゆくわたくしめを拾い上げ、はてさてどのようなご要件なのですやら?」
「死んで楽になることを。舞台から逃げることを。赦さないことにしたの。つまりクダン、あんたを死なせないし、逃がさないことにした」
ことにした、などと。
まるで自身がこの世界のルールそのものであるかのような振る舞いをしてくれる。まぁ、実際限りなくその通りで、彼女は彼女の意思によってこのシマの命を自由自在にできてしまうのだけれども。
……そしてそれは、私も同じだったっけ。命を弄んだ回数は、もう覚えておくのも嫌になって、忘却の彼方へ捨て去った。
そうしたらいつしか、捨て去った罪の記憶が私の足元に追いついて、囁き出したのだ。
私達を忘れるなんて赦さない。おまえには罪がある、その命をもって償わなければならない罪がある――と。
「…………あっは。酷いなぁ……それってつまり、生きて苦しめってことでしょ? 死んで楽になることを赦してくれなきゃあ、この苦しみで胸の内を焦がし続けて、きっと魂も焼け爛れちゃうわ。そんな拷問を受けろって、あなたがいうの? こともあろうに、誰よりも先に舞台から逃げ出したあなたが?」
「そう。死んで逃げることを。命で贖うことを。全てを諦めて楽になることで、立て替えようだなんて赦さない。あんたは、生きなきゃダメ。幸せになることを歪に押し付けて自分は消えるなんて、絶対に認めない」
……ズキン、と胸の内が痛む。
クダンは己の胸に手を添えて眉を顰めるも、返す言葉はない。
ラヴィアの言う通り、死によって何かを償おうとしているのは確かだった。
そして。
それは全てを諦めて楽になろうとしていることと同じであると――
そんなつもりは毛頭なかったはずなのに。けれど思い返せば、その通りだったと思わないでもなくて。
でも、じゃあ。
この命で贖うより他に思いつかない罪に対して、他にどうすればいいというのか。
「――簡単なことよ」
内心の葛藤を見透かしたように、ラヴィアは告げる。
「ちゃんと最後まで戦いなさい」
「…………」
「勝って全てを壊すことになっても。負けて死ぬことになっても。どんな結末でも、責任をもって、最後までやり切りなさい。これはあんたが始めたゲームなんだから。無責任に全部投げ出して、勝ちも負けも選ぶことなくゲームを降りること以上に、あんたの犯してきた罪への――奪ってきた命への冒涜なんて、ありはしないでしょ」
「…………ッ……」
…………そう。
これは、……私の始めたゲームだ。
……ただ、みんなに幸せになって欲しかった。
シマは、たったそれだけの、……ささやかな願いから生まれたゲーム盤だった。
なのに私が、たった一つの間違いを犯して……それを、取り返そうとして、犠牲を重ねて、間違いを重ねて、……罪を、重ねたから…………気付いた頃には、取り返しのつかない世界になってしまった……。
ほんの一雫。広大な砂漠に落としてしまった、小さな水の粒。小さな過ちだったはずだ。気にすることなど、何もなかったはずだ。なのに。なのに。その小さな傷跡がどうやっても……、……無かったことに、ならなくて。
「最愛の友であったアトリィを失って、あんたがシマを去ったあの日から、輪廻の歯車は歪み始めたわ。ウグメは未来でその力を大幅に弱めて、支えを失った箱庭は少しずつ、終わりに向かって動き始めた。あんたが戻らなきゃ、歪は死ぬ。誰も幸せになれない。あんたを欠いたあのシマに、未来なんて――ない」
「…………。……なんで? シマを終わらせるのは、キミじゃないか。輪廻を支配する不死鳥、【
「ラヴィアが関与するのは、シマの終わりじゃなくて星の終わり。世界の終焉。シマの破滅なんて、その余波に過ぎない。ラヴィアが何をしてもしなくても……ううん、何もしないからこそ、より凄惨な終わりになることもある。大人しくラヴィアに喰われていた方がマシだったと誰もが後悔するような――赤き月の昇る、残虐な夜の宴が開かれることだって……」
「……分かんないよ。……そんなの知らない。私が知らないことなんてあるの? このシマに? あっは! 馬鹿馬鹿しい、誰が信じろっていうの!? そんな与太話をさぁ! グメちゃんの力が弱まったのは知ってるよッ、でも、その上でニンゲンは呪神に勝てないッ! あなたの関与しない破滅なら、メロちゃんも、ヨハネも、みんな黙ってないわ! みんなが阻止する! 呪神でも止められないような厄災なんてこの世界に――」
「ある」
ラヴィアは、断言する。
「あるわ。ウグメが死に、一部の不死鳥を除き、全ての命が潰える夜が、シマにはある。それが可能な存在が、あのシマには潜んでいる」
その夜を迎えさせては、いけない。
二度と繰り返してはならない。
そのためにクダンは、戻らねばならないと――ラヴィアは告げる。
それは多分、あの『オバケ』と関係があるのだろう……。
確かにあれは正体不明だった。表面を覆った呪詛はシマ由来で、力の源泉は地中深くに眠る女王の、負の感情によるもので間違いない。けれどそれはあくまでも表面にへばりついた外装であり、中身の出自が、まるで分からない。人間でも動物でも、ない、どこから来たのか、どうやって生まれたのかも分からない……得体の知れない、ナニカ。
今回はウロノスが斬ったけど、恐らくアレは、ヒトの手に余る……。
しかし。
「……私はね。気まぐれに戻ってきただけで、もう既に部外者なんだよ、ラヴィア。観覧席でポップコーンを食べる気力もない。今のゲームマスターはキミだ。まだ続けるなら、キミがやりなよ。私は疲れた。……もう、…………疲れたんだ」
クダンは、そう言って首を横に振る。
今更シマには戻れない。どの面を下げて戻れというのだ。
できない。戻りたい。だけどもう……戻れない。私の帰る場所なんて、……。
「…………そ。ま、そう言うと思ったわ」
するとラヴィアは存外、そこまでの態度を一変させ、すんなりと身を引いた。
呪神クダンの心が疲弊していることは分かっていた。そのほとんどが自分のせいであることもまた同様に。
だから、無理強いはできなかった。
いったいどの口で彼女の着席を強要できようか。今度こそ、この狂った舞台を去ろうとしているところを呼び止めて、誰より盛大に舞台を狂わせた張本人がいったい何様のつもりなのか――。
でも、ラヴィアからすれば、それだってお互い様。だって、だからこそこのゲームが始まったのだから。
「――私達はお互いに憎み合う関係で。それはきっとこの先も変わらないわ」
「……」
だけど、けれど。
ここではない遠い遠い枝の先で、呪神ウグメはその命を、存在を懸けて歩み寄った。
そして起こるはずのない小さな奇跡の種を掴み取り、希望はあるのだと示してくれた。その小さな奇跡に、ほんのささやかなチャンスをあげて欲しいなんて頼まれたけど、そんなの、聞き入れるまでもない。
だってそれはラヴィアにとって何よりも大切で、何よりも特別なモノ。それを受け取ったなら、ラヴィアにはもう、破滅の引き金を引くことなどできるはずもない。
その、ウグメへの借りを、まだ返したとは思っていない。
借りは必ず返す。それがきっと、二度と還らぬ、枯れた世界樹の枝先にその身を沈めた、あの愚かな呪われし神への手向けとなるだろうから。故にラヴィアは、自ら去りゆく忘れられし神を呼び止めた。
これを離せば二度と上がれない、蜘蛛の糸を差し出した。
「あんたは、あんただものね。戻らないなら、それでもいい。代わりに一つだけ、妥協案を提示するわ」
「妥協案? あっは。この星の支配者様の妥協案だなんて、どんな高望みが飛び出すの、かなっ」
「シマに、あんたの代わりとなる駒を一つ、置く」
「…………」
上位なる者の、世界への干渉を行う手段の一つ――駒。分身。物語を観測するための偵察衛星。見方によっては呪神という存在も、外なる神々がこの星に干渉を行うために配置した駒である。
本来はいなかったはずの人物を盤上に並べる歴史改変規模の理外術であり、不用意に使用すれば間違いなく、世界全体に深刻なダメージをもたらすだろう。しかしウグメの結界により外界から断絶されたシマの内側に限れば、ほぼリスク無しでの行使が可能だ。無論、上位なる神々の力をもってすれば、という前提は消えないが。
「置いてもいいけど、私は触らないよ?」
「構わないわ。あんたは、見ているだけでいい。その駒の、失われるまでの間。ただ見ているだけで――ね」
「…………それだけ?」
「どうせ死んで、消えてなくなるつもりなら……今際の際にちょっとした娯楽に付き合うくらい、別にいいでしょ?」
「……まぁ。それくらいなら……別にいいかな」
その言葉を同意と解釈すると、ラヴィアの体から青白い光の粒が無数に浮かび上がり、それは一つのヒトの姿となって空高くに昇っていく。
呪神クダンのための、代わりの駒。それは果たしてどのような人物なのか。ラヴィアの思惑に乗るのは癪だが、少しだけ興味は引かれた。
「私の代わりの時点で、ろくな駒じゃないでしょ」
「触りたくなったら、いつでも触ってどうぞ」
「そんなこと言ったら、唐突に神の神託ご都合パワーでシナリオを滅茶苦茶にしちゃうかも知れないかなーっ?」
「きっひひひ……それもまた一興。ぜひ、見てみたいわ。あんたの描く理想の夢」
「…………あっは」
クダンは、呆れたようにため息をつき、座る。
何もない空間で座るというのも奇妙な感覚だが。そう意識した時、まるで背中に、舞台を見上げる観覧席があるように感じられた。
見ているだけ。
見ているだけだ。
ラヴィアの口車に乗って、この物語がどんな終わりに至るのかを、新たな駒の視界から、興味本位で見届ける。それだけ。
あぁ。
でも。
分かってる。
自分が一番、よく分かってる。
私はきっと、手を出すことになるだろう。
私がそういうやつだってことは誰よりも一番――私がよく分かってる。
ラヴィアも、それが分かっててこんな妥協案を提示したのだ。
ああ、腹立たしい。
感謝なんて、絶対、絶対に――口になんかしてやらないんだから。
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