第30話

単純な見方をすると『オーガの美丈夫がエルフの王女をさらった』……“それ”でしかありませんでしたが、実はこの事はオーガの美丈夫である【緋鮮の覇王ロード・オブ・ヴァーミリオン】自身が立てた“演出”にして“計画”であった事が知れたのでした。

そうした事を歓談の中で知っていくシェラザード……

すると、その最中さなかに―――

「―――どうやら、戻ってきたようだな。」

「(あ……)ヘレナ―――」

「一応、“ゴミ処理”は終わらせてきましたよ……我が主マイ・マスター。」

「それで―――?成果を聞こう……」

我が主マイ・マスターからのお言い付け通り、この国の“悪徳”の象徴と言える『伯爵』『内相』『財相』『男爵』『侯爵』『豪商』共の“生命の通貨”を頂いた、ま、“味”の方については不味い事この上なかった事言わずもがなだが―――あの王国の『国王』のまでは、頂かなかった……」

「(えっ?)それでは、私との『誓約ちかい』と―――」

「申し訳ないが、は出来ないんですよ―――我が主マイ・マスター。」

「なぜ―――?どうして―――?国王おやじは確かに、私のお父様ではあるけれど“連中”と結託して庶民の皆を……」

「(……)―――で、我が主マイ・マスター自身、王家とのしがらみを断とうと?」

「(!)そうよっ―――!だって……そうしなければ―――……」

出来ないんですよ――― 一応ねぇ、“神輿象徴”とは言えいなければいないで困る―――またあのダーク・エルフの姫サンはそれこそ虎視眈眈と狙うだろうしねぇ……。」


王国に巣食う“身中の蟲”を平定たいらげてきた―――と見えたヘレナ……

そこでシェラザードは『この“機会”』にと思っていた計画の大半が達成できた事を知るのでしたが、たった一つだけヘレナは『国王』であるセシルの処分は見送った―――事も知るのです。

それをシェラザードは、自分との『血の誓約ちかい』で交わした事を「反故ほごにされた」―――と、思うのでしたが、同時に語られたヘレナの“さとし”に、なんと―――

「なるほどな―――なぜ貴様が王女と『誓約ちかい』を交わしたか、これで得心とくしんが行った。 、『彼女』から貴様に最初に下りた“大きな命題”なのだな。」

「ま―――そう言う事になりますかね。 これで一番おっかないあんたからの“信”も得られたようで、“オレ”としちゃ胸を撫で下ろしてますよ。 てなわけで、この後もきっちりと『お付き合い』―――願いますよ、我が主マイ・マスター。」


なんだか良く判らない表現で煙に撒かれた……としか思う外おもうほかはないシェラザード。

確かに、ヘレナとの『血の誓約ちかい』の大部分―――それが、シェラザードの“願い”……この王国に巣食う『悪徳』―――『身中の蟲“連中”』の粛清、これは自分の父である国王セシルも視野には置いていたのでしたが、“国王セシル”の処分は見送った―――

この事自体は、シェラザードも感じていたように『違約』にも触れることなのでしたが…


ならばなぜ―――ヘレナは、国王セシルの処分を見送ったか……

その理由を、なぜか【緋鮮の覇王ロード・オブ・ヴアーミリオン】は知っているかのようだった……


その事が判る一言に、【緋鮮の覇王ロード・オブ・ヴアーミリオン】自身がうそぶいていた『彼女』なる存在……


今のこの時点では、いまだ知る由すらない―――『彼女その存在』……


ただ一つ言えたことは、この二人は『彼女その存在』の事を知っており、どこか“従って”いるかのようにも思えた……

その事以外では、何も判らないではありましたが―――……


この事が、この後のシェラザードの運命を左右することになってこようとは―――……



#30;ウタ    ゴエ



閑話休題それはさておくとして―――【緋鮮の覇王ロード・オブ・ヴアーミリオン】によりマナカクリムへと戻ってきたシェラザードは……


「シェラ―――!」

「(―――……)クシナダ……」


あんなにも、嫌っていたのに―――

あんなにも、一人の異性を巡り、激しく火花を散らし合っていたのに―――

強く抱き付かれてしまった―――……


それは永の、友との別離わかれからの再会を、喜んでいるかのようだった―――


そして………………


「なんだよ……泣くんじゃないよ―――ああ…もう……こうなる事が判っていたから、そんなに仲良くなりたくなかったのに―――」


その言葉が漏れた途端、女性エルフとヒト族の女性は……


互いに抱き合いながら―――  互いの友情を確かめ合いながら―――   声を上げて泣いたものでした。


そして一頻ひとしきり泣いた後―――


「皆には迷惑かけちゃったね―――それにシルフィ……あんたには私の『身代わり』としてのお役目、本当にご苦労様。」

「いえ、お蔭で私も庶民では知ることが出来なかった王女あなた様のお悩みが知ることが出来、良い経験になりました。」

「それはそうと、“ゴミ処理”の方は終わらせたのですよね?(ムヒ?) この後の処置はどうするおつもりなのです?(ムヒヒ?)」

「ああ―――うん……そこなんだけどさあ、どうやらおやじのヤツは生かされたみたい……だから……私も、『王女』としての役割は、終わっていない―――のか、なあ……。」

「シェラ―――では、また戻らないといけないの?」

「どうなんだろ―――??そこんところは……ほら、こちらの方、【緋鮮の覇王ロード・オブ・ヴアーミリオン】様にさらわれてきちゃってるから……ね?」

「なるほど(ムヒ☆) オーガであるこの方に、騒動決着の報酬として『王女』の身柄を貰い受けられた……と。(ムヒ) あなた様が描いていた“勝算”とは、まさにそこに在ったわけなのですね。(ムヒィ~)」

「ああ―――そう言う事だ……だが、現場には“顔見知り”がいてな、予断を許さなかったのは確か―――なのだが……」

「『あなた様の顔見知り』……そこの処は興味の尽きぬ処ではございますが―――   取り敢えずの処は……でしょうか。(ムヒッ♪)」


今回の、これまでの経緯を知り行くのでしたが、【黒キ魔女】と【緋鮮の覇王ロード・オブ・ヴアーミリオン】との会話の中に、彼女達にしか知り得るべくもない事実のみが話された感じしかしなかった……事実、その部分を語られたところで理解が追いつかず、更なる混乱を招きかねないようではありましたが……


ふとした処で―――


「あれ?そう言えば―――ヒヒイロカネは?」


自分達の仲間の一人である【赫キ衣の剣士】の男性の姿が見えなかったので、それを口にした―――だけ……


すると―――……


「そう言えば、知らないのだったな―――ならば交代するとしよう……」


そう、オーガの英雄―――【緋鮮の覇王ロード・オブ・ヴアーミリオン】が口にすると、立ち処に炎が席捲をし一転して“女性”から“男性”へ……


「ええええ~~~っつ?!【緋鮮の覇王ロード・オブ・ヴアーミリオン】様が、ヒヒイロぉ??」

「……ああ―――オレとクシナダは、この体内に流れる血に“鬼”の成分が少しばかり混じってるんでな。」

「はああ?!クシナダも―――?」

「私の母様と、ヒィ君のお母様は【緋鮮の覇王ロード・オブ・ヴアーミリオン】様とPTを結成させていた折、その生命が危うくなった時に【緋鮮の覇王ロード・オブ・ヴアーミリオン】様のオーガとしての血を受け入れたのです。 けれど……そのお蔭で魔王ルベリウスは討伐出来たものの、故郷であるヒト族の都―――マジェスティックからは戻ることを激しく拒絶されてしまって……」

「なにそれ―――!この魔界せかいは、その人達のお蔭で救われたんでしょう?!なのにっ―――……」

「ありがとうよ―――けど、それが“現実”なんだ……」

「(ムヒョウウ~)『不都合な真実』とは言え、偏見は誰しもが持っているものですからねぇ……」


               ~♪―――♪~


「……おや―――?」


「―――“歌”……だ」


「えっ?あ―――ほんとだ……」


「ちょっと待って?もしかして……この“歌”―――」


「ええ、だわ―――!」



一つの物語―――

一つの出来事が、終息へと向かおうとしていた時―――

このタウンに一つの“調べ”が流れてきました……


その“調べ”は風に乗り―――鳥のさえずりの様に、自分達の鼓膜をくすぐったものでした。

それは、初めて聴く者からすれば心地の良い“歌声”ではありましたが―――

元からの仲間達にしてみれば『戻ってきた』と、思ったモノだった…


このクランの、古くからのメンバーであり、その歌声で数多あまたの魔物を鎮めてきた、【歌姫セイレーン】の帰還を……




そしてまた……この事実は―――更なる『冒険譚おはなし』の、序曲でもあると……






つづく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る